死なない術
それは知らない男だった。顔は中の下、服装はボロボロの茶色のコートを羽織っていた。だが、何故この男がタイミングよく出てきたのかを理解していた。だから、その男を思いっきり睨みつけるようにする。
「睨むのはやめてほしい。 奪われるのは弱者の特権であり、奪うのは強者の特権だ」
「その言い方だとこのデスワームもあなたのものなのね」
するどく尖った言い方だった。よほど家族が殺されたのを憎んでいるのだろう。だが、それは理不尽だろう。弱いのが悪いのだから。そして、ゼフは思い出したかのように口を開く。
「そうだ、お前を生かしたのは聞きたいことがあったからだ」
「あなた、あんなことをして私が素直に答えると思ってるの? あなた王族を殺してただじゃ済まないわよ」
「これはやってしまったな」
「?」
「素直なやつを残すべきだったな。 俺が今使える蘇生魔法は俺達にしか使えないものだからな」
(この男さっきから何言っているのかしら? それに逃げる方法は一つしかないわね。 はやく王都に戻ってこのこと報告しなければならないわ。 今感情に任せていたらあのデスワームを使って王都が滅ぼされかねないわね。 ここは慎重にならないと)
「どうした? 何か考え事か?」
「いえ、なんでもないわ。 ただ、さっきあなたが言っていた聞きたいことがあるっていうのは場合によっては答えていいわよ」
(ここは相手にとって私を殺すメリットよりも殺さないメリットを大きくしなくてはならない)
ゼフは少し考え後悔する。
(ああ、こんなことなら洗脳の魔法をしっかり覚えておくべきだったな。 家族を殺されても尚あの精神力ではあの蟲は使いづらいしな)
ゼフはすでに目の前にいる女性が自分、そしてデスワームに敵わないことがわかっていた。だからとりあえずは彼女がどういう立場なのか聞くことにした。
「とりあえず名前と職業を教えてくれないか?」
「その前に約束してほしいことがあるの」
「なんだ言ってみろ」
「それは3つあるわ。 まず、1つ目は私を殺さないこと」
「それはいいだろう。 今は特に興味もない」
「2つ目は私を王都まで護衛すること」
「すまないが1つ聞いてもいいだろうか?」
「何かしら?」
「どうして護衛が必要なのだろうか? その理由を明確にしてほしい」
ゼフが元いた世界では王族や村人であろうともデスワームを倒すことが容易であったため護衛を必要とせず生きてきた。だから、なぜ護衛をつけるのか理由がわからなかった。
「いいわ、答えてあげる。 荒事を生業としていない私を含め大半の者たちは戦う力を持っていないの。 だから私たちを守るために強い護衛を雇うというわけ」
「そういうことか、やはり違うな。 それで、3つ目はなんだ?」
「3つ目は王都と住んでる人たちに危害を加えないこと。それが条件よ」
「わかった、守ろう。 ただもし提供する情報が嘘だった場合その約束は守ることができない。 十分に発言は注意する方が身のためだ」
「わかったわ」
(結局のところ口頭での約束を守るはずもないだろ。 護衛はしてやる)
「俺が聞きたいのはこの世界のことだ。 それと名前と職業教えてくれ」
「いいわ、私の名前はアリシア、職業は王族よ。 貴方の聞きたいことってどんなことかしら?」
「とりあえずこの世界最強の攻撃魔法を教えてほしい。できれば詠唱時間と必要魔力もだ」
「そんなことでいいなら容易い御用よ。 最強の攻撃魔法はディザスターキャノンよ。詠唱時間は短く1分で発動可能で必要魔力は一流の魔導士なら5回は撃てるわ。 他に聞きたいことあるかしら?」
ゼフはアリシアに見えないように笑っていた。ディザスターキャノンそれはゼフが元いる世界では攻撃魔法としては下の上レベルであり、範囲魔法としては下の下というほとんど使われない魔法だった。そんな魔法が最強なら世界最強にすら簡単になれると感じてしまう。
「とりあえず王都に向かいながら聞こうか」
「ええ、わかったわ」
ゼフは右手を上げ叫ぶ。
「デスワーム、俺たちに敵意を向ける生き物を全て排除しろ」
そう言うとデスワームはその命令に従って動き始めた。