侵略開始
(予想はしていたが、魔族もこの程度か)
ゼフはそんなことを思いながら、自分の予想があっていたことを喜ぶ。
「所詮は勇者に恐れを為して攻められない種族だ。 期待はしていなかったが、後は魔王がどれくらいかだな」
ゼフはシルヴィアを見るが、やはり反応はない。
「これには反応なしと…… おそらく壊しすぎたと予想するが、果たしてどうなのだろうな」
ゼフは少し考えた後、口を開く。
「それにしてもこいつらがデスワームに喰われたのに街の中の奴らは誰も気づかないとは…… 流石に危機意識が欠けすぎだろ……」
デスワームを見ると体の中で今さっき喰われた魔族達が蠢きながら胃に運ばれるのがわかる。それを確認し、ゼフは再び命令する。
「デスワームよ、街の中心地に向かい、俺が止めるまで破壊を尽くせ」
デスワームはその命令を聞くと、ゆっくりと地面に潜っていく。その大きな体が見えなくなったが、集中すると中心地に向かっているのがわかった。
「さて、俺らは街に入って殺しを楽しむか」
ゼフは王都の一件から派手に殺すようなことは避けてきた。だが、今回はそんなことを気にしなくていい。それにSSランクになることもほぼ確定している。
「だが、逃げる奴がいるかもしれないから、念を入れさせてもらうぞ」
ゼフがそう言うと地面の中で蠢く、1000体近くのデスワームが街から逃げるものを殺すように行動を開始する。
「さて、準備は整った。 行くぞシルヴィア」
「わかったわ」
そう言い、ゼフ達は短いトンネルのような入り口を進んでいく。中は暗く、少し明かりが灯してあるだけだ。通った先には街があり、魔族達も気づいてないのか普通にそこら中を歩いている。
「すごいな、聖都や王都なんかよりも立派じゃないか」
ゼフは魔族達の技量に感動を覚える。魔族達はそんなゼフ達を足を止めて凝視していた。
「え⁉︎ 嘘……あれもしかして人間?」
「なんでこんなとこに人間がいるんだ?」
「なぁ、お前なんか声かけてみろよ」
魔族達は好奇心の目で見ており、色々と言われるが何もしてこない。そして、魔族の1人が侮蔑の目を向けながらこちらに近づいてくる。
「おい、人間」
「なんだ?」
そう答えると見るからに機嫌が悪くなり、怒声を上げる。
「人間ごときがなんて口利きやがる! 俺達は魔族だ! わかっているのか!」
「当たり前だ」
「とりあえず仮面を取れ。 そこからお前達がどうなるか俺が決めてやる」
ゼフは仮面を素直に取ると、その魔族はニヤニヤと笑顔を浮かべる。
「俺達がその程度でお前達の匂いがわからないとでも思ったか? とりあえず俺のおもちゃになってもらおうか」
魔族が笑いながらそう言うと、後ろの魔族達も同じようにこちらに笑いを向けてくる。
「ところで、外の連中の心配はしなくていいのか?」
「ふん、奴らは甘いからな。 お前が高価なものを渡せば通すことだろう。 所詮はその程度ということだ。 だが、俺は見逃さない。 さて、もう1人の人間仮面を取れ」
ゼフはなんて愚かなやつだと思った。少しは頭が回ると思ったが、そんなことはなく、ただ人間をバカにして楽しんでいる。これから起こることも知らないで。
「所詮は存在すらしなかった下等種族か」
「なっ⁉︎ なんだと貴様! 人間如きが魔族を下等種族だと!」
「ああ、そうだ。 なんたってお前らはたった1人の人間に滅ぼされるのだからな」
魔族達はそれを聞いて笑う出だす。
「何を言いだすかと思えば、ククク。笑いが止まらないな。 俺達はお前の妄想に付き合って……」
魔族がそれを言い終わる前に街の中心から爆発音のような音が響く。魔族達は全員振り返り、そちらを見ている。そこにはデスワームが地面から勢いよく飛び出し、暴れていた。
「な、なんだ⁉︎ 貴様の仕業か!」
「そうだが、それがどうした」
「貴様! お前はもう殺す」
魔族は腰につけてる剣を抜く。どうやら怒りで頭に血が上ってしまっているようだ。だが、こちらに向かって来る前に他の魔族が叫ぶ。
「お、おいあれってデスワームじゃないのか!」
「何?」
剣を抜いた魔族はそれに反応し、戦いの最中だというのに後ろを向く。
「やっぱりそうだデスワームだ! 災害級の魔物の!」
「逃げるぞ! 奴には勝てない」
他の魔族は逃げようとするが、この人間がデスワームを召喚したなら最終的には倒さなければならないだろう。そして、逃げるとしてもゼフの後ろの扉からしか街から抜け出すことはできない。そんな中、剣を抜いた魔族は叫ぶ。
「何を怯えている! この街には魔王様もいる! デスワームの1体、2体なんてことねぇ!」
魔族は剣を構え、ゼフを見据える。
「だが、この人間はこの俺が始末してやろう。それで退路はできる」
そう言うや否やこちらに突っ込んで来る。その動きは早く、冒険者で言うところのSランクのレベルはあっただろう。だが、相手が悪かった。
「消えろ雑魚が」
そう吐き捨てるとゼフの腰から6体全ての操蟲が魔族に向かって飛び出し、魔族は避ける間も無く肉塊になる。
「雑魚に用はない。 さて、お前達も理解してくれたかな?」
魔族達は事態を理解する。自分達はとんでもない人間に目をつけられたと。魔族達は先程とは打って変わり、恐怖でその場から動けないでいた。
「怖いか? 安心しろ。 何もしなければ今は殺さないでやる」
魔族達はそれを聞き、心の中でそれが行われるよう、ただ祈るだけだった。




