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災厄の蟲使い 前編  作者: トワ
仲間
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化け物

ゼフは蟲達に戦闘態勢をとるように言葉を発さずに指示する。そして、厄介な能力を持つインスを見据える。


(まさか嘘がわかる能力をインスと言う勇者が持っているとはな。 ということは大体のことがバレてしまっていたわけだ。 先に殺しておくべきだったな)


ゼフはその能力の厄介さを知っている。今回も少々油断したが、ここにいる者達しかゼフについて知らないようなので、ここで消せば大丈夫だろうと考えていた。


「さて、勇者達よ。死ぬ前に何か言い残すことはないか?」


キールは上手くゼフの本性を炙り出す事ができたことを喜ぶが、侮れない相手だと感じる。そして、もうわかり合うことはできないのかと悲しく思う。


(いや、決めていたはずだ。こうなった以上殺すしかない。 それにしてもインスの嘘を見破る能力を持ってるという嘘を信じるとは思わなかった)


「1つだけある。 きちんと罪を償わないのなら、ここで僕達が代わりに君を倒し、罪を償わせる! そして、今までお前が殺した人達の報いを受けろ!」


キールがそう叫ぶが、ゼフはつまらなさそうに口を開く。


「少し遊んでやる。 攻撃は先に譲ろう」


「随分傲慢だな」


キールはそう言うと、次の瞬間勢いよく飛び出しゼフの目の前に一瞬で近づいていた。


「だが、それがお前の敗因だ」


剣を勢いよく振り下ろす。召喚士であるゼフはそれで倒せると思っていた。しかし、剣はゼフの体を弾かれる。何事かと思ったが、一旦距離をとる。


「残念だが、君達は召喚士の能力を理解してないみたいだ。 俺なら300m以内にいる蟲達が俺が受けたダメージを肩代わりしてくれる」


ゼフがそう言うと、腰の方から操蟲を出していく。それが次々と出てきて左右3体ずつの計6体になった。


「「「「「「キキキキキキ」」」」」」


操蟲達は奇怪な声で鳴き叫び、勇者達に威嚇する。


「インス、アレックス同時攻撃だ」


「ああ、わかった」


「ええ、そのつもりよ」


ゼフとアレックスは再びゼフに詰め寄る。その速さは今まで見てきたどんな冒険者よりも早い。そして、インスは後ろの安全な位置から魔法の詠唱の準備に入っていた。


「その程度で勝てると思うなよ。 相手してやれ操蟲」


操蟲はキール達が振り下ろした剣や大剣をその硬い甲殻で弾く。だが、キール達は懲りずに再び別の角度から幾度も剣や斧を斬り込む。だが、それも全て弾かれてしまう。


「アレックス一旦下がるぞ!」


「ああ!」


「インス! 今だ!」


「待ってたわよ! ――ディザスターキャノン――」


インスが魔法を発動させると、この世の終わりを思わせるほど強烈な光がゼフに降り注ぐ。キール達はアヴェインとシルヴィアを抱えそこから全速力でそこを離れ、建物の残骸に隠れる。その後キールはゆっくりと口を開く


「アヴェイン、シルヴィア安心して終わったよ」


「今回も同じ作戦で勝っちまったな。 なんか面白みがないな」


そう話していると、大きな砂煙を避けるようにしてインスが近づいてくる。


「あの魔法で生きてたらそれこそ私達が束になって、やっと勝てる化け物よ」


ディザスターキャノンは最強の範囲攻撃魔法で直撃を食らえば災害級の魔物や勇者でさえ1撃で倒すことができるほど強力な魔法である。だが、欠点としては1分近い詠唱時間と莫大な魔力を消費することである。たとえ肩代わりができたとしても無事では済まないだろう。


「さて、とりあえず帰ってこの事を報告しなきゃね」


「ああ、そうだな」


「は〜せっかくのいい男が勿体無いわ〜」


勇者達はすでに祝勝ムードだ。 そして、そんな彼らを見ながらアヴェインがシルヴィアに手を繋ぎ話し始めた。


「君は僕が守るよ何が何でもね」


男の決意を表す言葉。そう思ったのもつかの間、声がかけられる。


「そうだアヴェイン。 シルヴィアは何が何でも守れ」


「⁉︎」


ふと声が聞こえ、勇者やシルヴィアは驚く。額に嫌な汗が流れる。そして、砂煙の方を見ると影が少しずつ近づいてきて、傷1つないゼフゼフの姿があった。


「嘘でしょ⁉︎ あの魔法で無傷ですって!」


インスは発狂に近い叫び声をあげる。砂煙が消えると、100m近いクレーターができており、それを確認するやいなや勇者全員の警戒信号が響き出した。


「残念だが、下級魔法なら傷1つ付かない。 それならデスワームを召喚した方が幾分かマシだ」


勇者達は絶句する。だが、流石は勇者と言ったところだろう、行動をすぐに移す。


「インスは詠唱! アレックスは俺と一緒に行くぞ!」


「残念だが、お前達の番は終わりだ。 次は俺の番だ」


ゼフはそう言うと足元に2つ、30mを超える巨大な魔法陣が現れ、割れる。そこには王都を滅ぼし、殺戮の限りを尽くしたインセクト・ドラゴンが2体も立っていた。


「あれはやばいわキール!」


インスは危険を察知し、叫ぶ。


「ああわかってる。 それでもこいつを…… この化け物を殺さなければ人間が危ない。 それにほかのの種族だって……」


キールは恐怖しながらも、なんとかして口を開いていた。


「なんだわかってるじゃないか。だったら1ついいことをしてやる ――ロック――」


「なんだ⁉︎ 体が重く……」


インスを除く勇者達は自分の体が重くなっていく感覚に襲われる。


「相手の全能力を2割減らす魔法だ。 ちなみに重複可能だ」


そう言いながら、更にロックの魔法をかける。


「くそ、体が動かない」


キールは動かない体に悲痛な言葉を呟く。


「キールどうする?」


そう言われると、キールは目を瞑り口を開く


「本当にすまない。僕が頼まなければ……」


アレックスはその言葉に笑いながら答える。


「安心しろ。死ぬときは一緒だ」


「くらいなさい!この化け物!」


インスは再びディザスターキャノンを放つ。だが、それもインセクト・ドラゴンに吸収されるようにかき消される。

インスはそれを見た後、魔法をかけられ他の勇者同様にその場に倒れこむ。


「やはり勇者と言ってもその程度か」


(期待はしていなかったが、噂だけの奴らだったな。たしかに速さといい、攻撃といい奴らはこの世界では勇者にふさわしい能力かもしれない。 だが、相手が悪かったな」


「インセクト・ドラゴン勇者を殺せ」


そう言うとインセクト・ドラゴンは片足をあげる。そして、勢いよくインスを踏み潰した。そして、もう1体のインセクト・ドラゴンはアレックスを踏み潰す。ゼフはキールに近づく。そこでキールが問う。


「お前の目的はなんだ?」


「俺の目的か。 そうだなまずは最強の冒険者になる。 次はそうだな世界征服でもやってみるか?」


冗談めかし笑いながら話す。


「フッ、いつかお前は負ける。その時もお前は今のような余裕が保ってられるか、化け物め」


それだけ言うとキールはインセクト・ドラゴンに慈悲なく踏み潰された。


「負けるか…… そうだなだいたい4桁は今までで負けているが、生きている。 覚悟が違うんだよ。 それに俺はお前が思っているほどの化け物じゃない」


それだけを言うと、ゼフはシルヴィアとアヴェインに近づき命令する。


「アヴェインお前はここで死ね」


そう言うとアヴェインは元気に返事をし、躊躇なく首を剣で掻っ切り倒れる。血が飛散する中、シルヴィアはそれを見て叫び涙を流す。


「殺しなさい…… 私にはもう何もないわ」


ゼフはそんな状態のシルヴィアを見て、ある蟲を召喚する。


「来いパラサイト」


出てきたのはイソギンチャクの触手型の手の平ぐらいの大きさの蟲である。そして、出てきたと同時に透明になる。


「シルヴィアに寄生しろ」


そう命令すると、パラサイトは首の後ろからシルヴィアの体内にはいりこむ。そして、シルヴィアは先程の態度とは打って変わって元気よく立ち上がる。


「絶望の値が大きいとこれだけ早く寄生できるのか。 やはり使い所だな」


ゼフは感心すると同時に予報士が手に入ったことに喜ぶ。


「とりあえずシルヴィアには予報士について聞かせてもらおう。 これから色々調べさせてもらうぞ」


ゼフはシルヴィアをつれて、街に向かい歩き始めた。




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