王都
次の日の朝、勇者達はテントなどを片付け、出発する準備をしていた。あまりの森の静けさに違和感を覚えつつ、30分ほどで全員の準備が整う。
「みんな準備はいいかい?」
キールがそう言うとその場にいる全員首を縦に振り、そのまま進み出した。昨日の予報からかシルヴィアの顔色は悪い。
(あの予報は本当かしら? 本当だとしても最低回避条件がわからなかった……)
そんなことを思いついつシルヴィアはゼフではない人物を疑っていた。それは勇者である。勇者はとてつもなく強く、デスワームを1対1でも倒すことができる。だが、ゼフはどうだろう。疑ってはいたものの、彼の今までを見てきて勇者3人に勝てるとは到底思えなかった。
(ということはもしかして勇者の中にいる?)
同じ仲間の勇者を1人1人見て不安になる。もしかしたらガランとエリックが死んだことも勇者の仕業かもしれないと彼女は思い始めていた。今の彼女にとってはアヴェインだけが唯一信頼できる仲間であり、助けを求めれる存在であった。シルヴィアはアヴェインの方を見ると昨日ゼフが紹介した新しい蟲を撫でていた。
(アヴェイン何してるの! ほんとよくこんな状況で触れるわね。 それにしてもアヴェインに伝えることができなそうね。 どうしましょう……)
シルヴィアはそんな呑気なアヴェインを見ながら、頭を必死に回転させる。
「それにしても操蟲ってすごいな。 背中にひっつくんだからな」
アヴェインは子供のように興奮しながら感想を述べる。
「ひっつくところはどこでもいいんだが、ここが一番邪魔にならないからな」
「キキキキキキ」
操蟲は嬉しそうに鳴いている。
「いや〜かわいいな本当に。 今まで毛嫌いしてたけどこれはこれでいいな」
「蟲達はこちらから負の感情を抱かなければわ基本攻撃はしないからな。 むしろ人よりもずっと信頼できる」
「そうなのか? それは知らなかったな。 でもやっぱりいい印象を持たないよな」
「それは仕方ない。 それが人という生き物だからな」
ゼフは1つ嘘をついた。蟲達は感情によって攻撃を変えるわけではない。蟲は基本自分と同じ種族以外は敵だと認識している。そんな嘘をついた理由はアヴェインの中にいるある蟲を悟られないように必死に隠す為である。そして、ゼフとアヴェインは話題を変えて再び話し始めた。一方その頃、離れた位置にいるキールはとあることを聞き、驚き聞き返していた。
「インスどういうことだ?」
キールは聞こえないように小声で問う。
「おかしいのよ。 ゼフと戦った時かけていた魔法の効果が全て消えてたのよ」
「それはつまり何かされたってことかい?」
「ええ、大体はわかったわ。 魔法で逆に効果を消されたのよ。 でもね、生活魔法の効果も消えていたのよ。そもそも鎧の見た目を花模様に見せるために幻覚の魔法を使っていたの。 それは特に戦闘で役に立たないって子供でも知ってるのに消えていたのよ」
「つまり、彼はこの世界の生活魔法までも脅威とみなし、警戒の意味を込めて魔法を消したということかい?」
「多分そうだと思うんだけど、なにか引っかかるのよね」
「考えてもわからないものは仕方ない。今は彼に注意するしかない。 それに、そんな子供でも知ってる魔法にも警戒するならハッタリが使えるかもしれない」
「それもそうね」
勇者達は話を終えると、再び真っ直ぐ向き歩き始めた。
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魔物が出てこないおかげで森をあっさり抜けることができた。目の前には王都が見えるが、その光景は予想を遥かに超えるものだった。
「どういうことだ……」
キールは絶句する。他のメンバーも驚いて声が出ない。最初にアレックスが何かに気づき口を開く。
「なぁこの足跡ってまさか……」
「ドラゴンのようだね」
キールのその言葉にゼフ以外の者達が全員驚く。
「ドラゴンってそんな強いのか?」
ゼフが問うとキールは振り返り答える。
「ああ、ドラゴンは災害級の魔物だからね。 でも、王都の魔導士は災害級の魔物5体程度なら勝てるぐらいの実力者がいたはずなんだが……」
「見た限りそれ以上が来たと考えるべきね」
壁は崩れ、家はほとんど崩壊し、城は潰れているのがどれだけの化け物が来たかを物語っていた。
「とりあえず王都の中に入って現状を調べよう」
キール達は王都にると不可能に近いが、生存者がいるかを探し始めた。だが、1時間以上探しても思っていた見つからなかった。再び全員集まると、キールが話し始める。
「生存者は予想はしていけどいなかったようだね…… だけど、この現状を知ることをできたのはでかい。すぐに聖都に戻って報告しよう。 でも、その前にゼフ」
空気が凍りつく。昨日キールが言っていたことを実行する気だとこの場にいる者達は悟る。シルヴィアは現在もアヴェイン以外の者を怪しみ、誰を信用していいかわからない状態である。
「なんだ?」
「僕達に隠してることあるよね?」
「隠してることだと? 何もないと思うが?」
「それじゃあなぜ今まで森に行くたびに襲ってきた魔物が今回に限って襲ってこなかったんだい?」
「運が良かっただけだろ」
「それにしては森でもほとんど出会わなかったよね? どうしてかな? あそこの森は頻繁に魔物に遭遇するはずなんだけど」
「それもたまたまだろ?」
「もしかして王都をこんな風にした魔物を急いで隠したから森の魔物達は隠れたんじゃないかな? それか、そもそも森の魔物は狩り尽くしたとか」
「それも――」
「もういい!」
アヴェインが感情的になり叫ぶ。
「本当のことを言え! ガランとエリックもお前が殺したんだろ! ゼフ!」
「俺ではない」
「残念だけどゼフ。 インスの能力の中には嘘がわかる能力がある。 今まで黙っていたのは謝るが、ここが最後のチャンスだよ」
「そうか…… そんな能力を持っていたのか」
「罪を認めろ、そして牢獄で罪を浄化することを誓え」
「失敗だ」
「?」
ゼフは仮面を取り笑う。
「今までの計画は失敗だ。 計画の第2プランを実行しなければならなくなった」
キールは本当はゼフのことを少し信じていた。しかし、正体を表した今、勇者達は各々の持っている武器を構える。
「残念だがお前達には消えてもらう」
その言葉を聞いてシルヴィアは絶望する。どうしてあの時勇者に予報のことを言わなかったんだろうと。




