森の中
ゼフ達は森に入って1時間経つが、未だ魔物にも会わず安全に進めていた。この森でシルヴィアを絶対に殺させない。そもそも普通の魔物なら蟲達を見たら逃げ出すだろう。ゼフはあることをキールに聞く為に口を開く。
「王都まで後どれくらいなんだ?」
「多分後1日ぐらいじゃないかな?」
「そんなにかかるのか?」
「まぁね、ここらへんの魔物は多いし凶暴だから、慎重に行ってるんだ。 だから、それぐらいかかるんだよ」
「そうか、それは仕方ないな」
(今思えばこの森の魔物は蟲達が狩り尽くしたんじゃないのか? だったら、もしかしたら予定よりもはやくつく可能性が高いな)
それから2時間ほど経つ。キールはゼフを見つめ今まで抱いていた1つの疑惑が確信へと変わりつつあるのを感じる。
(今までこの森でデスワームに襲われ行方不明になってる人が多数いるが、今回は襲われないな。 やはりゼフがデスワームの召喚主でほぼ確定か?)
キールは他の勇者を見ると同じことを思ったのかこちらを見て、合図している。
(もしかしたらただ襲ってきてないだけかもしれない。 もしも、王都に着くことができたら彼で確定だ。 その時はゼフがすべての元凶か問いただし、罪を認めさせよう)
キールは非常に甘い男であり、確信があったとしても、ひとまず話を聞くというのが彼のやり方である。さらに、自分の能力に過信しており、穏便に事を済ませてきたので死ぬことはないと思っていた。やがて、夜になったのか辺りが暗くなる。
「今日はここで野営の準備をしよう」
「僕たち勇者組はテントを張ろう。 アヴェイン、シルヴィアは飯の準備をしてくれ」
「俺はどうしたらいい?」
「ゼフはインスが話したいことがあるらしいから、そっちを頼む」
ゼフは一瞬インスを見ると笑顔でこちらに手を振っていた。ゼフは別の意味で殺される気がし、背筋が凍る。
(インスがどんな能力かを聞けたらいいが、もしもの危険が迫れば操蟲を使うとしよう)
そう思いながらゼフは腰の部分をさする。
「大丈夫だ、俺も聞きたいことがあるからな」
インスをまたチラッと見ると喜びに満ちた顔をする。ゼフは自分が言ったことを後悔しながらインスの元に向かう。
「はい〜ゼフちゃん。改めまして魔導士の勇者のインスよ」
ゼフは腹をくくり、単刀直入に聞いてみる。
「それで俺に何の用だ?」
「話は少し奥でしましょ。 誰にも聞かれたくないの。 幸い今日は魔物と会ってないからね」
確定だと思った。だが、能力は聞き出したいし、襲ってきたとしても操蟲がいる。ゼフはゆっくりと口を開く。
「いいだろう」
そう言うとゼフとインスは森の奥へ向かい歩き始めた。しばらく歩いたところでインスが立ち止まり話し始める。
「ゼフちゃん、私が話したいことってのはね2つあるの」
ゼフは身構える。いつ襲われてもいいように。
「そんな身構えないで頂戴。 別にあなたをとって食おうとは思ってないわ。 けど、あなたがそれを望むならそういう展開にならないこともないけどね」
ゼフはさらに身構え、操蟲をいつでも出せるようにする。
「用件をさっさと言え」
「今から言うからそんな焦らなくてもいいわ。 1つ目は私個人として気になることよ。 あなたの仮面の下のことよ」
「なんだ、そんなことか。 別に見たいなら見せてやるぞ」
ゼフは仮面を剥がす。これでインスの対象から外れるだろう。
「あら〜いいじゃない。 仮面なんかせずにそのままの方がいいのに〜」
外したことを後悔しながら口を開く。
「これには理由があってつけていたが、もういらないかもな」
そう言うと仮面を再びつける。だが、インスは1つ疑問に思った。
(もういらないってどういうことかしら? まぁいいわ問題は次ね)
「2つ目はあなたの強さよ」
「強さだと?」
「ええ、あなたは勇者でもないのに召喚士としてCランクまで上り詰めた。 これだけでもかなり異例よ」
「俺はほとんど戦っていない。 ただサポートに回ってランクを上げてるにすぎない」
すると、インスはクスクス笑いだす。
「嘘は私は嫌いよ。 アヴェインちゃんからあなたの蟲の強さは聞いてるわ」
(なるほどこいつの狙いがわかった。 つまり、俺の強さと同時に蟲の強さも調べたいということか)
「何をすればいい?」
「簡単なことよあなたの蟲で私に一発攻撃いれて頂戴」
「それでいいのか?」
「ええ、心配しなくても私は防壁魔法のバラテクト張ってるからダメージはほとんどないわ」
(それにアップポテンシャルで物理・魔法防御もあげてるし防壁の上位魔法のガラテラも張ってるから大丈夫なはずよ)
「そうか、やらしてもらおう」
(お前が防壁魔法のガラテラまで張っていることに少し驚いたが、それでは足りん。 せめて張るなら10枚は張るべきだ。 それにアップポテンシャルしか使ってないのもマイナスポイントだな。 能力アップ系は念のためにも全てあげるべきだ。 使う魔法も最低50は使わないとな)
「どうしたのゼフちゃん?」
「いや、すまない少し考え事をしていた」
(やはり勇者も噂だけの雑魚みたいだな)
そしてゼフは腰の方に縮小していた操蟲を1体元の大きさに戻すと、腰から伸びてくる。操蟲は久々に服の外に出れたのが嬉しいのか、そこらへんを長さを変えてうねうね動いてる。
(久しぶりに外に出れて喜んでいるな。 可愛い奴め)
インスはまさかゼフの腰から蟲が出てくるとは思わずその場で驚き、そして怯えていた。
(あの蟲はかなりやばいわ。 だけど攻撃を受けると約束してしまったのも事実。 仕方ない1発だけ受けてあげるわ)
インスは自分が死んだ時キール達に自分が見たものを共有する能力を念のため使う。だから、いつ死んでもいい覚悟はできていた。そして次の瞬間、操蟲が鞭のように横腹に入る。
「いたぁぁぁぁぁ! くない?」
攻撃を受けたが、まるで赤ん坊に小突かれたような全くもって痛みと言っていいかわからないものであった。
「当たり前だろ。お前は俺を過大評価しすぎだ」
そう言うと操蟲をしまう。
「見苦しいところ見られて恥ずかしいわ」
「頬を赤らめるな、戻るぞ」
「わかったわ。 でも、あの蟲のことみんなに話しなさいよね」
「ああ、わかった」
そう言うと、ゼフとインスはキール達の元にゆっくりと戻って行く。
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ゼフとインスが森の奥に行くのを見届けるとキールは残っている人を集めて話し始めた。
「正直ゼフが犯人で間違いないと思う」
「やっぱり……」
シルヴィアは自分の考えが正しかったことに少し喜ぶ。
「それでインスには実力を図るように指示してある。もしも何かあれば僕たちにその情報を共有する能力を使ってね」
「そうですか…… でも俺達が見た限りゼフとその蟲達は勇者達に比べれば弱いと思います」
「念のためだよ」
アレックスが横から会話に入る。
「そういうことだアヴェイン。弱かったらそれはそれでいいからね」
「それに奴は俺達勇者が倒したデスワームを召喚できる可能性があるからな。 一応デスワームを召喚してない時の戦力をはかろうってことだ」
「理解しました」
「それで、明日やることなんだけどもし王都に着いたら問いただす」
「もし着かなかったらどうするんですか?」
「その時はその時だ、また話すよ。それじゃあゼフとインスが帰って来るまでにやることを終わらすよ」
そう言うと各自自分の持ち場に戻る。それから少し経ってゼフとインスが帰ってきた。その後晩飯を食べ、眠りについた。だが、運がいいのか悪いのかシルヴィアは予報の能力が眠っている時に働いてしまう。そこに映っていたのは勇者とアヴェインが死ぬ光景だった。




