王都への道のり
朝焼けが窓の隙間から入ってくる。今日ほど機嫌がいい日はないだろう。今まで我慢したのをぶつけるのには最適な日だ。だが、油断はしない。
「さて、勇者を殺すのは聖都から離れてからにするか。 それにアヴェイン達が俺を疑っていることはわかっている。 だから勇者もこのことは知ってるはずだ」
ゼフはそのことを考えるだけで頬が緩む。
(それにアヴェインに関しても仕込みは終わっている。 エリックはもしかしたらもう死んでるかもな)
ゼフはそんなことを考えながら仕度を済ますと宿屋を後にした。その後、足早に冒険者組合に向かい、到着するとそこにはアヴェインとシルヴィア、そして勇者一行らしき人物が見えた。そして、予想通りエリックの姿は見えなかった。
「来てくれたか! ゼフ!」
2日前とは見違えるほどの元気な声でアヴェインが叫ぶと他の人達もゼフの方へ向く。だが、その瞳は決して心地いいものではない。むしろ、疑いの目が大きいように見えた。
「アヴェインあまり大きい声は出すな」
「すまないすまない。 時間的にギリギリだったからさつい」
アヴェインと話していると勇者のキールが近づいてきた。
「初めましてゼフ。 今日一緒に同行させてもらう勇者のキールだ」
「初めまして、知ってるみたいだが名乗らしてもらおう。 召喚士のゼフだ」
「ゼフすまないが僕の他のメンバーの紹介は時間がないので移動中で構わないかい?」
「ああ、大丈夫だ。 ただ、エリックがまだ来てないようだが……」
その時場が凍る。そして、アヴェインが1歩踏み出し、話し始める。
「実はエリックは死んでしまったんだ……」
「そうか…… それはすまない。 どうして死んだのか聞かせてくれないか?」
「わからないんだ……」
「そうか……」
「エリックは大神殿に運ばれて蘇生を受けたんだが、理由はわからないが生き返らなかった」
(よくあんなぼったくり価格の蘇生を受ける気になったな。 いや、勇者がいるからそれも可能か)
聖都の蘇生は時間がかかる上貴族ですら簡単には払えないほど高額だった。
(俺の毒蟲は能力を使った時、低位の蘇生魔法は効かないからな。 残念だったな)
そう思うとゼフは勇者たちの顔を見ていく、確かにこの世界では強いだろう。もちろん蟲を使わないで、単独で戦えばゼフは負けるだろう。 正直、Dランク冒険者にも負ける自信はある。だが、蟲を使えば相手にならない。
(所詮は低レベルな世界だ。 だが、油断はしてはいけない。 万が一のことがあるからな)
静まり返る場に最初に言葉を放ったのは勇者だった。
「色々とあると思うが時間が来ている。そろそろ行こう」
そう言うとその場にいるものは全員頷き、王都に向けて進み出した。
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道中ゼフはいきなり想定外のことが起こっていた。
(この方角は王都があった場所の方角だ。もしかしてこいつら王都の調査をするのか? 噂では化け物がいると言われてるだろう。いや、しかし…… 念のため先に蟲達に襲わないように命令を送っておこう)
「そういや目的地を聞かされていないんだが、どこに向かっているんだ?」
そう言うとキールは振り向き笑顔で答える。
「聞かされてなかったのかい? 僕達は王都の調査に行くんだよ」
「なるほど王都か。 ありがとう」
ゼフはしっかり返事をするが、蟲達をどう隠すかを考えるので精一杯だった。
(蟲を隠す方法だが、森に隠れてもらおう。 インセクト・ドラゴンは透明化の魔法を無詠唱で唱えれば問題ない。 俺の魔法の発動位置は…… 届くな。 これでなんとかなったな)
ゼフはすぐさま行動に移し、魔法や命令を下す。そして、聖都を出て5分経った頃勇者キールがゼフに近づいてきた。
「ゼフ、僕の仲間達を紹介する。ついて来て」
ゼフは素直に勇者についていき、先頭まで来るとそこには2人の勇者らしき人物がこちらを見ていた。
「まずは、この大きな斧を担いでるのがアレックスだ」
体格はそこまで大きくなく、ゼフと同じくらいの若さを感じさせるその男は高価そうな鎧をつけている。いや、勇者を見ると全員そのような鎧をつけているようだ。
「アレックスだ。 よろしく」
「ゼフだ、よろしく」
ゼフとアレックスは握手を交わす。
「次に杖を持っている変な奴がインスだ」
見た目こそ軽装だがその鎧は花模様が書いていた。そして、ゼフが見た限りではインスは男に見えた。年齢はゼフよりも5つほど高いと思われる。
「変な奴ってやめてよね〜。 よろしくゼフちゃん」
ゼフは握手を交わしたが別の意味で危険を感じる。
「今来ている勇者は以上だ」
「勇者少なくないか? 聞いた話では勇者は12人構成らしいが……」
「本当にすまないな。 他のやつも誘ったんだが別の用件で忙しいやつが7人。 すっぽかした奴が2人でこのザマだ」
「なるほどな…… それは大変だな」
ゼフはすっぽかした2人は本当に勇者なのかと思う。だが、同時にやはり勇者は強さで選ばれてる可能性が高いと感じた。そうこうしてると、森が見えてくる。
「よし、そろそろ森だ。 みんな気を引きしめろよ」
キールがみんなに向けて叫ぶ。その声で全員の気が引き締まる。
(さてと、こいつらを殺した後どうやって事故に見せかけるかを考えとかなくてはな)
ゼフは仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、その時を楽しみにするのだった。




