勇者
アヴェイン達は死んだガランを埋葬して、冒険者組合に報告に来ていた。
「これはオーガ討伐の報酬です」
受付嬢はそう言うと銀貨2枚を渡す。
「ありがとう…… ございます」
アヴェインは気力なく答える。
「ア…… アヴェインそんな気を落とさないで」
「ありがとうエリック。 でも俺なんかよりシルヴィアを慰めてあげてくれ」
シルヴィアは冒険者組合のテーブルに顔を押し付け、仮面越しでもわかるほど涙を流していた。アヴェイン達はそんなシルヴィアを見ながら近づく。
「シルヴィア大丈夫か」
そう言うとシルヴィアは顔を上げる。自分でもわかっている。これで大丈夫だ奴はいないだろう。シルヴィアは感情を抑え言葉を放つ。
「これが大丈夫に見える? ガランは今まで最高の仲間だった。でも、こんな形で失うなんて……」
シルヴィアはまた顔をテーブルに押しつけ、囁きながら泣く。
「シルヴィア泣いてばかりはいられないぞ。 冒険者というのはそういう職業だ」
ゼフがシルヴィアにそう言うと、再び顔を上げる。
「ええ、わかってるわ! でも!」
シルヴィアはゼフをひどく睨みつけるようにして見る。
「シルヴィア落ち着いて。今は疲れてるんだ。 向こうの方でゆっくりしたほうがいい。エリック頼む」
「わ…… わかった」
シルヴィアはエリックに連れられて、その場を離れる。
「さてゼフ、ガランの死因なんだがわかるかい?」
「あの蟲の毒じゃないのか?」
「俺は違うと思う」
「その理由はなんだ?」
「ガランの能力の一つとして毒耐性がある」
「つまり毒では死なないと?」
「ああ」
(なるほどな、それでガランは毒で死んだと思い込んでないのか…… かなり面倒になったな)
ゼフの毒蟲は実際毒で殺す蟲ではない。だから、毒で殺されたと思い込んでくれているとゼフに都合が良かったがそうはならなかったことに非常に残念に思う。
「だが、あの蟲を渡したから後は本職の人が調べてくれるはずだ。 それに仲間はもう殺させはしない」
(アヴェイン残念だがそれは不可能だ。 お前が俺を殺さない限りな)
「そういやゼフCランクになったんだって?」
「ああ」
「たった2つの依頼でランクを1つあげるなんて本当にすごいよ」
「ありがとう」
「ゼフ明日の依頼なんだがどうする?」
「シルヴィアの回復次第だなそれに……」
「ああ、前衛が1人減ってしまったことだな」
「それもあるがお前だ」
「俺かい?」
「お前は大丈夫なように見せているが、精神は非常に不安定だぞ」
「大丈夫さ、俺は明日にはしっかり整えてくる」
「そうだといいがな」
「ゼフは戻っていていいよ。 後のことはまかしてくれ。 明日は同じ時間に集合で」
「わかった、後のことは全て頼んだ」
そう言うとゼフは冒険者組合から出て行く。アヴェインはシルヴィアの元に向かって行った。
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アヴェインが近づくとシルヴィアは言葉を発する。
「アヴェイン! 私はゼフが怪しいわ!」
「シルヴィアいくらなんでもそれは言い過ぎじゃないか」
「あなたは楽観視しすぎよ! ゼフは危ないわ!」
「確かにゼフが仲間になった次の日にガランは死んだ。だからといってそれが証拠になるわけないだろ」
「確かにそうかもしれない。でも…… さっき予報士の能力で見てしまったの…… いつになるかわからない。でも1ヶ月以内にこのパーティの誰かが死ぬわ」
「なるほどそういう結果が出てしまったか…… 回避する方法は分かるか?」
「回避する方法は1つだけよ。勇者に頼むしかないわ」
「それが予報を回避する最低条件か?」
「そうよ」
シルヴィアの予報の能力は弱いから未来に起こる出来事の部分的なところと最低回避条件が出るのが精一杯であった。勿論それで回避できるとは限らない。
「俺ももう仲間を失いたくない。 だから勇者に頼もう。 だが、ゼフを追い出したり殺したりするのはなしだ」
アヴェインは真剣な表情でシルヴィアを見つめる。
「大丈夫よ、流石にいきなりそんなことしないわ」
「それなら良かった」
アヴェインがエリックを見ると何か言いたそうにしていたので声をかける。
「エリック何か言いたいのか?」
「う……うん。実はガランが死んだのを発見した時僕の能力でゼフに喜びの感情が見えたんだ」
「それは本当か?」
「う…… うん」
「それなら話は変わってくる。ゼフを警戒しないとな。それにゼフにも流石に俺達を瞬殺できるほどの蟲を持ってるとは考えにくいがな……」
「それなら大丈夫よ。エリックが言っていた喜びの感情は私達を殺せて喜んでいたということ。 つまり、殺すことが目的なのに私達は生きている。あいつは私達を全員相手にして勝てる蟲はいないのよ。 それに、殺してパーティが全滅したことにしてもよかったのにそれをしなかったのも理由ね」
「確かにそうだな。 よし、ゼフには警戒して依頼に当たろう。 近くにいた方が動向を確認できるしな」
「ええ、わかったわ」
「わ……わかったよ」
「よし、それじゃあ勇者に合う手続きをしないとな」
そう言うとアヴェイン達は冒険者組合を後にした。
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ゼフはアヴェイン達と別れた後宿屋に帰るつもりだった。
だが妙に大通りが騒がしかったので少し様子を見るつもりで向かった。
(なんだこれは)
そこには数え切れないほどの大量の人がごった返していた。
(一体なんの騒ぎだ?)
仕方なく隣に立っている青年に聞いて見ることにする。
「すまないが、これは何の騒ぎが教えてくれるか?」
「あんた知らないのか? この騒ぎは勇者だよ。 なんでも災害級の魔物を討伐したらしいんだ」
「そうなのか、ありがとう」
聞き終わるとゼフには1つ引っかかる言葉があった。
(災害級の魔物だと? もしかして…… いや、考えすぎか)
そして勇者は人の輪をくぐってどんどん近づいてくる。そして、その姿をゼフは見ることができた。
(あれが勇者か。大したことなさそうだ。)
しかし、次の瞬間凍りつく。何故なら、ゼフははっきりと見てしまったのだ。勇者の後ろの荷台にに運ばれているのは自分が召喚したデスワームだったからだ。
(なるほど、流石に油断しすぎたか。 まさか、勝てる奴がいるとはな。 死んだデスワームのためだ。 この借りは返させてもらおう。 だが、残念ながら今は殺せない。 アヴェイン達は気づいてる。 だから、早めに殺すつもりだったが、殺すのはもっと先にして機会を待とうじゃないか)
ゼフは集中すれば蟲の位置を把握することができるが、そうしていないと把握することができない。これは自分の傲慢さが招いた結果だった。その日、ゼフはやるせない怒りを自分にぶつけた。




