依頼
昨日はアヴェイン達と話し合った結果、次の日の朝に冒険者組合前に集合することになった。そして、彼らの職業はアヴェインは剣士、ガランは戦士、エリックは回復型の魔道士、シルヴィアは攻撃型の魔道士であり、ランクが全員Cであることも教えてくれた。
「そろそろ時間か、行くか」
ゼフは早めに起きて準備をし、出発しようとする。部屋の隅に直立不動で立っているビートルウォリアを見据える。
「行くぞ、ビートルウォリア」
そう言うとビートルウォリアはゼフの後に続いて歩き始める。ゼフは宿屋を出た後はそのまま冒険者組合に足を進め始める。
(昨日は言えなかったが、ビートルウォリアについて説明はしなければならないな…… シルヴィアが納得してくれるかわからないがな。 戻せないのだから納得してもらうしかない)
冒険者組合の扉を開けると、そこにはすでにアヴェイン達が何やら話しながら待っていた。ゼフは気づいてないアヴェイン達に近づき挨拶をすると、ようやく気づきこちらを向く。
「おはよう」
「おお、ゼフ。 おは……」
挨拶を返そうとしたアヴェインだったが、後ろのビートルウォリアを見るや否や固まってしまった。
「ゼフ一応聞きたいのだけれどそれは何かしら?」
シルヴィアがそう問うとゼフ自信満々に答えた。
「ビートルウォリアだ」
「何がビートルウォリアだよ! 昨日あれほど行ったでしょ! すぐに引っ込めて頂戴」
「すまないが、引っ込めることはできない」
ゼフがそう言うとシルヴィアは何を言っているのかわからないという表情をしていた。そして震えながら口を開く。
「え…… もしかしてできないの?」
「ああ、そうだ」
そう答えるとシルヴィアは絶望からか床に膝をついた。そこにアヴェインが駆け寄る。
「ゼフすまない。 話は後で聞くとして、エリック! シルヴィアを少し休ませてほしい」
「わ…… わかったよ」
そう言われるとシルヴィアをエリックは担いで連れて行く。
「それで、言いたいことがあるんだろ? ゼフ」
「ああ、まずは黙っていたことを謝らして貰おう。すまない」
「気にして無いよ。 なぁガラン」
「ああ、ゼフ殿にも理由があったん」
「ありがとう、隠していたことなんだがこのビートルウォリアだ」
「みたいだね」
「そして、このビートルウォリアだが引っ込めることはできない」
「それが隠していたことなんだね?」
「ああ、そうだ」
「俺は別に気にして無いよ」
「我も気にしていない」
「すまないな」
「それにしてもゼフは珍しいな。 召喚士なのに召喚したものを引っ込めることができないなんて」
「我が思うにそれは呪いか何かか?」
「いや違う、強くなるための代償だ」
「そんなことができるんだ。 俺は代償を払ってでも強くなりたくないな」
「それは人それぞれだ。 だから、あまりこのことで態度を変えないでくれると助かる」
「わかりましたぞ、ところでゼフ殿は他には召喚してないのか?」
「もちろん召喚してる」
そう言うとゼフは服の中から1体の探知蟲を出した。
「ほぅ、まだゼフ殿は召喚しておったのか。 だが、しかし戦力的にはそのビートルウォリアという蟲だけですな」
「それにしてもビートルウォリアって結構強い蟲なのかい?」
「そうだな、かなり強い」
ビートルウォリアが召喚できる蟲の中でどれくらいの位置にいるかを敢えて隠す。
「やっぱりそうなんだ。 このビートルウォリアからは強者の独特なオーラ? みたいなのが出ていたそうかと思ったんだよ」
アヴェインは嬉しそうに話す。何がそんなに嬉しいのかわからないが、ゼフは依頼について聞こうと思い話した。
「アヴェイン依頼は何を受けるんだ?」
「オーガの討伐だよ」
「そうか、いつ頃出発するんだ?」
「もうそろそろ行くよ。 シルヴィア達に出発することを伝えてきてガラン」
「わかりましたぞ」
そう言うとガランはシルヴィア達を呼びに行く。
「ゼフ心配しなくてもいいよ。 シルヴィア達には俺とガランで伝えとくからさ」
「そうか、すまない」
しばらくすると、ガランがシルヴィア達を連れてくるのが見えた。
✳︎✳︎✳︎
森の中ゼフ達は整備された道を通っており、ゼフ達は列に並んで歩く。
「シルヴィアそんな怒るなよ」
「もう怒ってないわ」
「いや、怒ってるだろ」
ゼフはそんなアヴェインとシルヴィアの痴話喧嘩のようなやりとりを見て考えていた。
(さて、ここに長居は不要だ。 どうやってバレずにこいつらを殺そうか)
ゼフは正直なところシルヴィアにしか興味がなかった。もし、予報士というのがいなければ自分はこんなことになってないと酷く憎む。
(さて、今日の犠牲者は誰にしようか。 おそらく人間関係的にあいつがいいだろう)
ゼフはシルヴィアが最も絶望する殺しの順番をすでに見つけていた。それに、彼女の心を壊すことでとある蟲の使い勝手が良くなる。また、ゼフ自身も仲間を殺された人間の絶望する姿を見てみたかった。ゼフは前にいるアヴェインに声をかける。
「アヴェイン」
「なんだい? ゼフ」
「オーガはどこら辺にいるんだ? 30分近く歩いてるが影すら見えないぞ」
「大丈夫さ、今オーガの痕跡を探してるところだから」
「痕跡だと? すまないがこの依頼はどれくらいかかるんだ?」
「最低でも6時間、多分この調子だと8時間くらいで終わ
るよ」
「なんだと⁉︎」
ゼフは今まで探知蟲などの蟲に頼ってきていた。だから、依頼もすぐ終わったし、痕跡など探したことがなかった。だから、これほど時間がかかることに驚いていた。
「あんたもしかして疲れたっていうの?」
「いや、そういうわけではない」
「ハハハ、ゼフ殿無理はしなくて良いからな。 きつくなったらいつでも言うのだぞ」
「そ…… そうですよ! 僕たちはもう仲間なんですから」
(仲間か…… 残念だが俺はお前達を仲間と思っていない)
「そうか、すまない。 だが、俺が言いたいことは違う。 俺なら今すぐオーガを見つけれる」
「それは本当なのかゼフ!」
「ああ、これを見てくれ」
服の中から1体探知蟲が出てくる。
「この蟲を使うことで場所の特定は容易になる」
「本当かい⁉︎」
「それは助かりますぞ」
「ゼ…… ゼフさん。すごいです!」
「そんなのがあるならさっさとやりなさい」
(この女は昨日からわがまま言いやがって、お前が予報士でなければ今すぐ殺してるとこだぞ)
ゼフは感情の高まりを抑え、一旦落ち着き、返答した。
「ああ、今からやる。 行け探知蟲」
探知蟲は森の奥へ消えていく。そして、30秒も経たないうちに場所を特定した。
「わかったぞ」
ゼフがそう言うと、アヴェイン達はまさかここまで早いとは思っていなかったので、素直に驚く。
「ゼフ早くないか?」
「嘘じゃないでしょうね?」
「本当だとしたら凄すぎますぞ」
「す…… すごいです」
「そうか?」
「ああ、凄過ぎるよ」
「それは、褒め言葉として受け止めよう。 ビートルウォリア案内頼む」
そう言うとビートルウォリアは森の奥の方へ歩き始めた。それに続いて行く。
「ゼフ聞いていいか?」
「なんだ?」
「さっきわかったと言っていたが、ビートルウォリアに案内させるのかい?」
「ああ、探知蟲は蟲だけに位置情報を伝えることができるからな。だから人間である俺にはわからない」
「なるほど、そういうことか」
アヴェイン達はそれで納得する。ゼフは蟲達と話すことはできないが、なんとなくハイかイイエがわかるというものであった。だから、探知蟲から情報を受け取ったビートルウォリアのハイという肯定の反応でゼフはわかったのである。ビートルウォリアが足を止める。そこにはオーガが3体見えた。
「見えたぞ」
ゼフのその言葉でパーティメンバー全員に緊張が走った。




