パーティ
次の日、ゼフは昨日と同じようにまた冒険者組合に来ていた。王都の方の蟲達は移動系の魔法を使い、確認しに行ったが、今のところ問題はなかった。
「オススメの依頼を教えてくれるか?」
「はい、わかりました。 少々お待ちください」
受付嬢はそう言うと手元に積まれた沢山の依頼からいくつか取り出す。
「お待たせしましたゼフ様。 今日のDランクオススメの依頼は昨日やってもらったウルフかパーティを組んでもらってのオーガの討伐です」
(パーティを組んでのオーガ討伐か…… 別の手段でパーティを組まそうという気か。 まあ、今日もウルフでいいだろう。)
「それじゃあウ――」
「おい、あんた!」
ウルフの依頼を受けると言おうとした時.横から声がかかる。ちらっと受付嬢を見ると笑っているようだった。
(まさか、嵌められたかのか)
渋々声がかかった方を向くと3人の男が立っていた。1人は軽装の優男の印象が強い剣士、もう1人は大男だが大剣を持ち、重そうな装備をしている。最後の男は杖を持ちマントを羽織っており、小柄であった。
「俺のことか?」
「ああ、そうだ」
「何の用だ」
「実は話があるんだ。 向こうに座って話をしないか?」
おそらくパーティのことだろう。しかし、そんなことでは受付嬢は諦めないだろう。ここは話し合って堂々と断れば、もう何もしてこない筈だ。
「仕方ない、取り敢えず話だけ聞こう」
「本当か⁉︎ ありがとう。それじゃあ、ついてきてくれ」
ゼフは男達についていくとそこにはすでに1人座っていた。
そいつは仮面とマントで全身を隠すように羽織っている不気味なやつだった。自分が言えたことではないのだが。
「まず自己紹介からだな。 俺の名前はアヴェインそしてこの大男は……」
「ガランと申しますぞ」
「そしてこっちの杖を持っている小柄な奴は――」
「エ……エリックと言います」
「最後にここに座っている仮面の奴は――」
「シルヴィアよ」
「これが俺達のパーティメンバーだ。 もしよかったら名前を教えてもらってもいいだろうか?」
「いや、構わない。 それにかしこまる必要もない。 俺はゼフという」
「よろしくゼフ」
「ああ、こちらこそよろしく」
「さて話なんだが、とりあえず座ってくれ」
ゼフは男の言うように座る。アヴェインはこちらをしっかり見据えて話し始めた。
「単刀直入に言う、ゼフ俺達の仲間になってくれないか?」
ゼフは考えるふりをする。受付嬢のあの笑顔を見た時からこうなることはわかっていた。ゼフはパーティの誘いを断るために口を開こうとすると、横からシルヴィアが発言をした。
「アヴェイン彼は断るつもりみたいよ」
「そうか…… やっぱりダメか……」
「⁉︎」
(何故、俺が断るとわかったんだ? この見た目だから、表情で見破ることもできないはずだぞ)
ゼフには全くの未知の体験であり、自分の知らない能力としてシルヴィアという女を警戒する。ゼフはあわよくばと思い、能力を聞くために口を開く。
「何故彼女は俺の考えていることがわかったんだ?」
「ああ、それはね彼女がこの街では珍しい予報士の職業についてるからさ」
「予報士だと?」
(もしこれが本当ならこのパーティに入るメリットはあるな。それに俺が知らないというのも頷ける。 さて、どうしたものか……)
ゼフは本当にこのまま入ってしまってもいいのかを今1度深く考える。
「アヴェイン嘘はいけないわ。 正確に言えば私は魔道士の副職業として予報士があるだけで、本職ほどでは無いわ」
(なるほど、副職業を持っているんだな、だったら、おそらく能力としてはそこまで強くない。これはありだな)
ゼフが再び返答しようとするが、なにやらアヴェインとシルヴィアが言い争っていた。
「返答をしたいんだが……」
ゼフがそう言うと、気づいたらしく2人も申し訳なさそうにする。
「ああ、すまない。 こちらから頼んで置いて……シルヴィアも謝って」
「すまないわね」
「別にいい、答えだがお前達の仲間になろうと思う」
すると、アヴェインが嬉しそうな顔をしながらこちらに近づけてきた
「本当か! ありがとう、これからよろしくゼフ」
「ああ、よろしく。 アヴェインとシルヴィアとガランとエリックだったかな」
「は……はい合ってます。 ゼフさん」
「これからよろしく頼みますぞゼフ殿」
「よろしくねゼフ」
「よ……よろしくお願いします。 ゼフさん」
「これからよろしくなゼフ!」
ゼフは受付嬢をちらっと見るとなにやら嬉しそうにこちらを覗き見ていた。
(嵌められたとは言え、あいつには感謝だな。 なんたって、探していた予報士がいたんだからな)
軽く受付嬢に感謝し、顔を上げる。
「それじゃあゼフ。 これから戦闘の役割を話そう。 だから君の職業を教えてくれないかい?」
(これは正直に言ったほうがいいのか? この世界ではかなり不遇とされている職だ。 だが、他のことができると言われたらできない。どうせバレることだ。ここは正直に言ってしまおう)
「俺の職業は召喚士だ」
空気が固まり、冷たい空気が流れる。仲間に入れたのが不遇な召喚士なのだから仕方ないだろう。
「そうかそうか。 でもウルフとか狩っていたてことは何か魔法を使えるんだろ?」
「ああ、使うことができる。 ただし、攻撃魔法は事情があって使えなくなった。 そして、サポートだがこれは自分自身と召喚する蟲にしか効かない」
(まぁ仕方ないだろう。 俺は蟲と召喚士の能力を上げるために日々の鍛錬、制限を設けたり、魔法を削っている。それによって召喚数は圧倒的な数を誇るし、蟲達の維持費もかからない。さらに、この世界に来てからも、召喚できる蟲は増え続けている。 だから、お前達の望む魔法は使えない)
「そうなのかわかった。 ちょっと待って今どう戦えばいいか考えるから」
(ビートルウォリアは宿に置いてきてるからな…… できれば連れて来ればよかったな)
そう考えているとシルヴィアが声を震わせながら話し始めた。
「ちょっと待って。 今蟲って言ってたけど、もしかしてゼフが召喚するのって蟲なの?」
「そうだが、何か問題でも?」
「大問題よ! 私は蟲が嫌いなのよ! 他には召喚できないの?」
「残念だが諦めてくれ。 蟲以外の生き物は召喚できないんだ」
「嘘……」
シルヴィアは膝をつき、そのことに絶望する。
「ゼ…… ゼフさん」
「どうした?」
「実は僕も蟲が苦手でして…… 生き物以外は何を召喚できるんですか?」
「そうだな…… 食料とかかな?」
「えっ⁉︎ そ…… それってすごいじゃないですか!」
「そうなのか、俺以外の召喚士にまだあったことなかったから、知らなかった」
その話を聞いていたのだろうかシルヴィアは元気よく立ち上がりゼフに指を指す。
「それよ! あなたは食糧を召喚してくれたらいいのよ!」
「シルヴィア、それはゼフさんに悪いよ」
「で…… でも……」
「俺はそれでも構わん」
「えっ…… いいのかゼフ?」
「ああ、シルヴィアが気の毒だからな。 目の前に召喚はしない」
「決まりね、戦闘になってもゼフは蟲を召喚しないでね」
「ああ、もちろん召喚はしないよ」
「それじゃあ依頼は明日受けるとして今日はしっかり話し合おう。 みんなそれでいいか?」
「だ…… 大丈夫です」
「大丈夫よ」
「構わない」
みんなが答え終わり、残りのゼフを見る。
「別に大丈夫だ」
そう言うと次の議題を話し始めたのだった。




