昇格
「おめでとうございます、ゼフ様。 これでEランクからDランクへ昇格いたしました」
そう言われると新たにDランクと書かれている冒険者カードを受け取る。王都を蟲の住処にして約1ヶ月、ゼフは着々とランクを上げていた。現在は仮面を被り、灰色のマントを羽織っている。もし王都にいた冒険者がいたとしてもバレないだろう。
( 流石にあれはやり過ぎたな。 もう少し心を抑えなければな)
そう思いながら、ゼフは隣で直立不動の体勢で立っているビートルウォリアーを見る。聖都では、王都よりも召喚士の魔物に対してのルールは優しく、こうやって隣に居たとしても特に何も言われない。そして、現在別の問題にゼフは悩まされていた。
(予報士というのが厄介だな、まさか俺の世界にはない職業がこの世界に存在するとはな)
ゼフが聖都に来て数日が経った頃、冒険者が予報士が王都の事件を予報していたと話しているのを聞いたのだ。運良く自分の名前はバレてはいないが、1ヶ月はバレないという予想があっさりと崩れてしまった。
(アリシアが言っていることが本当なら、人間の街は少ないみたいだしな。これから滅ぼすだけではなく、残していかなければ。 そうしないと、あらゆる物がなくなってしまう。それだけは避けなければならない)
「さて次のオススメの依頼は何かないか」
そう受付嬢に問うとすぐに返答が返ってきた。
「はい、もちろんあります。 今のゼフ様にオススメなのはウルフの討伐ですね。 他でしたらハイゴブリンの討伐ですね」
「そうか、どっちにするか……」
羊皮紙を受け取り、どちらにするかを考えていると受付嬢がこちらを凝視しながら渋々口を開いた。
「ゼフ様そろそろパーティを考えてみてはどうでしょうか?」
「パーティか…… 確かにその方が生存確率や効率が上がるかもしれないが、俺は1人がいい」
ゼフはこのやり取りを受付嬢とかれこれ5日続けており、そろそろやめてほしいものだ。パーティに入らない理由としては単に足手まといが増えるだけであり、メリットがないからである。
(まあ、もうしばらくしたら諦めるだろう)
ゼフは依頼を決めると、受付嬢に渡す。
「今回はウルフの討伐で頼む」
受付嬢は少し残念そうな顔をし、受け取る。
「わかりました、こちらの依頼では数の下限と上限はありません。 なので1体につき銅貨4枚です。では、ご武運を」
そう言われると、ゼフは足早に組合から出て行った。
(はぁ〜 どうしてあんなにも頑固なのかしら)
受付嬢は心の中でため息をつく。最初来た時、受付嬢は召喚士が何ができるとバカにしていた。しかし、ゼフは1ヶ月でランクを上げてしまうほどの実力を兼ね備えていた。だから、ゼフには死んでほしくなかったので、パーティに入ることを勧めるが頑なに入ろうとしないことに受付嬢は頭を抱えていた。
(いつかは1人では倒せない相手が出てくるでしょう。 きっとその時には自然とパーティを組むでしょうね。 どうか、その前に死なないでね)
受付嬢はそう言い聞かせ、ゼフの安全を願うのだった。
✳︎✳︎✳︎
森に入ったゼフは1時間もしないうちに早速ウルフを見つけた。ゼフは自分で戦うのが苦手である。その中でもゼフは攻撃魔法がからきしであり、相手の能力を下げたり自分達の能力を上げたり、相手を妨害するのが主な戦い方が得意である。それによって殆どを蟲に頼ってしまう形になってしまっている。
(元の世界で攻撃魔法を強化していれば、戦術の幅が広がったんだが…… まぁ後悔しても仕方ない。 俺が選んだ道なのだから、突き進むしかないからな)
そう思うと、ゼフは召喚魔法を使う。
「来い操蟲」
魔法陣が割れると、現れたのは人と同等の大きさのムカデのような蟲であった。能力は大きさと長さを自在に変えることができ、2つの大きな角のような牙で突き刺し、毒を注入するというものである。
さらに、この蟲を召喚した理由にはもう一つあり、それは信頼関係があれば、他の生物と同化してその生物の武器として使うことができる。
「とりあえず2体いればいいだろう。 この蟲を使えば俺自身の戦闘力が少しは上がるだろう」
ゼフはゆっくりと操蟲の長い体を見ながら、命令を下す。
「俺の腰の部分に同化しろ。 そして、俺が命令するまで小さくなって服の中に隠れてろ」
そう言うと2体の操蟲はゼフの背中に自分の尾をつけ、徐々に同化していく。その時に特に痛みはなく、あっという間に同化した。
「不思議な感覚だな。 まるで、腕が2本増えたかのような……」
ゼフはそう思うと、早速ウルフを木の影から見据える。
(これができればかなり強い。 少し実験してみるか)
ゼフは意識をウルフに集中さる、手を動かす感覚でウルフに向けてに操蟲を放つ。その時大きさは元に戻り、長さは倍以上になっていた。ウルフを確認すると操蟲の牙に貫かれ、絶命していた。
「良かった、あまり使ったことがない蟲だったから心配していたが、きちんと俺の意思で動くし、一瞬で大きさと長さを変えれるな。 まあ、問題点としては服が少し破けてしまうことだな」
ゼフはそう言うと操蟲を服の中に引っ込め、小さくした後回復魔法で破けていた服を直した。
「後はビートルウォリアがウルフを4、5体狩ってこい。 探知蟲も行け」
ゼフがそう命令すると服の中から探知蟲が出てき、草むらで隠れているビートルウォリアーは探知蟲を連れて森の奥へと走って行った。 5分ほど経つと、ウルフの死体を5体引きずって帰ってきた。
「依頼終了だ、帰るぞ」
ビートルウォリアと探知蟲にそう命令を下し、ゆっくりと街の方へ向かい歩き始めた。
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街に帰るとゼフは一直線に組合に向かう。
「お疲れ様です、ゼフ様。 今回も早いですね」
時間は依頼を受けてから3時間程しか経ってない。普通はゼフと同じランクだと倍はかかるそうだ。
「ああ、今回も楽だった。 それで間違っていないか確認してくれ」
ゼフはウルフを取り出し受付嬢に見せる。
「はい、大丈夫でございます」
「よかった、では報酬を頼む」
ゼフはビートルウォリアが持っているウルフを全て渡す。
「少々お待ちください」
そう言われたので、5分ほど待つ。 すると、受付嬢が布袋をジャラジャラさせながら持ってきた。
「ゼフ様、これが今回の報酬の銅貨24枚です。 ご確認くだ
さい」
そう言って渡されるとすぐに24枚あるかを確認し、全てあると分かると口を開く。
「大丈夫だ、では俺はこれから宿に戻る。何かあれば百花という宿屋に来てくれ。 それではまた明日も頼む」
そう言うとゼフは蟲達と共に扉の方へ歩き出す。
「はい、こちらもよろしくお願いします」
ゼフは受付嬢が頭を下げ礼をする。この時ゼフは気づかなかった。 ある集団のゼフを凝視するような視線に……




