王都の終わり
ゼフはインセクト・ドラゴンが通った道をゆっくり進む。衛兵や冒険者の死体が至る所に存在する。目の前を見ると、残りの冒険者や衛兵が戦っているがインセクト・ドラゴンの触手の強烈な1撃で息絶えている。
(そろそろ街に入るな。 一体どれほどの人間がこの圧倒的な力に何を思うのか。 やはり、弱者を恐怖に貶め絶望させ、殺すのは楽しい)
目の前にはインセクト・ドラゴンよりも少し小さいは巨大な城壁が立ちはだかる。
「インセクト・ドラゴン城壁を破壊して進め」
ゼフがそう命令すると、インセクト・ドラゴンは巨大な壁をただ歩くだけで破壊する。一見頑丈そうに見えたその壁もインセクト・ドラゴンにとってはスポンジのようなものだった。ゼフが続いて中に入ると、はっきりと逃げ遅れた人々の悲鳴が聞こえる。
「早く逃げろ! ここはもうダメだ!」
「イヤァァァァァァァ! 足がぁぁぁぁぁ!」
「助けてくれる頼む…… 子供が下敷きになってるんだ…… 頼む……助けてくれ……」
アリシアから聞いた話では一般市民には戦う力を持たないらしいが、本当にそのようだ。インセクト・ドラゴンは毒ガスを体から噴き出して歩いているので、近くにいる人間は毒ガスで苦しみ、その範囲にいないものは触手を使い、顔を確実に潰していく。しばらくするとゼフがつぶやく。
「流石に飽きてきた、そろそろアリシアを殺して終わりにしよう」
ゼフはインセクト・ドラゴンに命令してこの街で1番立派な王城に向かう。これほど安全な戦いはやはり気が抜ける。 だが、これが彼が望んだ戦いであったのもまた事実である。
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城内では魔導士が王女を連れてとある部屋に来ていた。
「ここが転移部屋ということなのかしら」
「はい、そうでございます。 時間もないので急いで陣の中にお入りください。」
アリシアは既にわかっていた。こんなことができるのはあの男だけだと。確かに口約束などほぼ意味を持たないし、この街を壊してもメリットなどないから実行しないと考えていたが、考えが甘かった。
( もう少し私に力があれば、民達を多く逃すことができたのに。 そもそも私だけ逃げていいのだろうか)
アリシアは自分に力が無いからこんなことになっていると本気で思っている。だから、家族も救えないし、民も救えない。彼女の瞳に涙がこぼれる。
「アリシア様の護衛には魔道士10名と戦士を10名つけさせてもらいます。 どうか帝都の方までお逃げください。 そうすればあちらの王はアリシア様のお父様と仲が良かったので、協力してくれると思います」
「本当に私だけいいのかしら? まだ、何かできることがあるはず――」
「アリシア様!」
「⁉︎」
魔導士が今まで見せたことない大声を出し、驚く。
「貴方は生きてください! もし、この事態が自分のせいというなら貴方は生きてこれからのことをお願いします!」
アリシアは魔導士の必死の叫びに頭を縦に振る。これで全部わかった。この者達は自分の為に命を張っているのだ。だったら、自分がやるべきことは生きて、これからあの男のことを知らせることだと。
「ありがとうございます、アリシア様。 では、民間人の方は衛兵の方達が避難にあたっていますので、ご心配なさらないでください。 私達はアリシア様が転移されてから後から転移します」
「わかった、それじゃあお願い。 後で合流しましょう」
そう言うと、護衛達と一緒に陣の上に立つ。
「わかりました、それではいきます」
アリシアはわかっていたもうこの者達には会えないだろうと。7人ほどの魔導士が詠唱すると地面に書いてある魔法陣は光だし、数秒後にアリシア達はその場から消えてしまった。その場にいる魔導師は無事成功したことに息を漏らす。
「すいませんアリシア様、 私達は1つ嘘をつきました。どうかお許しください、そしてお元気で」
そう言うと魔道士は息を吸う。
「さぁ! 人生最後の大仕事しようじゃないか!」
転移魔法は魔力的に一回しか使用することができない。それをアリシアに伝えたらどんな反応をするかわからなかった。だから、あえて彼女には伝えなかった。そして、魔導士達は最後の戦いに向けて城の外へ飛び出した。
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インセクト・ドラゴンが城の前に着いた瞬間、それを待っていたかと言わんばかりにぞろぞろと魔導士が出てきた。しかし、魔導士の癖に特攻するばかりで、あっさりとインセクト・ドラゴンにやられてしまった。
「意味がわからないな。 肉壁になるために出てきたのか? まあ、意味はなかったがな」
ゼフは上を見上げると真っ暗になっており、星が見える。こんなにも時間が経っているのに驚きを隠せない。
「この街は終わりだ、後は蟲達の住処にさせてもらおう。 インセクト・ドラゴン終わらせろ」
そう命令すると、インセクト・ドラゴンは体を持ち上げて思いっきり城にのしかかり破壊する。王都にはその勢いで毒ガスが散布され、街全体が覆われる。
「流石にこれで死なないいということはないだろう」
城の残骸を一瞥した後、ビートルウォリアと探知蟲を1体以外は置いて王都を出る。蟲達にはとりあえず王都に生物を近づけさせないよう命令しておいた。暗い森の中ゼフ達は次の街に向かい始めた。




