悲劇
「なんだあれは! ドラゴンか! ドラゴンなのか⁉︎」
ガリウスが叫ぶ。彼がなぜドラゴンなのか疑問を持ったかというとその見た目である。顔には目が複数付いており、全身のところどころ蟲の脚のようなもの伸縮自在の触手がついている。さらに、羽は羽虫がつけている形状であり尻尾は鉢の針のように鋭く尖っているからだ。
「私にもわかりかねます。 それよりも王女様や町の住民に避難を!」
魔道士が答え、叫ぶ。ガリウスはすぐに落ち着きを取り戻すと、言葉を発した。
「ああ、だから俺達がいる」
魔導士はガリウスのその言葉を察する。
「まさか…… 戦うのですか?」
「そうだ」
「何を馬鹿なことを言ってるのですか! ドラゴンというのは災害級の生き物であり、もし人間が戦ったとしても勝つのは難しいんですよ!」
「俺は別に勝たなくてもいい。王女様と住民を逃がせればいい」
そう言葉に魔導士はわかってしまう。彼がこれからやろうとしていることを。
「あなた死ぬつもりですか」
「いや、そんなつもりはない。 ただ、今回は死ぬかもな」
やはり、魔導士の予想はあっていたらしく、王女様を住民を、そして仲間までも命をかけて守ろうとしているのだ。
「そうですか、その覚悟が揺らぐことはないでしょう。 私達は止めません。 しかし、私達魔術士は王女様を守る役目があります」
「ああ、わかっている。 市民は俺が命に代えても守る。 だから、王女様はなんとしてでも守ってくれ」
「当たり前です。 生きていたらまた会いましょう、ご武運を」
そう言うと魔道士は魔力消費が大きい飛行魔法を使い、城の方へ飛んで行った。
「よかったんですか? ガリウス隊長」
1人の衛兵が近づいてき、問いかける。
「ああ、別に構わないさ。 だが、お前達には悪いことしたな。本当にすまん」
ガリウスは頭を下げる。だが他の衛兵達は笑っている。
「何言ってるんですか」
「そうですよ」
「覚悟はみんなできてますよ」
これから死ぬかもしれないというのにそのような声しか上がらない。ガリウスの目の前が滲んでくるが、すぐに拭き取る。
「そうか…… お前達は本当に俺の自慢の部下だ」
すると、ガリウスは気を取り直して口を開く。
「よし、これから住民の避難に当たるものと降りて時間を稼ぐものに分けさせてもらう! 後は冒険者組合に連絡を頼む! いいな!」
✳︎✳︎✳︎
ゼフはとても久々に20秒も召喚時間がかかる蟲を召喚することができ、ご満悦だった。もし、元の世界でこのインセクト・ドラゴンを召喚しようとしたなら俺を恨んでいる奴がすぐに殺しにかかってくるだろう。召喚魔法を使っている間は自分は何もできない。そこが、召喚士の弱点であった。城壁の方を見ると何かしているようである。
(今更何をしても無駄だ。そもそもデスワームやガシガシに全くと言っていいほどダメージを与えられないのに、インセクト・ドラゴンに勝てるわけないだろ)
ゼフは右手を上げる。久々からか少し緊張するがゆっくり口を開く。
「行けインセクト・ドラゴン。殺せ1人残らず」
ゼフがそう言うとインセクト・ドラゴンは叫ぶ。その咆哮は王都中に響く。そして、インセクト・ドラゴンはゆっくりと1歩ずつ着実に近づいていく。
(念のためにこの世界の衛兵という人間の戦い方を見てみるか。 まあ、期待はしないがな)
ゼフはインセクトドラゴンから15歩ほど離れた位置からついていく。しばらくすると衛兵と思われる者達が出てきてインセクト・ドラゴンと戦い始めた。攻撃は当たっているものの全くと言っていいほど効いていない。
「くそ、なんだこの化け物は攻撃が通らねぇ。 回復
頼む」
「うおりゃゃゃ! 突撃だぁぁぁ!」
衛兵達のそんなやりとりが聞こえてきた。正直な話、連携は素晴らしいだろう。しかし、肝心の強さが伴っていないので、話にならないだろう。しばらくすると、衛兵達が冒険者を引き連れてやってきた。これ以上増えられても面倒なので再度命令する。
「蹴散らせ」
すると、インセクト・ドラゴンは立ち止まり体を震わせる。すると、インセクト・ドラゴンの体から紫色の毒ガスが噴き出す。それはぐんぐんと広がり、冒険者と衛兵、そしてゼフまでも包み込んでしまった。しかし、召喚士の能力で自分が召喚した魔物の攻撃は喰らわない。だから、毒ガスが晴れた時立っている人間はゼフだけだった。
(あっけない、少なくとも状態異常系の魔法を5つか6つ発動しとかないと相手にならんぞ。 まあ、この世界の奴らに行っても仕方ないか)
ふと王都に目を横にやると街から出て行く1つの馬車が視界に入った。
「随分と逃げるのが早いな。 いい判断だ、俺でなければ逃げれただろうな。 あいつらを殺せデスワーム 」
そう命令すると、デスワームは地面を物凄いスピードで馬車向かっていく。馬車に追いつくと勢いよく地面から飛び出して、悲鳴が聞こえる間も無く馬ごと飲み込んだ。その後、逃げられるのが面倒なのでデスワームを100体召喚し、逃げるものを殺すよう命令した。
「さて、再び進み始めようじゃないか」
そう言うとゼフは不気味に笑いながら、虐殺を楽しみ始めた。




