生きる術
ある平原に飛行魔法を使って逃げる一人の男の姿があった。その姿は必死そのものである。
(やばい殺される……)
本来ならば逆だっただろう。しかし、実際には狩られる側だったのだ。
(どうしてこうなった…… くそ、俺にミスはなかったはずだ。 なのにどうして……)
「どうしたんだゼフ。そんなに逃げて。お得意のおもちゃを呼んでみたらどうだ?」
ゼフは何も答えず背中を向けて逃げ続ける。そして、魔法の詠唱をすると魔法陣が数百個現れ1秒もかからず割れた。すると、魔法陣があった場所から蟲の化け物が現れた。
「行けキングボルト、グレムに攻撃しろ」
命令をした後ゼフはまた飛んで逃げていく。ゼフはわかっているのだ。B級冒険者である自分がA級冒険者であるグレムに勝てないことぐらいわかっている。そして、今召喚した蟲たちも1秒もかからずに殺されるだろう。
(相手が悪すぎる相手は蟲殺しで有名なグレムだ。 今回は逃げるが吉だ。 そして、逃げた後は脅威にならないように殺しに行ってやる)
そうこう考えているうちにグレムが飛行魔法を使ってこっちに向かってきた。
「へへへ! お前は運が無かったな。俺に目をつけられたうえに俺のブラフにかかってしまうなんてな! お前は俺の欲求を満たす糧となれ!」
するとグレムは剣を振り下ろしてきた。それを盾となる蟲を召喚して防ぐ。しかし、グレムはすぐに体勢を整えて剣を脇腹の方へ振り払うように攻撃してきた。
(これはまずい)
ゼフは瞬間移動の魔法を無詠唱で唱える。
「――テレポート――」
移動した場所は自分の知らない場所であった。周りに障害物はなく辺りを一望することができる草が生い茂った見晴らしの良い場所だ。ゼフが後ろを向くとグレムも移動の魔法と探知の魔法を使って追いかけてきていた。
「諦めろ、お前はもう無理だ」
ゼフ自身そう感じた。自分はここで終わりだ。もう蟲を出しても勝つことはできない。しかし、自分に言い聞かせるように反論する。
「残念だが諦めの悪さだけはお墨付きだ。 行けデスワーム」
すると、大きなミミズのような化け物が大きな口を開いてグレムの周りを囲んでいた。その数約1000体である。
「こりねぇみたいだな。 即死魔法――デス―― 対象は蟲だ」
それだけで約1000体ものデスワームが絶命する。
(くそ…… ダメだ…… グレムの即死魔法はデスワームでは耐えられない。 どうすればいい…… やはり最後の手段をとるしかないのか……)
「さて、そろそろ追いかけっこも飽きた。 これから仕事がある。 安心しろ楽に終わらせてやる」
「俺はこれで終わりらしいな……」
ゼフはもう何もかも諦めた表情をしていた。だがグレムは魔法で魔力が尽きてないことは分かっていた。だからグレムは慎重になっていた。
(これからこの男に何ができるっていうんだ。 一撃で決めてやる。 だが蘇生魔法には注意せんといけんな。 まぁ、それは殺してからでもいいだろう)
グレムが飛び出すよりも先にゼフはあるアイテムを使った。そのアイテムに名前はなく、ただ偶然見つけたものだった。しかし、そのアイテムに込められた魔法はゼフが使えない転生魔法だった。眩い光がゼフを包み込む。
「ぐわっ、その光はお前転生する気か! させるか!」
グレムは転生することに気づき飛び出す。しかし、それよりも先にゼフの魔法が発動したのだった。
✳︎✳︎✳︎
目が醒めると知らない森に居た。しかし、それよりも驚いたことがあった。
(何故赤ん坊ではないんだ……)
普通転生魔法は赤ん坊になる魔法であり、上位になればなるほど知識や能力が引き継がれる確率が上がるというものだった。ゼフはそんなことを考えつつ、すぐに次の行動を移す。
(まずは周囲の警戒しなくては)
ゼフは覚えている1508個の隠蔽魔法を唱えた。次に探知魔法を5種類ほど使い周囲に生き物がいるか調べ始める。
(なんだ? 生き物の集団がいる。だけど、こいつらなんで隠蔽の魔法を発動してないんだ? ステータスまで見えるぞ。 馬鹿じゃないのか?)
ゼフが元いた世界では隠蔽は最低10個発動しとかなくてはならないというのは常識である。だから、ゼフは警戒の意味も込めて1508個の隠蔽の魔法を唱えたのだ。
「とりあえず行って確認するか。 その前に来いデスワーム」
名前を呼ぶと、魔法陣が現れ割れる。 そこにはデスワームが3体召喚されていた。
「護衛を頼む」
ゼフは探知魔法を使うと生物の反応がするところを見つける。そこにデスワーム3体と共に向かう。
「何しているんだアレは?」
生物の反応がするところに着くと、そこでは馬車が数人の男に襲われているようだった。
「情報が欲しいな。 弱い奴を1人だけ生かしてあとは殺すか?」
ゼフの世界は武力が全てであり、知らないものを助けることは愚の骨頂とまで言われるほどである。
「デスワーム行け。 馬車にいるものを1人だけ生かして後は殺せ」
ゼフはそう命令したのだ。そうそれがこの世界でもっともやってはいけない王族殺しとは知らずに……