第二部 プロローグ
入学式が終わった。彼女と同じ中学に、私は通い始めた。
小学校の卒業式や、中学校の入学式に関する思い出というのはほとんどない。長い話を聞いて、歌を歌って、それで寂しくなって涙を流すようなこともなかった。両親に手紙を書こうという学校側の企画にはうんざりしたし、ありきたりな「いつもありがとう、これからもよろしく」などとしか書かなかった。それを見た両親がどう思ったのかは分からないし、ましてや読んだかどうかも分からない。保護者の席から両親を探すようなこともしなかった。
私には、大した問題ではなかった。卒業とか入学とか、それで得られる祝いとか、私にはどうだっていいことだった。私にとって大切なのは、やっと、こうしてまた、結城比奈と同じ学校に通うことができるようになったことだけだった。紅く光る桜並木で胸がいっぱいだった。
毎日のように通学路で顔を合わせていたから、覚えていてくれるだろうかという心配は当然のごとく存在せず、私はまた学校で彼女を探して、目が合って、それで他愛もない話に花を咲かせられることが嬉しかった。そして入学式を終えた普通の登校日には、通学路で私が中学に入学したことを祝福してくれた。私が入学を何らかのお祝いごとだと気付けたのは、それが初めてだった。