43.ジェロは嗄れた声でルビニ達の危険を警告する。
ブリュオンとクローロンは縛り上げた兵士達を連れて、アクテーの近くにある坑道のひとつに潜り込んでいた。
「で、お前達はその翼を生やしたアルブを殺せと、命令を受けたんだな?」
「そ、そうです。なんでもメソンにとって危険な人物だそうで……」
「そんな! ライ……あの方は、危険なんかじゃありません!」
ブリュオンはわなわなと声を荒げて叫んだ。
「どうする? こいつら、アノカタを殺すつもりだとよ。首を切り落としておいたほうが良く無いか?」
クローロンは縛られた兵士達を見下ろして短刀の刃をちらつかせ、にやりと不気味に笑いかけた。
効果はてきめんで、兵士達はすっかり震え上がり、瞬きも忘れて目を見開いている。
「まあ、流石に俺達だって、命までは取りたくは無い。情報も頂いたことだし、今日は殺さずにおいてやることにしよう」
クローロンが4人の兵士達の顔を1人1人見据えて言うと、兵士達は安堵の吐息をもらした。
「けど、お前達がまた僕……俺達やライナ……あの方に、害を及ぼすような事をすれば、命は無いと思え!」
なるだけ強気に見えるようにと、ブリュオンは不自然な程に胸を反らし、顎を突き出している。
クローロンはなんとか笑いを噛み殺して続けた。
「王都へ報告したり、俺たちを追って来ようなんて思うなよ? どこか遠くで、ひっそりと余生を大切に暮らすこった。判ったか?」
男達は許しを請うように何度も頷いた。
クローロンはそれを確かめると、男達から剥ぎ取った武器を担ぎ、ブリュオンを促して坑道の外へ出た。
坑道の中からは兵士達が縄を解いてくれと懇願する声が聞こえて来る。
クローロンは兵士から奪った武器を縄で纏めて、アンシュノの鞍へと結わえ付けた。
「追ってるのはあと2人か。ま、ライナスなら大丈夫だろうな」
「じゃあデュシスへ──」
「──まさか、帰ろうって言うんじゃないだろうな?」すかさずクローロンが言った。
「だって僕達、黙って出て来ちゃったし……」
「だからこそ、まだ帰れないだろ? 帰ってネフリティス様になんて言うんだ──メソンから2人の刺客が迫ってるようですが、ライナスなら平気だと思って帰って来ました──って?」
「判ったよ! 付合えばいいんだろ。付合えば」
ブリュオンは大きな溜息をついた。
「お前だってネフリティス様とエスカラ様を安心させたいだろ? さ、行くぞ!」
「ねえライナス。あなた、クロススの花を持って来ていない?」
「こんな時になんだよバステト。ジェロが怖いのか」
ライナスとバステトは、鉄格子の向こうで歩き回るジェロから目を離せずにいた。
それは畏怖からなのか憐情からなのか、それとも拭いきれない求知心からなのか、2人は互いにエルトロの家へ帰ろうと言い出せずにいた。
「そうじゃないわ。オゾスが言ってたじゃないの。クロススの花は狼除けにも、魔除けにもなるって」
「ジェロが魔物だって言うのか!?」
「魔物の力に操られている可能性があるって言ってるのよ。持ってるの? 持ってないの?」
「こんな所まで持って来てるわけないだろ。全部荷物は家に──あ。これじゃ駄目かな」
ライナスはシャツと腰帯の間に指を差し入れると、1枚の花びらを取出した。
「効くかどうかは判らないけど、駄目で元々よ。鉄格子の中に入れてみましょう」
ライナスが鉄格子へ近付くと、ジェロは恐ろしい咆哮をあげて威嚇した。
赤紫色をしたひとひらの花びらは、ライナスの手から放れてヒラヒラと鉄格子の中に舞込み、牙を剥いて唸り声をあげていたジェロの肩に乗った。
するとジェロの表情が、苦しそうに歪んだ。
「ジェロ? 大丈夫?」「ア……ぶな……」
ライナスが声をかけると、ジェロが嗄れた声で唸った。
「キケ……ンだ……ウびに……オゾス……」
「ルビニとオゾスが危険だって言いたいの?」バステトは叫んだ。
「そウダ……タスけ……いけ!」
ジェロは絞り出すようにそれだけ言うと、遠吠えのような声をあげた。
「今の、ルビニとオゾスが危険だから、助けに行けってことよね!?」
「ぼくにもそう聞こえた! バステト、行こう!」
ライナスとバステトは翼を広げ、エルトロの家へと急いだ。