40.クローロンとブリュオンは揃って天高く矢を放つ。
ライナス達が荷車を見送っていた頃、クローロンとブリュオンはアンシュノを並走させ、メソンの兵を追って東へと向っていた。
前を走る兵士達も前に2人、後ろに2人と並走している。
「どうやら食堂のおっさんの予想は当ってたみたいだな。あいつら東へ向ってる」
「ねえ、クローロン! やっつけるって言ったって、どうやってやっつけるつもり? あっちは4人だよ?」
「ほんっとにお前は、いっつも弱気だな! 食堂のおっさんは1人で3人も片付けたじゃないか。俺たちなら4人ぽっち、なんてことないさ」
「それはだって、あいつらが酔っ払ってたからで……」
ブリュオンは弱々しく訴えた。
「なんだ情け無い! お前もアルブの男だろ?」
「僕達、人と戦ったことなんて無いじゃないか──まさかクローロン、あいつらを殺しちゃうつもり?」
「ばか。俺だってそこまではしたくないさ。だからずっと追付きすぎないようにして後を付けてるんだろ? ちょっと待てってブリュオン。さっきから俺だって考えてるんだ」
クローロンは真面目な顔をして、セオの兵士達の背中を見つめた。
ブリュオンはそんなクローロンの横顔を見て、嫌な予感が過るのを抑えられなかった。
『だめだ、思い付かねえ! 一か八かでやるしかないだろ!』などと言って、考え無しに突っ込んで行くクローロンの姿が目に浮かぶ。
「そうだ、クローロン。前を走る馬の足元を狙える?」
「は? 誰に言ってんだ? 俺はこの距離ならホクロだって狙えるぜ!」
「ホクロってどこに?」「ばか、ものの例えだ。馬の足を狙えばいいんだな」
「あ、当てちゃ駄目だよ? 脅かすだけ!」
「なるほど、了解! 俺は右側の馬を狙う! お前は左だ!」
2人は風を読み、タイミングを合わせ、各々に馬の足元を狙って矢を放った。
クローロンとブリュオンが空高く放った矢は見事な放物線を描き、前方を走る馬の前足近くの地面へ、グサリと突き刺さる。
馬達は突如空から降って来た矢に驚き、前足を高く上げて嘶くと、背に乗せた兵士を振り落として一目散に駆け出した。巻き上がる土埃の中、すぐ後ろを走っていた馬達も目を剥いて暴れている。クローロンとブリュオンは続けて更にもう一度矢を放ち、暴れる馬を脅かすと、兵士達は揃って地面に叩き付けられた。
「いっちょあがり!」
クローロンは満足そうな笑みを顔いっぱいに広げる。
「まだだ! 早くあいつらを捕まえよう! この縄使って!」
ブリュオンはそう言ってクローロンに縄を放って寄越すと、兵士達が転がっている側まで行き、アンシュノの背から飛び降りた。
地面に叩き付けられて呆然としている兵士達へ、ブリュオンは素早く弓矢を番えて構える。
クローロンはいつになく堂々としたブリュオンの動きに感心して、ヒュウっと口笛を鳴らした。
「お前達、翼を生やしたアルブに用があるらしいじゃないか。どうして追ってるのか詳しく聞かせてもらおうか?」
クローロンは兵士達に縄をかけて手足を縛り上げると、腕組みをして凄んでみせた。