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ETERDUM  作者: 時雨小夜
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4.メソンのことをエスカラは語りたがらない。

 森はすっかり夜気に包まれて、ライナス達がアルブの家の立並ぶあたりに到着した頃には人影もまばらだった。


 絡ませた蔦と白土とで建てられた円柱型のアルブの家は、まるで巨大な白樺の太い幹が乱立しているように見える。戸口ごとに吊るされた小さなランタンがほんのりと森を照らして、遅い家人の帰りを待っていた。


「道案内をありがとう。いろいろとお話ができて楽しかったよ、ライナス君」

 ディオニーサスはライナスに礼を言うと、出迎えたネフリティス翁と連れ立って、泉の側にある屋敷奥へと入っていった。バステトは結局、あれから一度も袋から顔を出しもしなかった。

 


「なんだ。もうぼくは用済みか」

 

 ライナスは少しがっかりした。せっかくアルブではない人達と知合いになれたのだ。何かもっとわくわくするようなことを期待していたのに。

 

 ──あのバステトっていう女の子にも、翼があったな──

 

 自分に翼があることを、ライナスが不思議に思わない日は無かった。デュシスの森で翼があるのは、自分と鳥達だけだ。アルブには翼なんて無い。


 王都メソンからデュシスの森へ、母に連れられて来たのはまだライナスが2歳の頃だった。おかげで、メソンで暮らしていた時のことを、15歳になった今では全く覚えていない。母のエスカラは昔のことを話したがらないし、祖父も話してくれない。王都を離れた理由も、父が不在の理由も。

 

「ぼくのお父さんにも、翼があった?」

 幼い頃、一度だけ母にそう尋ねたことがあるが、母は悲しそうな顔をするだけで答えてくれなかった。

 ライナスはその時の、悲し気に目を伏せた母の顔を思い出す度に、胸が苦しくなる。

 それきり、翼のことも父のことも、誰にも尋ねる気にはなれなかった。

 


 ライナスが家に帰ると、エスカラは食事の支度をして待っていた。

 バムナスの葉で包んだクア(川魚)の蒸焼き、それにチャム(木の実のパン)を焼いた芳ばしい良い香りが、家の中を満たしている。

 

「今日は大変だったでしょ? お父様の所にお客様がいらしたんですってね。久しぶりのことで、皆が大騒ぎしてたわ」

 エスカラがクアを皿に取り分ける。バムナスの葉を剥がすと、湯気立ったクアの美味しそうな香りが鼻孔をくすぐり、食欲を掻立てた。

 ライナスは食事の時に、クローロンの小言以外のことを母に話せるのを嬉しく思った。

「うん。ディオニーサスっていう男の人と、バステトって女の子だったよ」

 エスカラは少し考え込むように首を傾げた。

 

「ディオニーサス様は知ってるけど、バステトってどんな子?聞いた事がない名前だわ」

「可愛くて綺麗な子だったよ。ぼくと同じくらいの歳に見えたな。黒い髪で、肌が琥珀色なんだ。で、瞳がディオニーサス様と同じ紫色をしてたから、娘さんですか?って聞いたら、怒っちゃった」

 ライナスはわざと、バステトに翼があったことは言わないでおいた。また母が悲しそうにするのを見たく無かった。

 

「でも、ディオニーサス様は、何をしにデュシスまでいらっしゃったのかしらね?そんな女の子を連れて」

「さあ? お爺様も、ディオニーサス様も、何にも言わなかったから。そういえばぼくのこと、ホランコレーだとか言ってたけどなんのことかわかる?」

 エスカラは食事する手を止め、ライナスをじっと見つめた。

「母さん……?」

 ライナスは母の顔から徐々に血の気が引いて行くのを見て、不安に手足が強張るのを感じた。



 エスカラはそうしてしばらくの間、じっとライナスを見つめていたかと思うと、はっと我に返った。

「大丈夫? 母さん」

 エスカラは微かに頷くと、口を開いた。

「……ホランコレー。随分前、確かに聞いたことがあるわ。けど、思い出せないのよ。とても大切なことだと思うのに」

「そんなに大変なことじゃないよね? きっと。母さんが忘れてるくらいだもの」


 ライナスがそう言って微笑んで見せても、エスカラの表情はどこか翳って見えた。

 

第4話目*メソンのことをエスカラは語りたがらない。も、引続き

http://sayoshigure.seesaa.net/

上記URLにてイメージ画像をアップしてみました。

興味がおありの方はどうぞ。

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