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ETERDUM  作者: 時雨小夜
31/48

31.エルトロは早朝にアクテーの鍛冶屋を訪れる。

 ライナス達が夜の眠りについた頃、ゲイブンは燭台を手に、月を眺めていた。

 長椅子の上で横たわる女王の口から、小さな呻き声が洩れる。

 横に置かれた小さなしょくには、空になった白い瑪瑙めのうの玉杯が倒れていた。

「お目覚めですか? 女王陛下」

 ゲイブンはそう言って、ゆっくりと女王へ歩み寄る。

「まったく私とした事が、小娘1人の体もままならないとはな」

「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」

 ゲイブンは女王が長椅子から起き上がるのを助けた。

 女王は忌々し気に頭を振って、高く結上げてあった金色の髪を振りほどく。

 頭が痛むのか、女王は額に手を当てて、長椅子の背に体をもたせ掛けた。

「して、ダンザックから何か知らせは? あれから何日経った?」

「3日経ちます。それと、ダンザックからの知らせは……まだ何も」

 ゲイブンは顔をしかめ、蒼白い額に縦じわを刻んだ。

「──逃げられたのかもしれんな。見付けていたなら、そろそろ知らせが来てもいいはずだ」

 女王は苛立ちを紛らわすように、長椅子の肘掛けを爪の先で数回弾くと、思い立ったようにゲイブンを見据えた。

「おまえの方はどうだ? 他の2人のことは、何か判ったか?」

「北も南も、精霊の気配がまだ感じられませんので、少々手間取っています。しかしそろそろ限界かと。あれから13年も経ちますので」

「お前も面白いことを言う! 13年も、か! たった13年しか私の目を誤魔化せぬ、それが奴らの限界とはな!」

 女王はゲイブンの言葉に高らかに声を上げ、下卑た笑いを浮かべた。




 翌朝早く、エルトロは一軒の小さな鍛冶屋を訪れていた。


 鍛冶屋の並ぶ狭い裏路地には、キィンと甲高く澄んだ、鉄を打つ音が工房から洩れ響いている。

 重く軋む扉を開けて、薄暗い店内に入ると、エルトロは呼び鈴を鳴らした。

 呼び鈴に応えて、お世辞にも愛想があるとは言えない、汗だくになった中年のトルル女が顔を出す。

 炭で汚れた顔には、赤い髪がべっとりと張付いていた。

「いらっしゃい。何か御用かい」

 女は汚れた顔を、首にかけたシミだらけの布切れで拭いながら、エルトロにたずねた。

「頼んでおいたものを受取りたいんだが」

 エルトロがそう言うと、女は返事をする代わりに、店の奥の扉に頭を突っ込んだ。

「あんたー! 客が来てるよー!」

「あぁ!? なに言ってんだか聞こえねえ!」

 店の奥から、男のがなり声が返って来る。

 女が奥へ引っ込むと、しばらくして槌を振るう音が止み、煤けた赤い髪をぼうぼうに逆立てたトルルの男が姿を現した。


「なんだ、爺さん。朝早くになんか用か」

 男はぶっきらぼうにそう言うと、逆立った髪に手を突っ込んで、わさわさと頭を掻いた。

「前に頼んでおいた物を受取りたいと思ってね。わしの背丈くらいある長剣なんだが……」

 エルトロがそう言うと、鍛冶屋は頭を掻いていた手を止めて、目玉が飛出しそうな顔をした。

「ああ! そうだそうだ、あんただった! ちょっくら待ってろ」

 男は慌ただしく店の奥に引っ込んで、一振りの剣を持ってかえって来た。

「いやあ、爺さん。こんな剣をどこで手に入れたんだ? 俺も長年鍛冶屋をしてるが、こんな剣を鍛えたのは初めてだったよ」

 男はそう言うと、店棚に乗せてあった金物を、根こそぎ腕で払い落とし、空いた棚の上へ長剣を寝かせた。

 男が鞘からおもむろに剣を引き抜くと、滑らかに磨がれた鏡面のような剣身が煌く。

 そこには長く美しい尾を巻付かせた、赤い鳥が浮き出ていた。

「なんですか? この鳥の模様は。こんな細工は頼まなかったはずだが」

 剣身に浮き出た鳥の赤い羽根は、燃立つ焔のようにチラチラと色を変える。

 まるで剣の中で、赤い鳥が生きて呼吸をしているようだ。

「俺は何もしちゃいないよ。勝手に浮き出て来たんだ。しかしこれは、浮き出てるというより──」

「──剣の中で生きているみたいだ」

 エルトロは剣身の表面を撫でてみた。細工をしたような凹凸おうとつは無い。

「なあ、言い値をいくらでも払うから、俺にこの剣を譲ってくれんか?」

 そう言いながら鍛冶屋の男は、うっとりと剣の中の鳥に見蕩みとれていた。

 エルトロは男の言葉に慌てて剣を鞘に戻すと、棚から降ろし、鍛冶屋の男を睨みつけた。

「これだけはいくら払われても譲れん! これはわしのじゃなく、息子のものだからな」

 鍛冶屋の男は心底惜しそうな顔をしたが、エルトロの気迫に根負けした。

 両手を降参したというように、肩の上でひらひらと振ってみせる。

「仕方ない。客の物を取り上げるわけにはいかんしな。一生に一度目にできただけでも、儲け物ってもんだ。我慢するよ」

 エルトロは鍛冶屋に金を支払うと、長剣を両腕で抱えて、そそくさと店を後にした。 

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