表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ETERDUM  作者: 時雨小夜
29/48

29.猫の女神と翼を持つアルブは川辺の町で罵り合う。

 エルトロが部屋を出て行った後、ライナスはしばらく手のひらを見つめていた。

 思いのほか強く握りしめていたのか、小さな三日月型の跡が残っている。


「すっかり警戒されちゃったな」オゾスは溜息まじりにつぶやく。

「でも、何か隠してるみたいね。本人に会ってみなくちゃ。親の許しは、必ずしも必要ってわけじゃないわ」

 そう言うバステトも、苦々し気に小さな溜息を漏らした。

「エルトロさん、どうかしたんですか?」

 部屋に戻ったばかりのルビニとコキニーは、身の置き所が無い様子で、扉の前に立ったままオロオロしている。

「俺たちに関わると、ろくな事にならないって思われちまっただけさ」

 オゾスはそう言って、ルビニへ笑ってみせた。

「そんな……私、ちょっと行って来ます」

「女性がこんな遅くに1人で外へ出るものじゃないよ。どうしても行くなら、僕も行く」

 ルビニとコキニーはエルトロを追って部屋を出ていった。

「こういうの、親父ならうまくやれるんだろうけど……連れてくりゃ良かったぜ」

 オゾスは寝台の上に身体を投げ出して天井を見上げた。


「……ライナス? どうかしたの?」

 ライナスは身じろぎもせずに口をきつく引き結んでいた。

 少し間を置いてゆっくりと顔を上げたライナスは、どこか虚ろな目でバステトを見つめる。

「ねえ、バステト。ぼくは本当にホランコレーなのかな? どうしてぼくはセオの兵士に追われているの? 13年前の記憶は、どうしても思い出さなくちゃ、いけない?」

 ライナスの抑揚の無い声には、はっきりと不安が滲んでいた。

「何を言い出すのよ……決まってるじゃない」

「だって、13年以上前のことなんて、今のぼく達に何か関係がある!? ホランコレーって言ったって、ぼくにだけバステトが女の子に見えるから、それがなんなの? セオの兵士なんて、ぼくは知らない! ずっとぼくがデュシスに居れば、皆が安全に暮らせてたんじゃないの?」

 ライナスは声を尖らせて、感情的に喚いた。

「私が悪いって言いたいの? 私にも、ディオみたいに消えろって!? そうよね、あなたには全部どうでもいいことなんだわ!」

 バステトも声を張り上げる。猛烈な怒りに体が震えて、目には涙が滲んでいた。

「そんなこと言ってないだろ!?」

「もう2人とも、いい加減にしろよ!」オゾスは立ち上がって、足を大きく踏み鳴らした。



 エルトロは宿屋の外へ出ると、広場に置かれた岩の縁台に腰掛けて、夜空を見上げた。

 少しだけ西へ傾いた小望月が、薄い雲に見え隠れしている。

「ジェロ……」

 エルトロは息子の名を呟いた。

 初めて息子を抱き上げた時のことを、エルトロは思い出していた。

 傷だらけで、浅い息の、小さなセオの子供を見付けた時のことを。

 あの時はただ、今にも消え入りそうな命を見捨てられなかっただけだった。

 パパルナが、自分達の息子として育てようと言い出した時には反対さえした。

 それが今、自分にとって、どれだけ大きな意味をもたらす存在となったことだろう。


「エルトロさん」後を追って来たルビニが、心配げに声をかける。

「ルビニ、コキニー」エルトロは振り返ると、力無く笑った。

 ルビニはエルトロの隣に腰掛ける。

「ジェロのこと、私があの人達に話したんです」

 薄い雲が風に流されて、ルビニの顔に月明かりがさした。

「特別な力が、あの子にあるって?」エルトロは首を横に振る。

「それは判りませんけど。あの人達、王都メソンの兵士に追われてるんです」

 それを聞いて、エルトロはぎょっとして目を見開いた。

「そんな危険な人間にあの子のことを──!」

「待って下さい。エルトロさんも見たでしょう? 翼があるアルブの少年。あなたを川から引き上げた……追われているのは彼なんです。兵士に追われるような、悪い人に見えます? 私にはどうしても、そうは見えません。あなたのように、命を助けられたわけではないですけど」

 ルビニはエルトロへ、諭すような優しい笑顔を向ける。

 穏やかなその表情に、迷いや怯えは無い。

 その名前が示すように、月明かりに照らされたルビニの赤い瞳は、宝石のように澄んだ輝きをたたえていた。

「彼らは、私が知らせるまで、兵士に追われるとは夢にも思っていない様子でした」

「どうして、彼らは追われているんだ?」エルトロが尋ねる。

「さあ。それは想像するしかないですけど。あの言葉を話す妖精猫……バステトさんは、メソンの真の王を守る女神様だって言っていました。彼等が探しているのはその真の王である可能性を持つ人だとか。あの翼があるアルブの少年も、その1人だと聞いています。それで、女王が追手を差し向けたんじゃないかって」

「そんな話を、わしにも信じろと? そんなのは子供達の戯言たわごとじゃないのか?」

「そんな子供達を、大人の兵士達が追っているんですよ? 武器を持って、隊商の扮装をしてまでです。私には少なくとも、彼等が兵士に追われるような悪人には見えません。彼等が言ってることが事実で、彼等が探しているのが、本当にジェロくんだったら……?」

「ジェロだったら……彼等はジェロを連れて行くんだろう?」

「本当にジェロだったら、ジェロも兵士に捕らえられるかもしれないってこと?」

 じっと話を聞いていたコキニーがおずおずと口をはさんだ。

 それを聞いて、エルトロの膝の上で組まれた指に力がこもる。

「まだ、そうだと決まったわけでは無いんです。危険が無いかどうか、確かめるために……会わせるだけ会わせてみてはどうでしょう?」

 そう言ったルビニは励ますように、エルトロの手へ自分の手をそっと重ねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ネット小説ランキング>冒険・サスペンス部門>「ETERDUM」に投票(月1回)
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ