21.旅人達は隊商護衛士の目的について考察する。
そのまま部屋へと帰ったステルコスは、後ろ手にそっと扉を閉めた。
あの男達はライナスに、いったい何の用があるというのだ……。
「ライナス、セオの隊商がお前を探してるぞ」
寝台脇の椅子に座って談笑していたライナスとオゾスは、何を言っているのかという顔で扉の前に立つステルコスを見上げた。
「どうして隊商なんかがライナスを探すんだ? なんか売りつけたいもんでもあるのか? 羽根のカバーとか」
オゾスはそう言って、可笑しそうに笑った。
「それじゃ、バステトも紹介してやらなくちゃな」
ライナスがオゾスの冗談に付合う。
2人はひとしきり自分達の冗談に笑い合っていたが、ステルコスの真剣な様子に気がついて、笑いを押し殺した。
「冗談を言ってる場合じゃないかもしれんぞ。探してる男は隊商の護衛士みたいな格好をしてた。見た所腕が立ちそうなやつだ……商売の話とは思えん」
関心が無さそうに寝台の上で丸くなっていたバステトも、顔を上げる。
「どういうこと? その男はなんて言ってたの?」
「翼の生えているアルブを見ていないか? というようなことを聞いていたと思う。ルビニに、ご丁寧にも金貨まで渡していた」
ステルコスは扉の外を警戒して、声を抑えた。
「怪しいわね。ライナス、そいつらに心当たりは?」
「あるわけないだろ? ぼくがデュシスにいた間は、セオに知り合いなんてなかったし」
ライナスの答えに、バステトは難しい顔をした。
「ってことは、王都にいた頃のライナスを知っているのかしら?」
「そんなこと……だって、ぼくがメソンにいたのって13年以上前……」
ライナスがそう言ったその時、扉をノックする音がした。
扉を背にしたままで立っていたステルコスは、驚いて飛び上がった。
「お客様、お食事をお持ち致しました」
扉の向こうから、ルビニの声がする。
ステルコスは気を取り直して、ライナスへマントを羽織るように合図してから慎重に扉を開けた。
「大丈夫。私ひとりです」
小さな声でそう言うと、ルビニはステルコスに頷いてみせた。
ルビニは車のついた台に食事を乗せたものを部屋へ運び入れて、扉を閉めた。
「さっきはありがとう。助かったよ」
ステルコスはルビニへ礼を言った。
「いいえ。お客様のプライバシーを守るのも私の仕事ですから。それと──お食事、やっぱりお部屋で召し上がりますよね」
ルビニはにっこりと笑顔をむけた。
「あのさ、ルビニ。ひとつ聞いてもいいかな」
「どうぞ」
「あの人達、誰だか知ってるの?」
ライナスの質問に、ルビニは食事を並べる手を休めずに答える。
「私に質問された男の方は初めて見る顔でした。けど、中にいた何人かは知っていましたよ。あなた達、何故あんな人達に追われてるんです?」
「あいつら、いったいどこの誰なんだ? 教えてくれ」
「王宮の兵士達ですよ。王都メソンの。知らなかったんですか?」
ルビニはステルコスの言葉に驚いたように答えると、大きな目を更に丸く見開いた。
仕事の後でまた来ることを約束して、ルビニは部屋を出て行った。
「王都からの追手か。ますますキナ臭いよな」
オゾスは豚肉とラ・ガに衣を付けて揚げた、スヴィニ・ラという料理を口一杯に頬張って、モゴモゴと喋った。
「ディオニーサスが、ぼくは思ってる以上に知られてるって言ってたけど?」
「それとこれとは別よ。ディオが言ってたのはセオに、って意味じゃないわ」
バステトはいつもに増して、イライラしているようだった。