2.ディオニーサスは空飛ぶ猫に辟易する。
「あれがデュシスの森? 見えるのは岩壁ばっかりじゃない」
バステトはディオニーサスの肩に担がれたズタ袋から這い出して、そのまま頭の上によじ登り、遠くの岩壁を眺めた。
「いや、あの壁の向こうには間違いなく大きな森が広がってるよ。それよりバステト、起きたんならわたしから降りて、自分で歩くなり飛ぶなりしてくれよ」
バステトは不満そうに口許を膨らませて、ふぅっと鼻を鳴らした。
「ああもう、ディオったら文句ばっかり!」
バステトはそう言うと、しぶしぶディオニーサスの頭から降りて、小さな薄桃色の翼を羽ばたかせた。
どちらかというと、道中ずっと不平不満を言っているのはバステトのほうだったが、ディオニーサスは口許を少し歪ませただけで留めた。
バステトとの2人旅には、何より忍耐が必要だ。
デュシスの森の岩壁が迫ると、岩壁の上部に空けられた縦に細長い窓の向こうで、番えられた弓矢がディオニーサス達2人を狙っているのが見えた。
「アルブって、とても友好的みたいね。袋の中に入っていれば良かったわ」
「ああ。きっと憎まれ口がお得意の、空飛ぶ猫には特に友好的だろうな」
バステトが珍しく言い返さなかったので、ディオニーサスはバステトを横目で見た。彼女にしてはひどく動揺しているようだ。
「大丈夫、危険が無いとわかればアルブは気のいい種族だ。もてなしてくれるよ」
門番に立っていたアルブ2人は、見馴れない客人に戸惑って、しばらくの間、どちらが声を掛けるかを譲り合っていた。
譲り合いの結果、どちらかというと気の弱いブリュオンに任されることになった。
「お客人はどなたでいらっしゃいますか?」ブリュオンは緊張でひっくり返った声を張り上げた。
とたん、ブリュオンは耳まで赤く染まった。何十年かは、これでデュシスの笑い者だ。
「ディオニーサスとバステトと言います。ネフリティス翁にお会いしたいのですが」
ディオニーサスがそう名乗ると、門番達は再び目配せをし合って揉め始めた。
名前を聞いた所で、門を潜らせて良いものかどうか、判断しかねているらしい。
「まったく。アルブって綺麗なだけで、とんだノロマね。きっとあの矢だってここまで飛んできやしないわよ」
バステトはすっかり警戒をといて、得意の悪態をつき始めた。
ディオニーサスはアルブが揃って例外無く、弓矢の名手だということを、バステトには言わないでおくことにした。
「何を揉めてるんだ?」
ライナスが岩壁に戻って来ると、門兵達が相変らず揉めていた。
「あ、ライナス様。客人がネフリティス様にお会いしたいそうで」
「ディオネイサス様と、バスタト様とかおっしゃっていました」
「いや、ディアネースス様とアステト様じゃなかったか?」
門番達は慣れない仕事で、頭から湯気を出しそうに混乱していた。
「たぶん、ディオニーサス様だろう。ネフリティス翁が、そうじゃないかと言っていた。通していいそうだよ」
ライナスがそう告げると、門番の2人は揃って胸を撫で下ろした。
「ぼくがご案内するから、ブリュオンは警備とクローロンに伝えてきてくれ」
「わかりました!」
ライナスは客人へ呼びかけた。
「デュシスの森へ、ようこそ!」
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