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ETERDUM  作者: 時雨小夜
17/48

17.王都メソンの女王はクロススの芳香を好まない。

 デュシスの森とテロス大地の間には、乾いた平原が広がっていた。

 時折暖かい風が吹いて、転がるように砂塵を巻き上げてゆく。

 赤土に緑の草地、それに灰褐色の砂地とが折重なり、青い空には櫛で梳いた白髪のような薄い雲が、見渡す限りに広がっていた。

 その中に赤と碧の斑模様をした、大きな石柱型の岩が点在している。

 それはまるで巨人の居住跡かと思えるような、不思議で色鮮やかな光景だった。

 南門を出て1日も来ていないのに、デュシスの光景とは、似ても似つかない。

 

 日除けに薄手の白いマントを着込んだ3人のアルブ達は、屹立する巨岩の合間を縫ってアンシュノを走らせた。

 バステトは午前中の間はひとりで空を飛んでいたが、寂しくなったのか、もしくは疲れたのか、午後の休憩を挟むと、ライナスが駆るアンシュノの尻の上に後ろ向きで座った。

 尻に乗られたアンシュノは不服を申し立てるべく、黒く長い尾をぶんぶんと振回した。

 しかし、バステトは尾が振回されるのを面白がって喜び、アンシュノの訴えは虚しくも聞き届けられなかった。


 1日目の夜は野宿をすることになり、灌木を利用して簡単な天幕を張った。

 大きな平織の布の中心に、枝へ引っ掛けるように縄が縫付けられているものだ。

 その縄を適当な高さにある木の枝に結び、布の端を地面に杭や小石で固定する。

 天幕の中は我家のように居心地が良いとは言い難かったが、眠るだけなら充分な広さがあった。

「このあたりにも狼が出るの?」

 バステトは不安気に辺りを見渡す。

 この平野には、巨岩の影の他に隠れる場所も無い。

「神は死なない。って、言ってなかったっけ?」

 ライナスが天幕に木の杭を打込みながら、冗談めかして言う。

「死ななくたって、咬まれて痛いのはごめんだもの。それに、永遠に狼のお腹の中で生きるなんて、耐えられると思う?」

 バステトは大真面目だ。

 ライナスは、狼の腹の中で余生を過ごすことを想像してぞっとした。

 デュシスの森で300年生きるよりも、ずっと最悪な気分になるのは間違いない。

 バステトとライナスがいくら空を飛べると言っても、普通の鳥だって狼の餌食になるのだ。

 どちらにも餌にならない保証は無いだろう。

「この辺りなら、時々だが狼は出るぞ。けど、良いものがある」

 ステルコスはそう言って、荷物の中から鮮やかな赤紫色の花を取出した。

 球根から真直ぐな茎を伸ばし、六枚の花弁が大きく花開いている。

 細く真白い花糸の先には、黄色いやくが可愛らしく揺れていた。

「クロススの花?」

 ライナスも知っている、デュシスの森でよく見かける花だ。

「これを腰帯に差しておくんだ。馬の足元にも撒くといい。毒草で、狼除けになる」

「魔除けにもなるって聞くぜ」

 オゾスが付け加える。

「とっても綺麗」

 バステトはうっとりと、手渡された花の甘い香りを吸込んだ。




 一方、王都メソンではひとりの美しい少女が、金の杯に張った黒い水を覗き込んでいた。

 黄金色の豊かな巻毛を背まで垂らし、銀糸の刺繍が施された、繻子しゅすのドレスをまとっている。

 白磁のような肌に淡いバラ色の頬。

 長い睫毛に縁取られた大きな紫色の瞳には、見たものの心を奪わずにはいられないような魅力があった。

「とうとう出てきおったか。あのうるさい羽虫どもめが」

 少女の艶やかな花唇かしんからは、似つかわしく無い言葉がこぼれた。

 覗き込む金の杯には、白いマントを纏ったアルブの少年が、青毛の馬を駆る姿が映っている。

 今ではこれだけの簡単な術を使うのにも、少女の体は軋むように痛んだ。

「しかしあんな子供らに何が出来るというのだ? 精霊どももバカなことをしたものだ。なあ?」

 そう言って、少女は傍らの鳥籠に入った青い小鳥に話しかけた。

 小鳥は金の格子に体をぶつけて、青い羽根をバタバタと羽ばたかせている。

 腹の底からクツクツと笑いが込み上げて、少女の唇の端を歪ませた。


「ダンザック、ダンザックはいますか?」

 少女の声が、先ほどまでとはまるで別人のように気高く、愛らしく響く。

 そうして少女はひとりの男を私室へ呼びつけた。

「女王陛下、御呼びでしょうか」

 男は少女の前に駆けつけると、跪いて頭を垂れた。

「ええダンザック。テロスの交易市へ行って、翼を持つアルブの少年を探してもらえますか? その、メソンへ仇なす羽虫を潰してきてほしいのです」

 羽虫を潰すという女王の言回しは、ダンザックの眉を微かにしかめさせた。

「はい仰せのままに……」ダンザックは絞り出すように言う。「では早速にもテロスへ向かう準備にかかります」

 そう言ったダンザックは女王に再び頭を下げると退室していった。


「ふん、生真面目な男が。そうだ、ついでに奴の墓場も用意してやらんとな」

 女王はそう言いながら金の杯を覗き込んだ。

 しかしその時、胸の悪くなるようなクロススの甘い香りが女王の鼻腔を突き、手にしていた金の杯が床へ落ちた。

 女王は金の杯から溢れた水がつくる黒いシミの上に倒れ、そのまま意識を失った。

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