表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ETERDUM  作者: 時雨小夜
12/48

12.父知らずのライナスは真夜中の森で夢を見る。

 ライナスはマントにくるまって木の幹に背中を預け、座ったまま眠った。


「鳥みたいに木の上で眠れば獣に襲われないし、翼とマントにくるまっていればそんなに寒く無いよ。火の番なんていらないんじゃないの?」

 ライナスはそう提案したが、バステトがすぐさま却下したのだ。

「わたしはマントをきっちり体に巻付けたって、火がなくっちゃ凍えちゃうわ。それにマントにくるまったまま木の上から落っこちたらどうするの? 危ないじゃない」

 バステトはふんっと鼻を鳴らして抗議した。

 死なないという神様でも、寒さは苦手らしい。

 ライナスは、バステトの言う事にも一理あると思い、反論せずに黙って従うことにした。



 ライナスは母に手を引かれて走っていた。

 頭上を覆う黒い葉影と枝の合間から、青白い上弦の月が見え隠れしながらついて来る。

 木の根や絡まる下草に足をとられて何度も転びそうになるライナスを、半ば引きずるようにしてエスカラは走り続けた。

 母に引っ張られる左の腕が痛くてたまらない。強く握られた手の平がどくどくと脈打つ。

 ぜいぜいと息をする度、肺が焼け付くように熱くなる。

 垂れ下がった蔦や、低木の枝に幾度も肌を打たれて、流れる汗と涙とで傷口がヒリヒリと痛んだ。

 いったい母はどこまで走るつもりだろう。酷く怯えているようだ。

 疲れと眠気に襲われて頭が朦朧とする。


 ここはどこだろう……早く家に帰りたい……父さんはどこ?


 ライナスは殺気を感じて振り返った。

 鬱蒼と茂る背後のイラクサが揺れ、鎌首をもたげた大きな黒い蛇が飛び出した。

「……っ!」

 エスカラが声にならない悲鳴を上げる。

 てらてらと黒光りする大蛇は、シューシューと耳障りな音を立てて、口から細長い舌を出し入れしていた。

 金色の瞳が後退りするライナスとエスカラを交互に睨みつける。

 ジリジリと間合いを詰めていたかと思うと、突然大蛇は牙を剥き出して、ライナスの喉元を目がけて飛掛かって来た。

 ライナスがもう駄目だと思ったその時、一陣の風が吹いたかと思うと、白銀に輝く獣がライナスの前へ躍り出した。

 美しい光を纏ったその獣は、鋭い牙で大蛇の頭を噛み砕いた──



「……ってば……ライナス? 交代よ」

 ライナスがはっとして目を覚ますと、バステトの大きな紫色の瞳が覗き込んでいた。

「そうだね、ごめん。なんだか変な夢を見てた気がする」

「変な夢ってどんな?」

「すごく嫌な夢だったと思う……。あんまり覚えてないけど」

「ホランコレーが見る夢だから、何か意味があるかと思ったんだけど。残念ね」

「そんなものなの?」

「さあ? 可能性としてよ。希望、とも言うかしらね」

 そう言いながらバステトが、手渡されたマントを頭から被ると、見る間にマントは小さな妖精猫をかたどった。

「朝になったらちゃんと起すのよ? 明日こそ森を抜けるんだから」

 マントの下からくぐもったバステトの声がする。

「すごいや。本当にバステトってケイトシーなんだ」

 思わずライナスは呟いた。

「ケイトシーじゃないわ! 神だって言ってるでしょ!」

 バステトは膨れっ面でマントをはね除けて、声高に異議をとなえる。


 その時のライナスは気付きもしなかったが、西の空には夢と同じく上弦の月が輝いていた。

第12話*父知らずのライナスは真夜中の森で夢を見る。も、引続き

http://sayoshigure.seesaa.net/

上記URLにてイメージ画像をアップしてみました。

興味がおありの方はどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ネット小説ランキング>冒険・サスペンス部門>「ETERDUM」に投票(月1回)
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ