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突然の襲撃

ミュリエルは大きく深呼吸をして気分を落ち着かせて、レイモンドたちのところに戻った。リュークは化粧室でみせた凶悪な表情は欠片も見せずに、常に柔らかい表情と話題で場を楽しませた。


カフェを出て少しの間、4人で街を歩いた。レイモンドはミュリエルを完璧にエスコートしてくれる。リュークとグレダ嬢は時たま笑い声を上げながら、密着しながら歩いていた。


そうしてひと気のない通りに差し掛かった時、事件が起こった。たくさんの覆面をした兵士に突然囲まれた。彼らは一様に剣を手に持ち無言で襲いかかってきた。


あまりの突然の出来事にレイモンドは状況が理解できないようで、固まったままになっている。リュークはまるでよくあることかのように、冷静に兵士たちに対応している。彼はこういった状況に慣れているのか、あっという間に一人の兵士を倒して剣を奪い次々と兵士たちを倒していく。


「レイモンド!危ないわ!」


ミュリエルは未だに硬直したままのレイモンドの手を引っ張り、兵士の攻撃をかわした。こいつらの狙いはリュークとレイモンドで女性たちには手を出してこない。気が付くとグレダ嬢はとっくに逃げていなくなっている。


兵士の剣を紙一重でかわしたことで正気に戻ったレイモンドは、突然叫び声を上げながら来た道を走って逃げていった。逃げていく彼を追いかける兵士を見て、ミュリエルは反射的に足を引っかけて転ばせる。


兵士と目が合うと、かなり怒っている様だ。ものすごい形相で睨まれる。しかしレイモンドの後を追わせるわけにはいかない。ミュリエルは懲りずに後を追おうとする兵士たちの前に仁王立ちで立ちはだかった。


「だめよ!追わせないわ!どうしても行くっていうのなら私を倒してからになさい!」


ミュリエルは魔法を練って魔方陣を指で描く。戦争の為の実践を模した訓練には自信がある。いつだって彼女は特別授業で高得点をあげていた。こんな魔法も使えない兵士たちなど魔法を使えば簡単に倒せるはずだ。


魔方陣から魔法が放たれる直前、リュークが間に立ちはだかって剣で兵士に対抗する。剣と剣が交じり合う鋭い音があたりに響く。


「やめろ、魔法は使うな!学園外で魔法を使うと退学だぞ!知っているのか!?」


「知ってるわよ!でもレイモンドが危ないのよ!そんなこと言っている場合じゃないわ!」


それは優等生であるミュリエルは充分に理解している。退学になれば王帝魔術騎士になるのは不可能だ。けれどもこの状況で魔法を使わなければ、レイモンドの命はすぐに奪われてしまうだろう。ミュリエルに他の選択肢はなかった。


「とにかく今はレイモンドを守らないと!!私の事はどうでもいい!」


ミュリエルはそれ程レイモンドに恋しているとかいうわけではなかったが、騙して利用していう良心の呵責はある。せめて命だけは全力で守ってあげたいと思った。たとえ、大事な夢を失ったとしても・・・。


「・・ちっ。だから女は馬鹿なんだ!!」


そういい捨てるとリュークは最後の兵士の剣を跳ね返したかと思うと、ミュリエルの手を引いていきなり森の中に向かって走り始めた。


「あっ!!でもレイモンドが!!」


「放っておけ!これだけ敵を引きつけておけば、もう安全な場所に逃げ込んでいるはずだ!それより俺たちの命の方がやばい!」


「っていうより、あなたの命でしょう?!私は見逃してくれるはずよ!!」


あざが残っている手首と同じ場所を掴まれて引っ張られているので、痛みが半端ない。しかもどうして更にひと気のない森に逃げ込むのか理解に苦しむ。街中に入れば憲兵が助けてくれるはずなのに、どうして?


「お前は保険だ。万が一の事態になったらお前に魔力を使ってもらう。氷の女王の実力は伊達じゃあないんだろう!」


「こんのぉ!悪魔ぁ!!」


リュークは道を知っているのだろうか、迷わずに森の中を駆けていく。手を引かれて引きずられるように後ろをついて走る。どんどん森が深くなり、とうとう太陽の光すらささない暗い場所にやってきてそこでリュークは立ち止まった。すぐ後ろをついてきていた兵士たちがリュークとミュリエルを囲みこむ。


「はあ・・・はあ・・・・何か・・いい案でも・・あるの?」


ミュリエルが息を切らせながらリュークを見上げて聞く。リュークはその端正な顔に凶暴な笑顔を張り付けてひょうひょうと言った。


「ないな。やっぱり保険でも使うか?お前だって俺が目の前で無残に殺されるのを見るのは嫌だろう?」


「そんなことないわリューク。むしろ大歓迎なんだけど。これで秘密も守られるし、あなたに処女を捧げるっていう賭けも無くなるしね」


ミュリエルは最高に意地悪な顔をしていった。それを見てリュークは今までとはうってかわって少年のような顔をして笑った。


「はははははっ、違いない。お前はそこまで馬鹿じゃなかったらしい」


「どういたしまして」


そんな軽口をたたいている場合ではなかった。リュークとミュリエルは森の中で7人の兵士に囲まれて絶体絶命の危機だった。リュークにはあんなことを言ったが、ミュリエルはこの状況でリュークを見殺しにすることは自分には無理だと感じていた。


仕方ない、使うしかないか・・・。


ドォオォォォォォォン!!!!


そう思って指先に魔力を込めた瞬間、巨大な魔力の炎が背後から飛んできて兵士たちを襲った。魔力の炎は兵士をあっという間に包み込み、その体を溶解させていく。


知識では理解していたが初めて見た凄惨な光景にミュリエルは動けなくなった。その様子を見たリュークが、ミュリエルの体を自身の胸に引き寄せて目を塞ぐように手で覆った。


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