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レイモンドとのデート

なんて男なの!!信じられない!


ミュリエルはあれほどに女を憎んで蔑むリュークの存在が信じられなかった。リュークとのことはクレアには口が裂けても言えなかったが、さり気なくリュークの事について聞いてみた。


リュークという名前だけならば何人か学園にはいそうだったが、女たらしで美形だというとすぐにどのリュークか分かったようだ。


「それはリューク・ボン・ブルージュね。昨年編入してから泣かせた女は数知れずよ、でもあの外見でしょう?泣かされてもいいから一晩だけっていう女生徒が後を絶たないらしいわ」


要約すると彼はブルージュ伯爵家に養子として去年迎えられたらしく、以前は市井で平民として暮らしていたそうだ。おそらく養子に迎えられるプロセスで、女嫌いになる何かがあったのだろうと予測された。


今日あった事を思い起こすと気分が悪くなる。正面向かって激しい敵意と蔑視を投げつけられたことなど初めてだったからだ。しかも靴を舐めろだなんて、なんて傲慢な男なのだろう。


「でもミュリエル。彼は確かにお金はあるだろうけど、お勧めはしないわ。ルックスだけは最高だけどね。それより明日のデートに何を着ていくの?可愛いのがいいのかしら、それともお色気あり?」


「そうね、彼の好みはきっとおしとやかな淑女って感じだから、おとなしめの色のドレスに清純そうな薄い化粧で行こうかしら?」


クレアとミュリエルはその晩二人で遅くまで、ああでもないこうでもないと明日のデートの服装について話し合った。結局淡い青色をしたドレスにして、それに合わせて小さな華奢な宝石を選んだ。これで完璧だ。


ここからが男女の駆け引き開始だ。まずは押してみる、そうしたら引く。そうすれば男はいちころだと恋の参考書には書いてあった。なので明日はこれでもかというほど押してやろう。そう心に誓った。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ 


すぐに明日の朝が来た。とてもいい天気でデートには最適の日だ。ミュリエルは気合を入れて支度にとりかかった。ボロジュネール家の全員の人生がミュリエルの肩にかかっている。失敗はできない。


3か月後のダンスパーティーまでにはレイモンドを、彼女なしでは生きていけないほどにメロメロにしなくてはいけない。責任重大だ。


そうこうしているうちにレイモンドがミュリエルを迎えに来たとの連絡が入った。すぐに階下に降りていきレイモンドに会う。彼は白いシャツに濃い灰色の背広を着て待っていた。かなり気合を入れてきたようで、その髪にはジェルがピカピカ光って固まっていた。


「ミュリエル、綺麗だよ。まるで天使の様だ」


普段は化粧っ気のないミュリエルが、髪を結って化粧をしてとっておきのドレスを着用すると、かなりの美人に仕上がっていた。内面からあふれる生命力がそれをさらに引き立てる。


そんなミュリエルを見て、恋人同士でもないのに何故だか彼の中ではかなり盛り上がっている様だ。だがミュリエルにとってそんなレイモンドの反応は喜ぶべき事だった。


「ありがとうレイモンド。あなたも素敵よ」


少しはにかむように清純さをアピールしながらはなす。そのさまはまるで可憐なスミレの花のようだった。そのまま馬車までエスコートされて目的の場所に向かった。ミュリエルは一番にブルース公爵家所有の馬車の豪華さに目を奪われた。


レイモンドの馬車は一目見ただけで、他の馬車とは違う高級感を放っていた。使われている木材からして違うのだろうが、施された装飾も他を圧倒するほどに緻密で繊細だった。これだけで芸術品といえる代物だ。


さすが由緒ある公爵家の跡取りだ。ボロジュネール家の借金などすぐに返済できるに違いない。ミュリエルはほくそ笑んだ。


だめだ、だめだ。いくら借金返済が目的だとしても、こういう目で人を見ては駄目だ。ミュリエルは自分を戒める。


借金を肩代わりしてもらうのだとしても、いつかは自身が王帝魔術騎士になって必ず全額返すつもりだ。それに金持ちなら誰でもいいという基準で選んだとはいえ、こんなことになって一度決めたのならその人と生涯添い遂げる覚悟でいる。


彼と一生を共にして支え合って生きていくのかしら?


自分と彼の未来を想像してみたが、なかなか実感が湧かない。もともと男性に興味など持ったことがない上に、初恋すら経験したことのないミュリエルにとって恋は理解のできない感情だった。


そうこうするうちに目的地に着く。ジリアーニ学園からそう離れたところにはない街で、ミュリエルもたまにクレアと日用品の買い物に出かけているよく知った場所だ。今日は土曜日なので出店がたくさん出ていて人々で賑わっていた。


「あちらに出店が出ているみたいですわね」


「ああ、私は人がたくさんいる場所は苦手なんです。あそこは避けてホリステ通りを歩きましょう。あそこなら静かで雰囲気のいい上品な店がたくさんあります」


そういってレイモンドはミュリエルの手を取り、ホリステ通りに向かって歩き始めた。ミュリエルは出店のあったかい雰囲気が大好きで、屋台には顔なじみの商人も何人かいる。でもレイモンドが苦手というならば、もう出店に行くのはやめよう。そう思った。


高級そうなお店を何件か一緒に覗いてみる。入りなれないお店に緊張しながらも楽しく会話を弾ませた。レイモンドの趣味や好物は全て調査済みだ。丁度昼時になったので、レイモンドがあらかじめ予約しておいたというカフェに入る。


「ここは最近できたばかりの店で、社交界ではいま一番人気があるんですよ」


「そうなのですか。道理で素敵なお店ですわ」


ミュリエルは入ったこともない高級カフェで緊張しながら軽い昼食をとった。レイモンドが好きな馬の話題と旅行の話題を積極的にして場を盛り上げる。あまりでしゃばらないように、すでに知っている知識ですら初めて知ったように演技して褒め称え、レイモンドをいい気持にさせる。


「レイモンド様は物事を良く知っていらっしゃるのですね」


「そんな風に言われると照れますね。でもミュリエル嬢も学園で一二を争う魔術の使い手だど聞きましたよ。なんでも氷の女王とあだ名がついているとか・・・」


「そうですの。わたくし今までどなたとも交際をしていなかったので、誰かが氷のように心を閉ざしていると揶揄したのですわ。でも今レイモンド様にお会いして、その氷は溶けてしまったようです」


潤んだ目で見つめる。今日は思いっきり押す日だ。少しはったりが入ったが許してもらおう。レイモンドが頬を染めてミュリエルを見つめ返す。その時、世界で一番聞きたくない人の声が聞こえた。


「おい、レイモンド。奇遇だな何をしているんだ?」



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