婚約者候補
ミュリエルは学園に帰るなり、友人であり同室のクレアに事情を説明した。クレアはミュリエルが提案したとんでもない賭けに驚きを隠せなかった。
「どうするつもりなの!!今から3か月で借金を肩代わりしてくれる男性を見つけるなんて不可能よ!だってあなた男性の友人すら皆無じゃないの!」
確かにそうだ。自分が最後に男性と会話を交わしたのがいつなのかも忘れるくらいにミュリエルは男っ気が無かった。
「大丈夫、たくさん参考書を仕入れてきたから何とかなるはずよ。なんでも始めは理論、それから実践でしょ?」
ミュリエルはドヤ顔でクレアに本の題名を話して聞かせた。なんでも毎日一回ずつ通して読んでいるそうだ。
『男を落とす100のテクニック』『可愛いと思わせる仕草研究』『男はこんな女に惹かれる』
クレアは頭を抱えた。ミュリエルは頭の回転も良く、魔力の操作に関しても学園の誰にも引けを取らないほど優秀だ。けれども男女の機微に関しては、まるで幼稚園児のレベルのままで止まっていた。
「それで一体誰を落とすつもりなの?貴族でボロジュネール子爵家の借金を肩代わりできるくらいの大金持ちというなら、この学園なら結構いるかもしれないけど、性格のいい人で特定の彼女のいない人となると話は別よ」
ミュリエルは驚愕した顔でクレアを見た。学園内でそんなにたくさんの生徒が男女交際をしているとは全く知らなかったからだ。いままで男性の事など全く興味がなく、勉強の事しか頭になかった。
とにかく気を取り直してクレアと数少ない貴重な男性を選出した。すると3人の候補が上がった。
まずはグイド・ムーア・ヒルデン。ヒルデン伯爵家の長男で、温和な性格で見栄えは超普通。成績も平均値で濃い茶色の髪に黒い目をした好青年だ。友人も多く、恋人の借金を返そうとするくらいの情はありそうだ。
次はレイモンド・フォン・ブルース。ブルース公爵家の次男だが、長男が隣国の王女の婿養子に入ったため跡取りになることが決まっている。由緒ある家柄の高貴な方だというにも拘わらず、意外に気さくで学園では人気者だ。金髪に青い目の典型的なノーブル顔で、口癖は僕が偉いわけじゃない、僕の血が偉いだけだよ・・・だ。ただノーブル顔とは言いえたもので、とどのつまりはのっぺり平面顔という事なのだが、彼は身分を鼻にかけないいい男だといえる。
最後にランドルフ・ディ・バルマ。バルマ侯爵家の長男だ。彼も成績も顔も平凡な男だったが一つだけ欠点があった。身長だ。ミュリエルと同じくらいの背の高さしかなく、ヒールを履くとミュリエルの方がはるかに高くなってしまう。それ以外の条件は申し分なく、薄茶色の髪と緑の目が印象的な少し引っ込み思案な感じの男性だ。
ミュリエルはその3人の情報に目を通しながら大きくため息をついた。
「誰がいいか分からないからリストの順番で責めてみるわね。まずは明日からグイド・ムーア・ヒルデンで始めるわ。とにかく明日は大事な決戦の日よ。お肌の為に早く眠っておくわね。じゃ、クレアまた明日」
そう言い残してミュリエルはすぐに寝息を立てて寝始めた。クレアは大事な友人が心配ながらも、彼女の不屈の精神にまたもや感心する。
やっぱりミュリエルね。彼女ならすぐにいい人が見つけられるわ。それにしても彼女を手に入れられる男性は果報者ね。これほど能力があって前向きで頑張り屋さんはいないもの・・・。一生大事にしてくれるに違いないわ。ああ、私が男だったら良かったのに・・・。
クレアは自分が女であることに少し残念な気持ちになりながらも、友人の恋を応援する事にした。