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ブカレス叔父とハンセル

ボロジュネール子爵家に全員が戻ってきたのを確認して、すぐに大広間に全員が集まった。その頃にはミュリエルのウサ耳も姿を消していて、ミュリエルは涙を流して喜んだ。若干数名はがっかりした顔をしていたがミュリエルは気づかなかった。


夕食をとる時間も惜しいので、サンドイッチがテーブルの上に置かれている。まずはルイスとカレンが購入したものをミュリエルに確認してもらう。


「うん、思ったよりも生きのいいミュール蛇が手に入ったわね。これで行程が楽になりそうよ。ありがとうルイスにカレン。ヒュートリム草の体液はスライムと同じものらしいから、あとでブルテイン王国に手数料をつけて請求しておいて」


ルイスがミュリエルに褒められてドヤ顔になってマックスを見る。マックスはそんなルイスを無視して、何事もなかったように古い書庫から持ってきた書類について説明をする。


「この書類をリューク君と見つけました。ここに記されていることによると、60年前にバゼル液に襲われた鉱山士が、奇跡的に逃れたという記述がありました。そこには、ミーアというものが記されていて、そのミーアのお陰でバゼル液が逃げ出したそうです。ミーアは火山口で採れるものらしいのですがミュリエル、心当たりはありませんか?」


「うーん、そんな組成物や薬は聞いたことがないわ。ヒース様はどうですか?化学は専門なのでしょう?私はそんなに詳しくはないから・・・」


「わしも知らん。見当もつかん」


ヒースは腕を組んでそっけなく答えた。時間が惜しいとばかりに、マックスの持っていた書類を取り上げて自分で確かめる。マックスのいう事が唯一知りえた事実であると知ると、机に書類を放り投げた。


「わしは鉱石研究所に行ってきた。そこで確認できたのはスライムとバゼル液が同一であることというだけだ。これを見てみろ」


そういって目の前に緑色の液体の入った試験管をかざす。そうしてその試験管をいきなり口にくわえた。みんなが唖然として見守る中、数分たって試験管を口から出すと緑色の液体が透明に変わっていた。


「これがスライムの特性だ。密封状態では少しでもエネルギーを摂取しようとして緑色になって光合成をする。光を遮ると透明になって餌を探す。そして餌を見つけると・・・・」


そういってからヒースは自分の指を試験管に近づけた。するとその透明な液体が指の方に向かって跳びだした。試験管の中なのでどこにも行き場を失った液体は中で大きく揺れている。


「じゃあ、光を当てれば人を食べないのではないのかしら?」


カレンが無表情で聞く。


「いや、これは密封状態に細胞を適応させたにすぎん。外に出たら両方のやり方でエネルギーを摂取しようとする。だからスライムは薄い緑色をしているんだ」


「でもここの鉱石研究所で3年前に研究していた時の結果は、役にはたちそうにないのか?」


ルイスがミーアに対する手掛かりが他にないのか苛立ちを隠さずに聞く。そんなルイスを尻目にヒースはミュリエルの方を見ていった。


「こいつらバゼル液を倒す研究なんかしとらんからな。特定の細胞だけを食べさせる研究結果なら読んだぞ。しかも結果は失敗だ。バゼル液は生きている細胞なら全部喰らいつくす。例外なくな」


だから言ったじゃないか。食べる細胞を選択できるなら、とっくに商品化してボロジュネール子爵家は今頃、大金持ちだ。でもまてよ、ということはユーミア王国の自国の兵だけ襲われない方法が見つかれば、もしかして商品化できるのではないか?


そのことに思い至ったミュリエルは、思わず上機嫌になって立ち上がって、皆を見回しながら力説した。


「早速火山口に行って、ヒュートリム草本体のサンプルが取りに行きましょう。決行は明日よ。ボロジュネール子爵家がスライムの対処法を突き止めたっていったら、たくさん報奨金が貰えるに違いないわ。そしたらあの醜悪なハンセルなんかと結婚しなくても済むんだから!」


「・・ちょっと待ってミュリエル・・・結婚って・・・?ハンセルって・・?」


話についていけないルイスがハンセルの事を聞こうとしたときに、突然大広間の扉が開かれた。リリアンがその人物の侵入を止めようとする声が、廊下に響き渡る。


「駄目です!!今は大事なお客様がいらっしゃっているので、やめてください!!」


「ミュリエル、水臭いじゃないか。ジリアーニ学園から帰ってきているのだったら連絡くらいくれてもいいんじゃないのか?たった一人の叔父だろう」


「ブカレス叔父様!!」


突然ブカレスが現れた。背後にもう一人男性が立っているのが見える。恐らく彼はずっと昔に会った事があるだけの従弟のハンセルだろう。ハンセルは脂ぎった肌に大きな腹をしていて、いかにも醜悪なおじさんといった体をしていた。


「ミュリエル、大きくなったねえ。良かった、これくらい育っていれば僕のお嫁さんにできそうだよ」


そういってミュリエルの全身を上から下まで舐め回すように見た。その瞬間ルイスとマックスが同時に立ち上がって、突然現れた無礼な2人を睨む。


「叔父様、まだ期限は来てませんわ、お引き取りください。今は大事なお客様が来ていますの」


ミュリエルが睨みつけるのにも関わらず、ハンセルは彼女の傍に駆け寄ってその肩を抱いて、臭い息を吹きかける。


「僕たち従弟同士じゃないか。照れなくてもいいよ」


体中に鳥肌が立つのを感じて、ミュリエルが平手を大きく振りかぶってハンセルを殴ろうとした瞬間、ルイスが間に割って入ってミュリエルの体を脇に抱えた。


「やめろ!!ミュリエルはお前のものじゃない!汚い手でさわるな!」


「お父さん、どういうことなのお?」


ハンセルは泣きそうな顔でブカレスの方を見て問いかける。


「ふん!!お前何者だ?はあん、こいつがミュリエルの恋人とかいうやつか、じゃあお前が金5000代わりに払ってくれるんだな」


「金5000!!?ミュリエル一体こいつ何を言ってるんだ?」


「えーーっと・・・ルイスは恋人ってわけじゃないけど、お金はなんとか3週間後までには・・・きっと・・」


ミュリエルはしどろもどろになりながら言い訳を考える。目の端でカレンが机の上の果物ナイフを握りしめたのを見て、大慌てでなにか言おうと考えるものの、何も良い言い訳が見つからない。


そこにマックスが出てきて、ミュリエルとブカレス叔父の間に立ちふさがった。


良かった、カレンの攻撃を防ぐためにマックス騎士様が機転を利かせてくれたのだわ。


ミュリエルはマックスの背を見て、感動に打ち震える。マックスはそのままブカレスにお辞儀をした。礼を尽くした上で、かつ強い口調で言い放つ。


「私はマックス・ドナルドソン、王帝魔術騎士です。あなたがミュリエルの叔父のブカレスさんですね。しかし年頃の未婚の令嬢にする対応としては少しいただけませんね」


「王帝魔術騎士・・・だと?!!!!そんな!!」


ブカレスもさすがの王帝魔術騎士の権威にひれ伏した。腰が引けてたじろぎながら、脂汗を流し息子のハンセルをさがらせる。


「くっ!3週間後には金5000だぞ!!分かったなミュリエル!!じゃなきゃハンセルと結婚だ!!」


ブカレスとハンセルは、いかにもな捨て台詞を吐いて去っていった。ミュリエルはリリアンの方を見てこの間のように何かされなかったかを尋ねた。リリアンは無言で首を横に振り、ミュリエルの方に駆け寄る。


「お嬢様、すみません。私では止められませんでした」


「いいのよ、リリアン。ルイスとマックス騎士様が助けてくださったから」


そういって平然とお茶を飲み続けているリュークとヒースを睨んだ。


どういうことなんだ?ヒースはともかく、リュークはどうして平然としているんだろう!!私の処女を狙っているんだったら助けてくれてもいいじゃないの!!


何故だか訳も分からず気持ちが苛立ってくるのを感じて混乱する。ルイスがマックスからブカレス叔父との賭けの話を聞いて、ミュリエルに向かっていった。


「ミュリエル、金5000くらいバスキュール家なら簡単に払える。だから、心配しなくていい。代わりにオレと付き合ってとか言わないし、そりゃ前向きに考えて欲しいけど無理やりはしたくないというか・・・とにかくオレを頼ってくれ!」


「ルイス・・・気持ちは嬉しいけど、私まだ諦めたわけじゃないの。スライムの弱点を見つけて王国から報奨金をもらう作戦はまだ有効よ。絶対に金5000自力で作ってやるんだから!!」


ミュリエルは決意を新たに、拳を握りしめて誓った。




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