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ブルテイン王国を救え

その夜、大広間にみんなで集まって計画を立てた。ミュリエルが中心になって役割を決めていく。


まずリュークとマックスはボロジュネール家の古い書庫で、ヒュートリム草の情報を探す。ルイスとカレンは二人で火山に向かう道具の準備をする。商売をしていて金持ちのバスキュール家のルイスに、道具類の代金を払わせようとする魂胆だ。さすが貧乏子爵令嬢だ、抜け目がない。


ヒースとミュリエルとクレアは一緒に鉱石研究所に行き、ユーミア王国の新兵器スライムと、ヒュートリム草の液が同一かどうかを確認する。もしそうならば、その研究の結果などのデータを資料として持ち帰る。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「どうして俺がお前とこんなことをしなきゃいけないんだ?」


リュークが不満そうにつぶやく。それに応えてマックスも不快そうな表情をしていった。


「私だってリューク様とこんな場所に一日中一緒にいるのは耐えられません」


二人は今ボロジュネール家の地下にある書庫で、古い書類を漁っているところだ。ミュリエルの話だと、ヒュートリム草が鉱山士を襲っていた時代は大体40年前から80年前までだ。その年代に的を絞って探す。


簡単に見つかるだろうと高をくくっていた二人は、天井の高さ3メートルまでびっちりと積まれた書類を見てから後悔した。リュークが文句を言いながら適当に真ん中を抜くと、書類の山が崩れ落ちてきて年代順に並んでいた書類が見るも無残な状態に陥った。


「リューク様、私は時々王国を守っているはずなのに、一体自分は何をやっているのか自問自答したくなる時があります」


「奇遇だな、俺も同じだ。さあ、片っ端から探すぞ」


そうやって書類の劣化を防ぐために窓一つない部屋で、二人の男は黙々と書類を読み漁っていた。ボロジュネール子爵家は12代続いていて、代々この辺境領を所有していたらしい。年代の浅い層にはミュリエルが考案して、没になった改革構想案とかもあって、かなり興味深かった。


「これを10歳の時に考えたなんて、信じられない子供だったんですね。ミュリエルは・・・」


「お前いつからミュリエルを呼び捨てにしているんだ?」


「え・・・・あ・・・そうですね。ボロジュネール子爵家の領地の管理をカレンと手伝い始めた頃からですかね」


「それでミュリエルと偽装婚約までしてやるのか。かなりの奉仕精神だな。真似できないよ」


「奉仕精神ではありません。私はミュリエルが恐らく好きみたいです。自分で思っているよりもかなり熱烈に」


「奇遇だな、俺も同じだ。あ、ここに60年前の鉱山の資料があったぞ」


「そうですか、予想はしていましたけどね。ここにもありましたよ。これは鉱山士についての資料ですね」


二人は同時に見つけたばかりの資料を読み始める。ヒュートリム草の事は書いていなかったらしく、すぐに無言のまま書類探しを続ける。しばらくしてマックスが口を開いた。


「ミュリエルは他にはいない、特別な女性ですね。あ、ここに鉱山での事故について書かれた書類がありました」


「そうだな。色んな女を見てきたが、あんなのは初めてだ。母親の話をしても俺を可哀そうとは言わなかった。ただ心が不健康なだけだそうだ。この辺りが怪しいぞ。ここら辺の書類だけ紙の質が違う」


昼間だというのにろうそくの灯りが辺りをほのかに照らす中で、二人は再び無言になり、書類のページをめくる音だけが辺りに響く。


「この書類じゃない違いました。ふふ、心が不健康とはうまい言い方ですね。そうそう彼女のストレス解消法を知っていますか?これはとてもいいアイデアだと思います。おっと、この書類は興味深いですね。ミュリエルの祖父であるジョーゼフ子爵の手書きです」


こんな風に一向に目的の書類を見つけられないまま、地下の書物庫で数時間が経過した後に、二人が同時に同じ書類に手をかけ声を上げた。


「「これだ!!『ヒュートリム草とバゼル液の生態調査』!!」



♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


ルイスとカレンはミュリエルから渡された買い物リストを見て、首をひねっていた。


「ミュール蛇、10匹。キルエ糖3キロ。フルミナ蝶、5匹。火山に行くはずなのに、どうしてこんなものが必要なんだ?」


「ガスマスクとか紐ならわかりますけどね。どれも珍しくて高価なものばかりですわ」


二人は買い物をしに馬で、ボロジュネール辺境地にある一番大きな出店街にやってきていた。街は人で賑わっていて、活気があった。ボロジュネール家の館の荒れ具合とは対照的に、マルクトを囲むようにして建っている建物は堅牢豪奢で、民衆は生活を楽しんでいるようだ。あちこちで物売りの声が響いて、値段の交渉をする者との駆け引きが繰り広げられている。


「おお、そこの坊ちゃん。このお菓子はお買い得だよ。今なら2個で1個の値段でいい。そこの護衛の姉ちゃんも、どうだい?」


「「私は(オレは)姉ちゃん(坊ちゃん)じゃないわ(じゃない!!!)」」


二人は同時に言い放った。ルイスは顔を赤くして詰め寄りながら・・・カレンは無表情のままその物売りに向かっていった。物売りはその対照的な二人が面白かったらしく、その前歯の欠けた歯を見せながら、大きな口を開けて笑った。


「はっはっはっ、面白いね。お二人さん。まあ気が向いたらうちの店に寄ってくれ。じゃまたな『エル』」


「・・・?おいおやじ、『エル』って何のことだ?そういえば物売りがたまに口にしている様だが」


ルイスがこの出店街に来てすぐに不思議に思ったことを聞いてみた。


「ああ、お前さん。ボロジュネールに来たのは初めてなのかい?これはうちの姫さんの名前からとったんだ。姫さんはそりゃ商売上手でね。4年前は客もまばらで閑散としていたこの出店街にギルドを作って改革したんだ。お陰でこの通り。たくさんの客が来るようになった」


なんでもそれ以来、商売上手であるミュリエルの最後の名をとって、商売人は挨拶の代わりに『エル』と言って、商売繁盛を祈願するようになったらしい。


「姫さんは凄い方だよ。お陰でかみさんや子供にもひもじい思いをさせることは無くなった。当時12歳だったっていうのに、出店を仕切ってたボスのキューチルの館まで一人で出向いて、交渉したらしい。奴は結局姫様に言い負かされて、今はギルドの大ボスさ」


農地改革や鉱山開発だけでなく、商業構造改造まで行っていたミュリエルに驚いたルイスとカレンは、互いに目を見合わせた。


結局その物売りにうまく言いくるめられてお菓子を一袋買わされたルイスは、カレンと一緒にマルクトの隅のベンチに座って、お菓子を食べることにした。


「うまい!!これは何を隠し味にしてるんだ?」


ルイスが小麦粉を練って揚げただけのお菓子を一気に口に放り込み、そのおいしさにうなった。


「これはシナモンと少しオレンジの皮も入ってそうですわ。それとリキュール・・・ですわね」


「それにしてもミュリエルはやっぱスゲーな。オレがミュリエルに惚れたのは一目ぼれだったんだけど、ずっと一緒にいるうちにあいつの底知れないパワーに惹かれたんだ。傍にいるだけでこっちも元気満タンになる」


ルイスとカレンが座っているベンチの前を、たくさんの人が通り過ぎていく。みんな活気にあふれて、生活を楽しんでいるようだった。そこかしこから『エル』と呼びかける声が聞こえる。


「そうですわね。私も彼女といると元気一杯になっているわ」


カレンが無表情でルイスにそういうと、ルイスは眉根を寄せて不信感満載の表情で言った。


「お前、元気一杯の顔でそうなのか?だったら元気がないときはどんな感じなんだ?」


カレンは相変わらず無表情のまま言った。


「こんな感じですわ」


ルイスは先ほどの表情と比べてみるが、一向に変化した部分を見つけられなかった。するとカレンが自分の目のまつ毛を指さして言った。


「私の場合、まつ毛が動くんですの。ほら少し下がっているでしょう?」


「・・・お前はせっかく美人なのに、不憫だなぁ・・・」


大きくため息をついてルイスは可哀想なものでも見る目つきで、カレンの方を見る。カレンはそんなルイスをものともせずに。無表情で答えた。


「どういたしまして」


二人はその後、出店街を回って買い物リストに会った物を調達した。代金はルイスの家、バスキュール家の紙札で支払われた。カレンはルイスが一緒に来て良かったと思った。


さすがはミュリエルだ。ルイスを買い出し班に任命するなんて、この事態を予測していたからとしか思えない。しかもちゃっかりと、ボロジュネールの領地の出店街での買い物を指示しているところが、さらにあざとい。


その支払額はなんと総額、金300を超えたからだ。


「まあ、うちの親父もこの位の金、ブルテイン王国の窮地を救うためって言ったら許してくれるだろう。さあ、すぐに屋敷に戻ろう」


カレンの年収分の支払いを一気に済ませたルイスが、にこやかな顔でこう言い放ったのを聞いて、カレンが無表情のまま、まつ毛をとがらせて小さい声でつぶやいた。


「この、お坊ちゃまくんが・・・・」



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