ウサ耳 ミュリエル
ミュリエルは結局一週間寝込んだ。時々マックスやカレン、ルイスがお見舞いに来てくれる。でもみんないつも大笑いをしてからミュリエルの部屋から去っていく。
そうだ、ミュリエルの頭には黒いふさふさのウサギの耳が生えているからだ。普段は体が衰弱しているのでだらんと垂れているが、見舞いの者が来たら嬉しくてピンッと立つ。そうして話を始めると左右に揺れ始める。
それを見て笑い始めると、怒って真ん中で二つに折れ曲がる。見舞いの品を見せると再びピンッと立って揺れ始めるといった具合だ。ミュリエルが口で何を言おうと、耳を見ると感情がダダ漏れなので可笑しくてつい笑いがこぼれる。ただしカレン以外の人物に限るが・・・。
リュークも少しは責任を感じたのか、何度かお見舞いに来てくれた。そのたびに珍しくて美味しそうなお見舞いを持ってきては、自分一人で食べて帰る。これは見舞いではなくて嫌がらせだというと、クレアに怒られた。クレアはリュークの本性をいまだ知らないのだ。
結局フードテイストデイも参加できずに、不憫に思ったルイスがいくつかくすねて持ってきてくれた。
「ミュリエル、その耳ずっとつけていてもいいんじゃないですか?チャーミングですよ」
今日もマックスとカレンが、ミュリエルがベットで臥せっている間のボロジュネール領の書類の整理をして学園まで届けに来てくれた。
「マックス騎士様ぁ、このウサ耳がある限りわたし足腰が立たなくて寝たきりなんですよぉ」
ミュリエルがベットにうつぶせで横になったまま、情けない声を出す。でもマックスにチャーミングと褒められて嬉しいのか、その耳は左右に大きく揺れていた。
「なら切り取ってしまえばいいじゃないの?どこかにハサミはあるの?剣でも構わないわ」
「そ・・・それはだめですぅ、自分から消滅する前に物理的に取ってしまうと、こんど尻尾が生えたり、ウサギの髭がはえたりするんですぅ。あと三日の辛抱なんで我慢しますぅ」
ミュリエルはカレンのセリフに怯えたようで耳がくるくると捻じれて震えだす。瞳を潤ませて情けなさそうに見る顔は儚げで、しかもウサ耳のせいで愛らしさが倍増している。
ドックンッ!!!
「うっ!!!」
マックスは顔を赤くして自分の胸を抑えて、胸の高鳴りを収めようとした。しかし、胸の鼓動は段々激しさを増すばかりだった。それに気付いたカレンが無表情のままマックスを見ていう。
「マックス様、歳の差は気にしなくてもよろしいかと。さっさと観念したほうがいいですよ。我々も来月前線に出ればいつ散るかもしれない命ですから、後悔無きように・・・」
「えっ!!マックス騎士様、カレン騎士様!!戦闘に行かれるのですか?」
上半身をいきなり起こしたせいでミュリエルの体が横に倒れようとする。それをマックスが受け止めてしっかりと支えた。
「危ない!!気をつけてくださいよ!ミュリエル」
「で・・でも・・」
そういえばレイモンドの父であるブルース公爵まで戦闘に駆り出されたと聞いた。ブルース公爵様だけではない。跡継ぎのいる爵位を持つ健康な成人男性は、戦争の上官として招集されたらしい。そんなに戦況が切羽詰まっているのだろうか・・。
ミュリエルは肩を震わせた。ウサ耳が捻じれた上に垂れ下がる。
「・・・新兵器・・・ユーミア王国の新兵器ってなんなのですか?」
そうだ、あの時レイモンドが言っていた。我が国は新兵器に押されて劣勢を強いられていると・・。
「ミュリエル嬢・・・新兵器の情報は市民の混乱を避ける為に秘匿されていますの。いくら貴方にでもいえませんわ」
「でも、その新兵器を何とかしないと、この街だって危ないんでしょう?いつかは私たちもその新兵器に襲われるんだわ」
ミュリエルはベットに上半身を起こしたままで、マックスに背後から抱きかかえられるように支えてもらいながら、衰弱した体を何とか保っていた。その時、突然ドアが開いてルイスが現れていった。
「ユーミア王国の新兵器はスライムだよ。オレ達が特別授業で一緒に戦って倒したあのスライムだ」
ルイスは一度マックスを睨むように見た後、ミュリエルの傍まで足を進めてからそこにひざまずいてミュリエルの手を取る。
「バスキュール家の情報網を舐めるなよ。独自の商業ルートがあるんだ。情報も自然とはいってくる」
「スライム・・・」
「あれは数が際限なく増える上に、睡眠もとらない。常に生命体を求めてさまようんだ」
ルイスの説明によると、スライムはユーミア王国の兵士は襲わずブルテイン王国の兵士だけを選んで襲撃する。ルイスとミュリエルがやったように魔力を直接注ぎ込むしか倒す手立てはないが、敵兵や竜の攻撃をかわしながらでは殆ど不可能に近い。
スライムのせいで戦況が一変するほどの影響が出たというのも頷ける。現在ブルテイン王国上げてスライムの撃退法を模索しているが、分かったことはそんなに多くないそうだ。
「あ・・・・」
ミュリエルが小さい声を上げて背後のマックスに全身を預けた。体力の限界が来たのだろう。小さい呼吸になって目をつむったままだ。ウサ耳も元気を失い垂れたままになっている。
「おいっ!彼女を離せ、ミュリエルはオレがベットに寝かせてやる!!」
そういってルイスがミュリエルの体をマックスから奪い取ろうとした時、ミュリエルが大きく目を見開いて叫んだ。
「あのスライム!見覚えがあるかも!ルイス!クレアを呼んできてちょうだい!でも・・・いまはぁ・・・10分寝かせてぇ・・・」
そういったかと思ったら、ミュリエルは小さい寝息を立てて眠り始めた。




