小悪魔ミュリエル
「ミュリエル、何があったか説明してちょうだい」
「えーっと・・・なんかクレア怖いんだけど・・・」
マックス騎士様と外泊をした次の朝、彼はそのままジリアーニ学園までミュリエルを送ってから別れた。その後先生とも話をして状況を詳しく説明してくれたらしい。王帝魔術騎士の権威は予想より凄く、先生も二つ返事で納得したようだった。
それからミュリエルはすぐに制服に着替えて授業にでた。今はお昼時間でクレアと一緒に食堂にきている。この学園のシェフは腕が良くていつもおいしいメニューを提供してくれているのだ。今日はミュリエルの大好きな木苺のムースまでデザートについている。
ホカホカのご飯を目の前にして、さっそく大口を開けて食べようとした時のことだ。突然クレアが昼食の乗ったトレーを目の前に置いたかと思うと、冒頭の台詞につながる。
「マックス王帝魔術騎士様と一晩過ごしたなんて、すごいわミュリエル!」
「ちょ・・・ちょっと声が大きい。誰かに聞かれると誤解されちゃうよ?」
ミュリエルは努めて小さな声ではなす。
「だからちゃんと説明したはずよ。魔過発作がでちゃって面倒を見てくれただけだって」
「ふーん。それで次の日にレイモンド様と別れることに決めたんでしょう?やっぱり何かあったと思われても仕方ないんじゃない?」
クレアは何度説明しても、私とマックス騎士様との間になにかあったと思っていて譲らない。気持ちはわかるが王国選りすぐりのエリートの上に、あのルックスだ。私みたいな小娘を相手にするわけがないではないか。
ミュリエルは苦悶の表情を浮かべながらクレアの様子を伺う。
「レイモンド様にはこれからいうんだから、今は余計なことは話さないでね」
ミュリエルがこの交際を断った時のレイモンドの気持ちを考えると、心が痛くなる。しかも借金の問題は依然として残っている。
あと2か月で借金を倍にして返さないと、あの醜悪な年の離れた従弟のハンセルと結婚するのだ。その時になってレイモンドの方が良かったと嘆いても遅い。この決断は正しいのかいまだに疑問が残る。まあレイモンドを一緒に不幸にしてしまうよりも、ハンセルを道ずれに不幸にする方が気は楽だけどね。
その時、隣のテーブルから声をかけられた。
「ミュリエル、これやるよ」
ミュリエルの顔を見もせずに、本日のデザートである木苺のムースを差し出してそっけなくいう。同席している友人たちはニヤニヤと冷やかすような顔でそんな彼を見ている。ルイスだった。
まさか今までの話を聞いていたとか?!ミュリエルは動揺したが、状況を見る限りとどうやらそうではないようだ。クレアと目線で合図し合いながら胸をなでおろす。
「好きだろう?木苺のムース、ほらっ」
ミュリエルがなかなか受け取ろうとしないので、そのそばかすが残る顔を真っ赤にして無理やり木苺のムースをミュリエルのトレーに置いた。
「いや・・・でもルイスだって好きでしょ?このムース」
というかルイスはデザートならなんでも大好物のはずだ。何度もここのデザートを賭けて友人と勝負していた。
「いいんだよ!オレがやるって言ったらやる。お前倒れたってきいたぞ。これでも食っておけ。少しは栄養の足しになるだろう」
「ルイス・・・」
ぶっきらぼうに言い放つルイスの顔がなおさらに赤く染まる。昨日ミュリエルが倒れたと聞いて心配してくれたのだ。相変わらず素直ではないが、気持ちは凄く嬉しい。
「ありがとうルイス、優しいのね」
「お・・お前の為じゃないぞ!明日の特別授業はお前とのコンビだからな。お前のせいで成績が落ちるのは勘弁だ!!」
そんなセリフとは正反対に、真っ赤な顔に浮かぶ表情はどう考えても喜んでいるとしか思えない。ミュリエルはそんなルイスを見つめて笑って答えた。
「ふふ、ルイスってば何だか変ったわね。今の方が素直で可愛いわ」
「か・・・かわいいっ・・・!?!」
あんな告白をされて、次の授業でどんな顔で会えばいいのかって思ってたけど良かった。ルイスと普通に話すことができた。
可愛いといわれて不本意で憤るルイスを横目に、ミュリエルは美味しいランチをお腹いっぱい食べた。木苺のムースも当然2個ともミュリエルのお腹に収まった。
「・・・意外とミュリエルって天然小悪魔なのかも・・・」
ぼそっとクレアが誰にも聞こえないほど小さい声でつぶやいた。




