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ミュリエルとマックス

目が覚めるとそこは見慣れぬ白い天井が一番に目に飛び込んできた。その次に顔を右に向けると、窓が目に入った。窓から見える限りの外の感じだと、今はもう夜の様だ。もっと情報を得る為に、次に顔を左に向けると突然マックスの顔がアップで飛び込んできた。悲鳴を上げて半身を起こす。


「ひゃっ!!!」


「ああ・・良かった。目をさましましたか?ミュリエル、あなたは魔過発作を起こしていたのですよ」


ああ・・・あの魔過発作か。普段の生活で負荷がかかり体や精神が限界まで疲れると、魔力を持つ者にだけ発症する発作だ。魔力を持つ者は、その潜在魔力量が多ければ多いほど体内での魔力の制御が出来なくなり魔過発作が起きる。


「発作が起きると動かすのは良くありませんから、あの店の上階の宿を借りて休ませてもらいました。着替えは店のおかみさんにやって頂いたので心配しなくてもいいですよ。それより一体、何をやってそんな状態になっているのですか?」


「私‥あの・・何も・・・・」


「正直に言って下さい。魔過発作は簡単に発症するようなものではない。それにこの発作で心臓が止まることさえあるのですよ!もっと自分を大事にしてください!」


マックスが珍しく声を荒げてミュリエルに詰め寄る。


「ご・・ごめんなさい。ボロジュネールの領地の管理をしてくれていた執事のトーマスが亡くなったので、私が代わりを夜の時間がある時に処理していたからだと思います。今の時期は税の申告や採掘量の精査で、通常より書類が多くて大変なんです」


「あなたって人は、そんなことまで学業の上にやっていたのですか!!!」


いくらボロジュネール子爵家の領地が辺境で、あまり採掘量のない鉱山や痩せた農地しかないとしても、ジリアーニ学園の学業をこなした上に領地の管理をするなど正気の沙汰ではない。よく今まで倒れなかったものだと感心するくらいだ。


マックスは目の前の少女をもう一度見た。彼女は華奢で細い体つきをしている。けれどその碧い瞳の奥に輝く生命力にあふれている姿は凛としていて、まるで戦いの女神であるかのように美しかった。


たった16歳の少女が、ボロジュネール子爵家の責任を全てその背に背負い、自分を犠牲にしてでも守りぬこうとしている。たとえその方法が間違っていたとしてもだ・・・。


「ふっ・・・本当にあなたって女性は・・・なんて・・」


マックスはミュリエルを愛しそうに見つめた後言った。


「今日のところは寮には私が連絡を入れておきますから、ここで休んでください。私も隣の部屋で休ませてもらいますから心配しないように。領地の管理については私の部下にそういう仕事が得意の奴がいますので、彼を紹介しますよ。一人でやるよりは効率がいい筈です」


「あ・・ありがとうございます。今晩はマックス騎士様の優しさに甘えさせていただきます。じゃあ今から眠りますので、おやすみなさいませ」


「・・・・・・」


ミュリエルはマックスが部屋を出て行ってから、布団に入って寝ようと思っていたのだが、いまだに彼はベットの傍の椅子に腰かけたままミュリエルをじっと見ている。


「あ・・・あの・・・おやすみなさい」


駄目押しでもう一度いってみる。するとマックスがそんなミュリエルを見て笑っていった。


「あなたが寝付くのを見届けてから寝ます。なので気にしないで眠ってください。よかったら子守歌でも歌いましょうか?」


「い・・いい・・いえ、結構です!!」


ミュリエルはそういうと、すぐに布団を頭まですっぽりとかぶって横になった。マックスが傍にいて自分の方を見ていると思うだけで心拍数が上がり、眠れる気が全然しない。


こんなの眠れるわけないじゃないーー!!!


そんなことを考えながらも睡眠不足の体は、乙女の繊細な心よりも睡眠を優先させたようで、すぐに寝息を立てて眠り始めた。そんなミュリエルの寝顔をしばらく見ていたマックスは、右手で彼女の前髪を持ち上げて、その額に自身の唇を押し当ててからつぶやいた。


「おやすみなさい、ミュリエル。いい夢を・・・」



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