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凶暴な狂犬リューク

「リューク・・・どうしてこんな所に・・・?」


「俺はお前みたいな女が大嫌いだといったよな。金の為に男を利用する女は最低だ」


またか・・・この男は・・。何をこじらせてこうなってしまったんだ。


もうここらでリュークとは話をつけておいた方がいいだろうと判断したミュリエルは、真剣に彼の黒い二つの美しい瞳を見ていった。


「リューク、あなたが女性に対してどういう偏見を持っていようと構わないわ。私にはまるっきり関係ないもの。けれどその苛立ちを私にぶつけるのは間違ってる。そんなに私が嫌いなら今後一切わたしには近寄らないでちょうだい」


途端にリュークを凶暴な感情が支配した。もう止められないほどに大きくなったその感情は、反射的に彼の体を動かす。


感情のままミュリエルの体を拘束し、その唇を押し当てる。嫌がるミュリエルが体をひねって逃れようとするが足で下半身を拘束し、それを防ぐ。


「んんん・・・・・んっ・・!!」


ミュリエルの叫びはリュークの口内に響いてかき消された。同時に右手で胸をもてあそぶ。意外に大きい彼女の胸は他の女と違って柔らかくて、今まで味わったことのない甘美な感覚に満ちていた。そのまま口の中に舌をねじ込んで口内を蹂躙する。


「っつ!!!!」


突然舌を噛まれて、痛みでリュークは唇を離した。その隙とばかりにミュリエルが、その顔を怒りと恥ずかしさで真っ赤にしながら叫ぶ。


「いい加減にしなさい!!私はあなたの相手をしている女とは違うのよ!私はレイモンドのものなの!!」


『 私はレイモンドのもの 』この台詞がどれだけリュークの加虐心に油を注ぐか分かっていないのか・・。


リュークはミュリエルの体に自身の体を密着させて拘束しながら、溢れ出てくる怒りと共に口角を上げて笑った。その流れるような細い線で造られた目と眉毛。真っ直ぐに通った鼻筋。端正な顔立ちのリュークの顔に浮かぶ残虐な欲望は、彼の顔を一層美しく輝かせた。


「お前の借金は全額俺が払ってやる。そうすればお前は俺に一生尽くすんだろう?一生そばにいて幸せにしてくれるんだろう?でも俺は絶対にお前を愛することはない。ずっと憎み続けてやる。そうやってお前は俺のそばで、一生苦痛にまみれて生きていくといい」


ミュリエルはあまりのリュークの言葉に体を震わせた。彼は何故だか分からないけれども、激しく自分を憎んでいる。早くここから逃げなければと思うけれども、足が震えて力が入らない。


「・・・・嫌よ・・・やめてちょうだい・・・」


ミュリエルの碧く澄んだ二つの瞳から涙が溢れてきた。その純粋な恐怖からあふれ出た透き通った涙は、リュークの心を激しく揺さぶった。その時やっと彼は自分のしようとしていたことに気が付いた。


ミュリエルを・・・壊して・・自分だけのものにしたい。その凶暴なまでの欲望に・・。


「くそっ!!!」


リュークは突然叫んだかと思うと、そばにあった木の幹を思い切り拳で殴った。皮膚が裂けて血が流れ出す。


「いけっ!!ミュリエル!!俺の事はもうほおっておいてくれ!!」


そういって拳から血が流れ出しているにも構わずに、何度も木を殴り続けた。何度目かの時、木の幹のささくれだった感触ではなく柔らかいものが指に触れた。目を開いて顔を上げると、もうとっくにこの場から逃げ出しているだろうとばかり思っていたミュリエルが、リュークの方を見て立っていた。彼女はリュークのそばまで回り込み、拳と木の間に手を挟んだのだ。


拳と木の間に手を挟んだ形になったミュリエルの右手の甲には、傷がついて血が出ている。それにも関わらず彼女は微笑みながらこういった。


「もうやめなさい、リューク。このままだと手が使えなくなっちゃうわよ。あなたの大好きな女生徒とするあの行為ができなくなっちゃってもいいの?」


「・・・どうして止めた。どうして逃げなかったんだ・・・・」


「そうねぇ、私は誰にでも尻尾を振るメス犬らしいから、発情している狂犬が自傷行為をしているのを、見ていられなかっただけよ」


そういってミュリエルはリュークの傷のついた方の手を引っ張って、水やり用の水道の蛇口にまで引っ張っていくと、思い切り蛇口をひねって水をかけた。あまりの痛みに顔を歪ませる。


「いたっ!!やめろ!こんなことしなくていい!!」


「嫌だったら私の前であんなことするのはやめて。まるで構って欲しいって泣いている駄々っ子みたいだったわ」


反論するリュークをものともせずに、傷口を丁寧に洗い流した。そうしてポケットからハンカチを取り出すと傷口にあて、髪のリボンをほどいて丁寧に巻く。一連の動作をされるがままになっていたリュークは、ミュリエルの手の甲の傷を見てつぶやく。


「お前も怪我しているじゃないか・・・なのにこんなことするなんて、俺に対する当てつけか?」


違う・・・こんなことを言いたいのではない。なのに口が勝手に動いて憎まれ口を叩いてしまう。ミュリエルはそんなリュークの心を読み取ったかのように、天使のような微笑みを浮かべて言った。


「そうよ、当てつけよ。充分あてつけられたなら成功ね。さあ早く授業に戻りましょう?私たちどっちも遅刻だわ。単位に響いちゃう」


そういって彼女はリュークの手を引き、授業に戻る為本館にむかって足を向けた。リュークはまるで牙を抜かれた犬のようにおとなしく後をついていった。




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