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リュークの葛藤

街で襲撃を受けた事件の後、リュークは怪我をしたミュリエルを横抱きにして町の医務室まで運んだ。マックスから受け取った時の彼女は、想像したよりももっと軽くて驚いた。こんな華奢な体でレイモンドを庇って兵士と対決しようとしたのかと考えると、リュークの頭の中は混乱した。


どうしてそこまでレイモンドに尽くすんだ。金の為だけなら他にも男はいるはずだ。ミュリエルは借金を返してくれる男に、一生を捧げて尽くすといっていた。そんなわけはない。金さえ手に入れれば彼女だってすぐにレイモンドを捨てるに違いない。他の女と同じように・・・。


そう思っていたリュークの考えは彼女の行動によって一気に覆された。ミュリエルは命を懸けて、学園を退学になることもいとわずにレイモンドを助けようとした。その時の彼女に迷いはみじんも感じられなかった。


『彼女は他の女と違う』 リュークの出した結論はこうだった。


ミュリエルの言動はリュークの想像や常識をはるかに超越していた。自分がミュリエルに対して抱く感情に戸惑って、心の底から自然と湧いてくる激しい憤りをどうすればいいのか分からなかった。


「いたい!!リューク・・・何を考えているの?もっと私に集中して・・・」


「・・・あ・・ああ・・・」


この女の名前は何だったか?あまりにも数が多くて覚えていない。この女も声をかけるとすぐに寄ってきて足を開いた。どんな女もこんなもんだ。


昼なかの化学教室の隅っこで、リュークは官能的なスタイルをした女子生徒と絡み合っていた。唇を激しく吸い合って、卑猥な音だけが誰もいない空っぽの教室に響く。この教室は穴場で北棟にあり、昼間でも人が来ることが殆どない。なのでここはリュークが好んで女との逢瀬に使う場所の内の一つだった。


リュークは目の前の行為に集中しようと、目を閉じて女とキスを交わした。しかし頭の中に存在し続けるミュリエルの姿を追い払うのは不可能だった。目を閉じていてもすぐに彼女の顔が思いうかぶ。


自分を憎らし気に睨む顔、兵士と戦おうとした時の勇ましい顔、恥じらいながらマックスに向かって微笑んだ顔・・・。それらがぐるぐる回って女との行為に集中ができない。


リュークは思わず自分に覆いかぶさってきた女を突き飛ばした。


「きゃっ!!何するの?!!」


「・・・どこかに行ってくれ・・」


リュークは自身の頭を片手で抱えて、反対の手で自分の体を支えながらうつむいて小さい声でつぶやいた。突然行為の途中で突き飛ばされて仰向けに床に倒れこんだ女は、驚いて聞き返す。


「え・・・?」


「行けっていうんだよ!!ここから出ていけ!!!」


リュークがたまらなくなって大声をだして叫んだ。女はあまりのリュークの豹変ぶりに驚きながらも、すぐに服の乱れを直してその場を走り去っていった。女の駆けていく足音が段々遠くなっていくのが聞こえた。


どうしたっていうんだ俺は・・・。ミュリエル・・・、あの女と会ってから調子がおかしい。貧乏子爵家の令嬢で、借金を返すために男をたぶらかそうとする女なんかに、この俺が惑わされるなんてあり得ない!!


昼間の柔らかい春の太陽の光が開きっぱなしの窓から入って、教室の隅で足を抱えてうずくまるリュークを優しく照らす。そうしてしばらくした頃、彼の耳に男女の会話が聞こえてきた。男の方は分からないが女の方は声ですぐに分かった。


ミュリエルだ!!


彼の心を惑わせ苦しめる女の声。どうやら男はミュリエルに熱烈な告白をしていた。一体ミュリエルはどう返事をするのだろうか?気になって声のする方角を探して辺りを見回す。窓の下の中庭からその声は聞こえてきていた。


「ごめんなさい。私はレイモンドと付き合っているの。こんなことは駄目だわ」


相手の男はいまだ少年ぽい雰囲気の残る、赤毛の精悍な感じの男子生徒だ。ミュリエルに必死の様子で縋りつくように告白をしている。余程、彼女の事が好きなようだ。


「・・・だからあいつと別れたらいい!オレのものになってくれたら今までみたいじゃなくて、絶対に大切にする!もっと努力して力をつけてお前を守ってやる!!」


そこまで言われてもミュリエルは一ミリたりとも心も動かさずに、レイモンドとの関係を選んだ。俺はあの男を知っている。バスキュール伯爵家の7男だ。


爵位は継げなくともあの家はかなり商売で成功している。ボロジュネール子爵家の借金を、息子の婚約者の為に返済することくらい簡単だろう。ミュリエルはどうしてあの男を選ばない。レイモンドのようなつまらない男より、そいつの方がよっぽど一緒にいて楽しいだろう。そんなにレイモンドが好きだというのか。


リュークの胸に再び、自分ではどうしようもない怒りが湧いてきた。ミュリエルの事を考えるとひどく残虐な気持ちになる。彼女を壊してでも自分の思い通りにしたくなる欲望が自分を支配する。


リュークは考えるよりも先に足が動いていて、気が付いたらミュリエルが一人残されている中庭に立っていた。


そうして感情のままに言葉を紡ぐ。


「相変わらずのメス犬ぶりだな、ミュリエル。お前は誰かれ構わず金を持っていそうな男には尻尾を振るんだな・・・」



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