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運命の歯車

不定期更新です。書くペースは早いのですぐアップすると思います。一挙掲載はありますが、連載は初めてです。伏線もあまりないストーリーなのでできる技です。よろしくお願いします。

ミュリエル・ヘレナ・ボロジュネール子爵令嬢は、彼女の運命が180度変わろうとするその3分前、親友のクレアと一緒にジリアーニ魔法学園の図書館で勉強をしていた。


「ねえ、ミュリエル。あなたの成績ならそんなに勉強しなくても、学校を卒業したら王帝魔術騎士になれるわよ。そんなに頑張らなくても・・・」


木漏れ日が部屋に注ぐ昼下がりの午後、名門ジリアーニ学園の制服に身を包んだ少女が向かい合って座っている。ジリアーニ学園は貴族の子女だけが通う名門中の名門校で、この学園を卒業すれば女はいい縁談が、男はいい役職に就けると評判の学園である。


その学園に奨学金を貰いながら通っているのが、ミュリエルだった。彼女は子爵家の生まれであるが、その子爵家の領地は瘦せている上に、辺鄙な場所にあったのでいつもお金がない状態だった。


幼い弟のギュンターが生まれた時に母を亡くし、それ以来病弱になりほとんどの時間をベットで過ごす父を城に残して、学校の宿舎で暮らしている。そんな彼女の夢は将来王帝魔術騎士になってよい給金を貰い、あわよくば戦争で手柄を立てて領地を拝受しようと狙っていた。


ミュリエルはカールのかかった長い金色の髪をたらし、ハーフアップにして赤いリボンで縛っている。目は濃いブルーでよく見ると緑がかっている青なのが見て取れる。利発で理知的な彼女の内面を現すかのような鋭い視線を友人のクレアに向けるとこういった。


「私は将来、確実に王帝魔術騎士になれるように勉強をしているの。騎士の給金を知ってる?年1000枚の金貨よ!!1000枚!!そうしたら屋敷の修繕を全部やっても、まだ残るわ!」


大体庶民の年収が金貨10枚である。いかに王帝魔術騎士が破格の給金を貰っているのかが分かる。王帝魔術騎士になるには途方もない量の魔力と、魔術を操る為の魔方陣を考える計算能力。その魔方陣を正確に形成するための緻密な能力が求められる。ルべリア王国でも100人しかその称号を認められていないという狭き門なのだ。


彼女の向かいに座っているクレアは男爵令嬢で、焦げ茶色のストレートの髪と紫色の眼をした少女だ。丸い銀縁の眼鏡をかけている背の低い小柄な彼女は、学園に入学してすぐにミュリエルの友人になった。クレアは目標を持ち、そのために努力を惜しまない彼女を見てすぐに彼女を好きになった。


「ミュリエルは学園で恋したいとか思わないの?いつもお金、お金ね」


「恋なんて・・・そりゃあいづれは素敵な男性と出会って恋をしてみたいと思うけど、今はお金がないとどうにもならないもの」


ミュリエルは大きな溜息をついた。このままでは借金がかさんで、ボロジュネール家は立ちいかなくなる。そうなればまだ幼い弟のギュンターを良い学園に通わせることもできなくなり、ともすれば最悪爵位まで失う羽目になるかもしれない。それだけは回避しなくてはいけない。そのためにもミュリエルが王帝魔術騎士になることは、必要不可欠の条件だった。


「ごめんね。うちにもう少しお金があったら、ミュリエルの家に融資してあげることもできたんだろうけど、去年お父様が投機に失敗しちゃって・・・。それからうちのウエストヒル家も余裕が無くなっちゃったの」


クレアが申し訳なさそうに言うのを聞いて、ミュリエルはすぐに言い返した。


「何言っているの!!クレアからお金を借りる気はないわ!私は自分の力でこの危機を乗り切って見せる!」


ミュリエルは拳を握って力説した。そこに学園の魔術の先生、ジリアン先生がミュリエルに向かって歩いてくるのが見えた。二人はすぐに席を立って先生に挨拶をする。


「ミュリエル・ヘレナ・ボロジュネール。おうちの方から連絡がありました。侍従のトーマス様がお亡くなりになられたそうで、急きょ帰宅せよとのことです。馬車を待たせてありますのですぐに支度をしてお帰りなさい」


侍従のトーマスが死んだ?そんな!!彼は確かに今年で68歳だったが、まだまだ足腰も強くて3か月前に最後に会った時も元気そうだったのに!


ミュリエルは余りの衝撃にその場に倒れこみそうになりながらも必死で耐え、ジリアン先生に言われるがまま急いで屋敷に戻った。トーマスは実の祖父、祖母のいないミュリエルにとって祖父のような存在で、生まれた時から屋敷にいた家族の一員だ。父が病床に付してからは、代わりに彼が領地の管理や屋敷の運営をしていた。


その彼の永遠に失ってしまった悲しみに身を震わせながら、彼女は馬車に揺られていた。頭に浮かぶのはトーマスの笑顔ばかりであった。ジリアン先生に聞いたところによ

ると、突然の心臓発作でこの世を去ったらしい。余り苦しずに死を迎えたことは喜ばしい事だったが、最後に一目でも会いたかったと涙を浮かべた。


「ミュリエル姉さま!!」


屋敷に着くなり、ギュンターが扉から飛び出てきてミュリエルに抱き着いた。その顔は泣きはらしたようで腫れていた。彼にとってもトーマスはかけがえのない大事な家族の一人だったのだ。ミュリエルはギュンターの小さな体をしっかりと抱きしめながら、背後に憂えた表情をたたえて立つ侍女のリリアンを見た。


「お嬢様・・・。突然の事で私たちにも何が何だか・・・」


「リリアン・・・・」


ミュリエルはただ彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。リリアンは26歳で彼女が生まれた時からボロジュネール家に仕えてくれている侍女だ。殆ど給金を払えない状態に耐えかねて他の侍女たちは去っていったというのに、彼女は屋敷に残ってくれた。


ボロジュネール家の屋敷は辺境にある為広大だ。でもその殆ど全ての場所が修理を必要としていて人の住める状態ではなかった。屋敷のほんの一角を住居として細々と修理をしながら、なんとか暮らしているといった状況だ。


ミュリエルはギュンターと一緒にトーマスの亡骸を確認しに行った。硬いベットの上で横たわるトーマスは生前の彼とは全く違って青白く、彼の魂がもうこの世界には存在しないことを理解させるには十分だった。ミュリエルは8年前に死んだ母の姿を思い出した。彼女の大事な人が、また一人この世を去ってしまった悲しみに襲われる。


「お姉さま・・・」


悲しみの渦に巻き込まれそうなミュリエルを押しとどめたのは、ギュンターのか細い声だった。


そうだ、私がこんなことではいけない。トーマスがいなくなった以上、この家を守っていくのは私しかいないんだ!!


ミュリエルは大きく息を吸うと泣きながら自分の名を呼ぶギュンターを振り向き、微笑みながらいった。


「大丈夫よ、ギュンター。お姉さまが何とかするから心配しないで」


そうはいっても領地の運営、屋敷の管理。いままでトーマスが行っていた事を、学園に通いながらミュリエルが行うには無理があった。かといってジリアーニ学園を辞めてしまうと、王帝魔術騎士になる道も閉ざされてしまう。


あと1年で卒業だというのに、どうしてこんなタイミングでトーマスが天に召されてしまったのだろうか。この屋敷には侍女のリリアン、元は庭師でいまは屋敷全般の修理をしてくれている57歳独身のポール。後は寝たきりで薬が必要な父のルドガーと弟のギュンターしか残っていない。


ミュリエルは唇を噛んだ。後一年でいいのに・・・。このままでは・・・!!


「ミュリエル、聞いたよ。大変だったんだってねえ」


「ブカレス叔父様!!」





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