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31年前の真実

ご覧いただき、誠にありがとうございます。


今回は主人公の小学生時代に起きた暗い出来事についての話です

1986年4月7日月曜日、今日は始業式だったので、学校は午前中で終わった。


昼からは、スターこと渡裕次郎の家に行き、大ちゃんこと吉岡大も交えてテレビゲームで遊んだ。


結局、夕方までスターの家で遊んで帰宅した。


帰宅後、晩ごはんを食べてから自分の部屋に戻り、テレビを視たりマンガを読んだりしてるうちに、時間はたって風呂に入る時間となった。


風呂から出たのは午後9時半ごろで、後は寝るだけである。


風呂から部屋に戻った俺は電気を消して布団に入った。そして、今日あった事を考えていた。

杉山京子と俺の知ってる過去と比べて、少し仲が良くなったような気がする。


(俺の知ってる過去……)


俺は31年前……もっとも、今居る場所は31年前の世界だが、42歳まで生きた俺が既に経験していた31年前の事である。


31年前………



小学六年生になった俺は、テレビゲームが得意な意外に、これといった取り柄の無い小学生だった。


小学生六年生になっても、クラス編成や担任は五年生の時と同じなので、実質的に五年生の延長という感じだった。


板倉先生が担任の6年2組は席替えがなく、5年生6年生の2年間ずっと同じ席だった。


俺の席は教卓の目の前、真ん中の列の一番前という、誰もが最も座りたくない席だったのだが、俺はこの席がそれほど嫌いではなかった。


なぜなら、隣の席が杉山京子という、才色兼備の美少女だったからである。


俺は女の子とコミュニケーションをとるのが上手なタイプではなかったので、京子と特に親しかったわけではなかったのだが、隣の席に可愛い女の子がいて嫌なわけがない。


杉山京子は勉強もスポーツもクラスではトップクラスで、小学生とは思えない程の知識の持ち主だった。


京子は自分から目立つのを好まない性格なので、先頭に立ってクラスを引っ張るような事はしなかったが、いざという時は頼りになるタイプで、クラスのご意見番的存在だった。


京子が隣の席にいたとはいえ、俺と京子との間に何らかの特別な思い出があったわけではなかった。


京子が頭の良い美少女とあっては、逆に親近感がわかないというか、所謂、高嶺の花のような存在になってしまっていたのである。


小学生なのに感情を表に出す事もなく、いつも落ち着いている京子は、子供の中に大人が一人混じっているような錯覚さえ起こさせるほどだった。


スケベ男の三宅でさえ、京子のスカートをめくる事はなかった。スカートめくりをする度胸のない、クラスの男子児童のほとんどが、三宅が京子のスカートをめくり、京子のパンティがあらわになる事を期待していたのだが、三宅も本能的に京子には手が出せないと悟っていたように思えた。


俺は京子の隣の席だという事で、他の男子児童にうらやましがられたものであるが、隣の席という事で、逆に親しくしづらくなっていた。もちろん、必要な会話や挨拶くらいはするし、出席番号が同じなので、男女ペアで何かする時は一緒になる事が多かった。


そういう環境をラッキーじゃないかと言う人もいるだろう。しかし、俺はその正反対だった。


京子と親しくなりやすい状況は他人から妬まれやすく、俺は妬まれるのを恐れたのと、女子には興味がないと粋がってみたい年頃だったからである。


したがって、俺は京子の隣の席である事で、友達に密かな優越感を抱いていたくらいで、他には友達と何ら変わりない小学生生活を送っていた。


一方、当時の杉山京子はというと、美少女だったのは確かだが、俺達が京子に近付き難い何かを感じさせたのは、京子がものすごく勉強が出来たからである。


成績の順位が発表されていたわけではないので、正確にはわからないが、たぶん、クラスで一番、いや学年でも一番だったはずだ。授業態度が特に熱心というわけではなかったが、先生に指された際には的確に答え、他の児童からわからない部分を教えてくれと言われた際にはわかりやすく教えていた。


京子は授業以外の知識も豊富で、思慮深いタイプだったので、特に他の女子児童の悩み事の相談相手にもなっていた。


ただ、京子は他の児童よりすごく頭が良いとかいうのではなく、言葉で説明するのは難しいのだが、同級生とは何かが違っているような感覚を他の児童全員が覚えていた。


別に京子が他の児童を見下していたとかいう事はなく、普通に会話していたのだが、京子から他の児童に緊張を強いるようなオーラが発せられていたような気がしていた。京子と会話をすると、頭の良い同級生というより、学校の先生と会話をするのに近い感覚だったように記憶している。


まるで、息を吐くように女子のスカートをめくったり、胸やお尻を触ったりしていた三宅が京子にだけは手を出さなかったのも、おそらく俺と同じオーラを感じていたからではないかと思われる。


そんな京子であるが、家庭環境はあまり恵まれていなかった。


母子家庭の京子の母親は、所謂、風俗店の経営者らしく昼過ぎから翌朝まで店の仕事をしているため、娘の京子とほとんど顔を合わせる事がなかったらしい。


また、京子の母親には内縁関係の男がいたらしく、しかも、男は頻繁に入れ替わっていたと聞いた事がある。


そんな難しい家庭に育ったからこそ、自分自身で努力しなければならず、結果として大人びた小学六年生に育ってしまったのだと当時の俺達は考えていた。


家庭環境に恵まれているとは言えない京子であるが、頭脳、人間性共に小学生レベルを超越しており、自らの力で人生を切り開いて行くには充分だと思われていた。


しかし、現実はそうはならなかった。


その年の夏休み、俺達は例年と変わらない夏休みを過ごしていた。


ちょうど、世間がお盆の帰省ラッシュで賑わう頃だった。


朝早く、一本の電話がかかってきた。それは同じクラスメートの保護者からだった。


各クラスには連絡網というのがあり、連絡事項がある場合には決められた順番で連絡が行き渡る仕組みである。


その時の電話の内容は杉山京子が行方不明になったというものだった。


まだ寝ていた俺は電話を受けた母親に叩き起こされた。詳しい状況はわからず、ただ、京子が行方不明という事しか連絡網では伝わって来なかった。


しかし、それから30分もしないうちに、京子の捜索をするので、6年2組の保護者で集まれる者は学校に集合するように連絡網で伝わって来た。


その日は母親は仕事だったが、父親は休みで家にいたので、めんどくさがる父親を母親が尻を叩き、何とか学校に行かせた。


捜索は昼まで行われたが、何の成果もなく終わって父親が帰って来た。


父親が言うには、世間体を考え何かをやっておかなければという事で、とりあえず捜索をしてみただけという感じだったらしい。


俺の父親は昼には帰って来たが、中には熱心な保護者もいるようで、午後も何人かの有志で捜索をするらしい。


ただ、その日の捜索では、手掛かり一つ見つからなかったと夜に電話が入った。


ただ、その日の夜には京子が行方不明に至る状況が京子の母親の話からわかってきた。


当初は誘拐、家出、神隠し……いろいろと噂されたが、外出着と財布、ポシェットが家から無くなっていた事がわかり、自発的な家出ではないかという事になった。


京子の母親はその日のうちに警察に京子の捜索願を出した。しかし、事件性が見られない事から大掛かりな捜索は行われず、翌日になっても手掛かりすら見つからない状況だった。


二日三日と日はたつものの、京子の行方は全くわからず、次第に保護者達の間に焦りの色が見え始めた。


もちろん、保護者達も一生懸命捜索はしていた。交代で駅前や繁華街に立つ者、福山市内や近郊の宿泊施設に片っ端から電話をかけて京子が宿泊していないか尋ねる者、車や自転車で市内をやみくもに走って捜索する者、保護者達も自分のやれる範囲で京子の捜索を行っていた。


頭脳明晰な京子の事だから無事でいるだろうと、誰もが考えていたが、その願いは思わぬ場所からの知らせで打ち砕かれた。


京子が行方不明になって5日目、1986年8月15日の朝に京子の自宅の電話が鳴った。京子の母親が電話に出たところ、相手は福山中央警察署からで、署員がそちらに行くので待っていてほしいとの事だった。


しばらくして、京子の母親のもとへ福山中央警察署から署員が訪ねて来た。


署員が京子の母親に説明したところによると、前日の夕方に東京都内で列車にはねられて死亡した身元不明の少女がいるのだが、それが京子ではないかと言うのである。


東京都内で死亡した少女の着ていた衣服、所持品は京子が行方不明になった時に着ていた衣服や所持品と一致しており、京子の母親がそれを告げると署員は身元確認のため東京に向かってほしいと言ったらしい。


この日の朝の出来事は、後日京子の母親から知らされてわかった事である。したがって、クラスメートの保護者達はこの日も福山市内で京子の捜索を続けていた。京子の母親は午前中に東京に向かったので、捜索には加わらなかったのだが、心労で捜索に来られず休んでいるのだろうと不信に思う者はいなかった。


後に京子の母親が語ったところによると、京子の母親は東京駅に着くとそこには警視庁の人間がいて、福山から同行した福山中央警察署の署員から警視庁の警察官に引き継がれ、京子ではないかと思われる少女の遺体がある警察署へと向かう事になった。


その警察署は東京駅から車で20分もかからない場所であり、京子の母親が途中に見た道路の案内標識に『浅草』とか『錦糸町』とかあったらしいので、21世紀の時代では東京スカイツリーのあたりではないかと思われる。


警察署に着いた京子の母親は、すぐに遺体と対面し身元確認が行われた。


その遺体はまぎれもなく杉山京子だった。


京子の母親はすぐに関係各所に京子が亡くなった事を連絡し、小学校の関係者にも連絡があって、その日の夕方には連絡網を通じて京子の死は誰もが知るところになった。


手続きを終えて、京子の母親と京子が福山に帰って来たのはそれから数日後だった。


通夜、葬儀には保護者だけでなく児童も参列した。


葬儀の翌日、まだ夏休み期間中だったが、臨時の登校日が設けられた。体育館で全校集会があり、児童に京子の死が校長より告げられた。児童全員で黙祷し、教室に帰ってから詳しい事情の説明が行われた。


俺達のクラスでも板垣先生から事情が説明された。それによると、死亡した状況から京子は自殺ではないかと思われると説明があった。


その時の教室内の何とも言えない雰囲気を俺は今でもよく覚えていた。悲しいとか驚きというより、現実をどう受け止めたらよいのかわからない、どう反応したらよいのかわからないという何とも表現しようのない雰囲気だった。


板垣先生の話を聞く俺達は、私語はもちろん、物音を立てたりしたり、果ては息を吸うのも不謹慎に感じるほどだった。


結局のところ、京子の自殺の原因はハッキリとはわからずじまいだった。事件性が無いので、警察がしっかりと捜査しなかったのと、京子が遺書を遺していなかったためである。


板垣先生からは、京子が亡くなった事について、理由探しをしないように言い渡されていた。そのため、俺達は意図的に京子について話題にするのを避けていた。


自殺した原因がわからなかったため、ひょっとしたら、俺達に原因があるのではと考える者もいたりして、考えれば考えるほど、深みにはまるような気がしていたのである。


京子の自殺の原因についてであるが、当時小学生だった俺達には見当もつかなかったのだが、京子の家庭環境などを考えると、大人になった今では見当がつく。


京子の母親と同居していたという、内縁関係の男による性的虐待があったのではないかと思われる。


京子の死が俺達に与えた影響はあまりにも大きく、また、自殺だったため、京子の事を話題にするのもはばかられたためクラス内の雰囲気は暗いままで、追い打ちをかけるように、担任の板垣先生が二学期開始直後に心労で倒れ入院してしまった。


すぐに、代用教師が来たが、クラス内のどこかよそよそしい雰囲気は変わらず、それは卒業までずっと続く事になってしまった。


なお、板垣先生は復帰する事なく、その年のうちに教師を退職した。


また、京子の母親は娘の自殺について、いろいろな噂が立つのに堪えかねたのか、経営していた店を閉めどこかに引っ越ししてしまって、以後どうなったかはわからない。


結局、京子の自殺は俺達の心にも深い傷を残す事となってしまった。


クラス全員が、京子を死なせずに済む方法があったのではないかと自分を責めてしまったのである。


俺達はそれをどうやって乗り越えたのか?


それは、京子の記憶を封印する事によって乗り越えていった。中学になると新しい友達など環境が変わり、京子の事を思い出す事は無くなっていった。


そして、そのうちに杉山京子は俺達の記憶の中から完全に姿を消してしまったのである。





「…………!」


俺は突然我にかえった。


(夢を見ていたのか?)


ここは俺の部屋である。


俺は状況を整理した。そして、俺は始業式の後、スターこと渡裕次郎の家でテレビゲームで遊び、夕方に帰宅して、それから夜になり布団に入った事を思い出した。


何で31年前の事を思い出したのかわからない。ただ、俺はその31年前の世界にやって来ている。


これから体験する事になる暗い未来を俺は知っているのだ。


未来を変えずに一年間を過ごせば2017年の世界に戻れるらしい。もし、未来が変わったら……どうなるのかを俺は知らない。


俺は布団の中でいろいろ考えていた。しかし、考えていても解決しない。


(俺は毎日を淡々と過ごすだけだ。その結果がどうなるかわからないが、後悔する過ごし方はしないぞ)


俺は考えながら眠りについた。

次回は悩みながらも主人公が京子に惹かれていく話です。


お楽しみに

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