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懐かしい人々との再会

小学生生活第一日目の話です

「……きろ」


俺の耳に誰かの声が聞こえてきた。


「さっさと起きろ」


誰だろうか?聞き覚えのある声だった。


「ほら、昼ごはん昼ごはん。いつまで寝てんの」


そういえば、俺は昭和63年4月1日に来ているんだった。朝起きて、家の中を探索して、今日の正確な日付を確認したところで、緊張の糸が切れたのか疲れが出て少し眠る事にしたのだった。


俺はゆっくりと目を開けたのだが、布団の横に立って俺を上から覗き込む顔があった。


中学生くらいの女で、長い髪を後ろで束ねている。視界がはっきりするにつれ、俺はこの女が誰かわかってきた。


これは俺の姉だ。


「姉ちゃんか…どしたん?」


中学生時代の姉に懐かしさを感じながらも、それを表情や言葉に出さないように気を付けながら言ったのだが、逆に不自然に聞こえなくもない。


「春休みだからって、いつまで寝てんの。もう、昼ごはんの時間だから」


「もう、昼か」


当時は俺の両親は共働きだったので、母が仕事の日に俺や姉が家にいる時は、昼ごはんは前日に買っていたパンなどで済ませていたはずだ。


「姉ちゃん、今日の昼ごはんは何?」


「パンが2個ずつあるから」


やはり、俺の予想通り昼ごはんはパンだった。


「パンは台所にあるから」


「わかった」


俺は一階に降りて、台所の食卓の上に置いてあるパンを2つ取った。前日に母が買って来ており、戸棚にでもしまっていたのを姉が出して食卓に置いたのだろう。姉はもう昼ごはんを終えたのか、姉の分は既になかった。


パンを2つ手に持った俺は冷蔵庫を開けて飲み物を探した。冷蔵庫内には飲み物がいろいろ入っていたが、その中から250ccの缶に入ったコーラを選び、パンと共に部屋に持って行った。ちなみに、当時は缶ジュースは今とは違い250ccが主流だった。


部屋に戻るとパンを2つ食べて腹ごしらえをして、コーラもグイっと飲み干し昼ごはんは終わった。


俺は昼ごはんを済ませると、今日は何をするか考えが浮かばす困ってしまった。


両親は仕事に行っており、俺の小学生時代、姉と遊んだりした記憶はほとんどない。


こうなると、今日は何の予定も入っていないような気もするが、友達と何か約束があったかもしれない。


小学生時代の俺は約束事をメモしておいたりはしないだろうから、友達と何か約束をしていたかどうかはわからない。仮にどこかで友達と待ち合わせる約束をしてあったとしても、俺がその場所に現れなかったら友達がこっちにやって来るはずだ。今日はとりあえず出歩くのは控えて家に居る事にした。


俺は部屋にあるテレビを点けた。テレビを視れば情報収集も出来るし、放送している番組について知っておかないと、友達や家族との話題にもついていけないからだ。


テレビを点けたのはよいが、民放各局はつまらない昼ドラしか放送していない。NHKにチャンネルを合わせてみたがお年寄り向けの番組を放送しており、俺はテレビを視る気が失せてしまい、テレビの電源をOFFにした。


時計を見ると、まだ13時すぎである。夜になれば面白いテレビ番組をやっている可能性もあるが、夕方まではワイドショーやドラマやアニメの再放送しかやってないはずだ。


もっとも、テレビで情報収集をしたいなら、ワイドショーは視てもよいかもしれない。ただ、ワイドショーが扱うような芸能界のゴシップには大人になった俺ですら興味がない、小学生時代の俺はなおさら興味がなかったはずである。


(下手に芸能界の話題に詳しくなってしまったら、俺のキャラが変わってしまうかもな)


そう考えると、情報収集をワイドショーで行うのは得策ではなさそうだ。


夕方には当時もニュース番組があったはずだ。ニュースは世の中の大まかな出来事を知るにはちょうどいい。俺は夕方のニュースは視る事を決めた。


ただ、ニュースは昭和の頃は18時から放送されていたはずである。まだ、5時間近くも待たなければならない。そんな時間まで何もしないわけにもいかず、どうしたものかと考えていると玄関の方から声がした


「健太、おるかぁ?」


誰かが俺を尋ねてやってきたらしい。


「おう」


俺は自分の部屋のドアを開けて、階段の方へ向かって大きな声で返事をしてから階段を降りて玄関へ向かった。


「健太、はよ始めようや」


「ジュン!」


俺を尋ねて来たのは、山口淳平で俺達は『ジュン』と呼んでいた。


「何だ?そんな驚いたような顔をして」


「いや、何でもない」


ジュンは俺が小中学生の時は一番仲が良かった。高校では別々の学校に進学したためほとんど会わなかった。懐かしさのあまり、俺はつい感嘆の声を出したのだが、ジュンにそんな事情がわかるはずもない。


「で、どうしたんだ?」


俺はジュンに尋ねた。


「昼からそっち行くと昨日言っただろ?」


「そうだったな、じゃあ部屋行こうか」


俺はジュンを部屋に案内した。


小学生時代、ジュンが俺の家に遊びに来る事はよくあったし、逆に俺がジュンの家に遊びに行く事も日常茶飯事だった。


ジュンの家は同じ町内にあり、歩いて3分もあれば着く距離である。


さて、小学生時代、ジュンが俺の家に遊びに来て、何をして遊んでいたのか思い出そうとした。俺の記憶だと、だいたいこういう時は、テレビゲームで遊んでいたような気がした。


二人で俺の部屋に入る。


俺はテレビゲームをテレビ台から出した。ゲーム機は常にテレビに接続してあり、いつでも遊べる態勢になっている。


「で、どれをする?」


俺はジュンにどのソフトで遊ぶか尋ねた。


「おう、これこれ、持ってきたよ」


ジュンは自分が持って来た自分のソフトをゲーム機に挿し込んだ。


当時の子供はたいがいこのゲーム機を所有していた。ただ、ソフトは高価なため、ほしいソフトを全部買ってもらえたわけではない。そのため、仲間内の誰かがソフトを手に入れたなら、そのソフト貸し借りして遊んでいたのである。


ジュンが持って来ていたのは、この時代に大流行したシューティングゲームだった。


「さっき買ってもらって、そのまま持って来た」


「そうか、じゃあ、さっそくやってみるか」



ジュンはソフトをゲーム機に挿し込むとすぐに電源を入れた。


21世紀では、ゲームソフトはディスクになっているが、1980年代ではディスクは少数派で、カートリッジタイプが一般的であった。


このシューティングゲームはかなり難易度が高かったと記憶している。実際、ジュンが初めてプレイしているが、すぐにやられてゲームオーバーになっている。


「これはムズいぞ。健太やってみ」


「おう、やってみるか」


俺はジュンからコントローラーを受け取った。


テレビゲーム自体20年ぶりくらいなので、果たしてうまくいくか不安である。

困った事に子供の頃の俺はテレビゲームがジャンルを問わず得意で、友人と対戦すればたいていは勝っていたし、ロールプレイングゲームはクラスで一番に攻略する事も少なくなかった。


ジュンが難易度の高いシューティングゲームをわざわざ俺のところに持ち込んだのは、俺のプレイを見て参考にするつもりなのだろう。


とはいえ、こちらは中身はオッサンである。しかも20年くらいテレビゲームをプレイしていない。どれだけやれるかわからないが、プレイしないわけにもいかないので、とりあえずプレイを始めた。


どうなる事かとおもってはいたが、やり始めると20年くらいのブランクはあるものの、身体が覚えていたのか何とかなるものである。


もっとも、俺はこれから先、中学生、高校生、大学生とテレビゲームをやり続けており、今プレイしているゲームよりもはるかに難しいシューティングゲームをたくさんプレイしていたのである。


どうにか全24面のうち14面まで進んでゲームオーバーになった。


「さすが健太だな。でも、健太ならもっと行けると思ってたけどな」


「まぁ、初めてだからな(本当は初めてじゃないんだけどな)」


俺はそう言いながらも、久々でこれなら上出来だと思っていた。思ったより勘が鈍ってなかったので、少し慣れればクリア出来そうだ。


「ジュン、今度はお前がやる番だぞ」


「よっしゃ、お前よりは先に進むからな」


しかし、10面あたりまでしか進めない。


「ジュン、こういうのは自機を見るな。敵と敵の撃った弾だけを見ておけ」


「それじゃ、自分の位置がわからんだろ。健太みたいにはいかないよ」


「自機なんか、わざわざ見なくても、常にどこにいるかわかるようになっておかなきゃな。そんでもって、敵の攻撃をよく見て、自機がどう移動すればいいか瞬時に考え、自機を思い通りに動かせるようになってなきゃならん」


「それは健太なら出来るかも知れんが、俺にはムズいぞ」


ジュンとこんなやり取りをしながらテレビゲームをやり続けた。


そのうち18時頃になって、ジュンは自宅へ帰って行った。


ジュンが帰ってしばらくしてから夕食だった。今日の夕食はトンカツだった。


夕食を食べていると父が仕事から帰って来た。


1986年当時の父はまだ44歳だ。当然ながら若い。俺が死んだ2017年ではもう75歳になる。父は67歳の時に自転車で転倒して大腿部を骨折し、それからは歩行には杖が必要になっていた。


夕食に父も加わり、一家四人が勢揃いした。


「今度の日曜、みんなでドライブでも行くか?」


夕食が終わり、お茶を飲みながら父が言った。


「それで、どこ行く?」


母が尋ねる。


「私は友達と買い物行くから」


姉が言った。中学生ともなれば家族よりも友達との用事の方が多くなるし、友達との用事が優先される年頃である。


「健太はどこ行きたい?」


父は俺に尋ねる。俺はドライブに興味はないが、俺も父と同じくらいの年齢になっただけに、父と語らう時間も悪くないと思った。


「ドライブよりも、釣りに行きたい」


俺は父と海を眺めながら釣糸を垂れて、語らいの時間を過ごすのが良いと考えた。


「釣りか。母さんはどうする?」


「釣りだったら私は行かないわ」


「じゃあ、健太。二人で釣りに行くか」


「うん」


こうして、今度の日曜に父と二人で釣りに行く事が決まって夕食を終えた。


夕食後は両親は居間でテレビを見る。俺と姉はそれぞれの部屋でテレビを見たり、本を読んだり、たまにだが勉強したりしていた記憶がある。


「ごちそうさま」


俺は箸を置くと自分の部屋へ戻った。


部屋へ戻るとテレビを点けたのだが、4月1日といえばテレビ局は各局とも番組改編時期で、レギュラー番組ではなく特番が放送される時期である。チャンネルをいろいろ回してみたのだが、くだらないバラエティばっかりだったのは2017年も1986年も変わらない。


テレビを見る気が失せた俺はゲーム機を出した。今日は久々にゲームをやったのだが、今後も友達と一緒にゲームをやる機会も多いだろう。俺はゲームを特訓しておきたくなった。


たくさん持っているソフトから、適当に選んでとりあえずプレイしてみる。しばらくプレイして次のソフトで遊ぶ。それを繰り返すうちに、どんどん熱中してしまう。


ゲームに熱中していると、いきなり部屋のドアが開いた。


「もう9時半だよ。早くして」


姉はちょっとイライラしたような感じだ。


(姉ちゃんは何をイラついてるんだ?)


俺は姉がイライラしている理由がわからない。


「どしたん?」


俺はとりあえず尋ねてみる。姉は明らかに不快感を顔に出した。


「早く入ってくないと、私が入れないでしょ」


姉が言ってから俺は思い出した。


この頃は俺が21時頃から風呂に入り、俺が出てから姉が入る。両親はその後に風呂に入っていたはずだ。


「わかった。すぐ入ってくる」


「早く早く」


俺は部屋の隅に母が用意していた着替えとバスタオルを持って、急いで階段を降りて風呂に向かった。


風呂から上がると22時前だったのだが、急に眠くなってきた。


大人になった俺には、22時といえばまだ眠くなる時間ではないのだが、小学生の身体にはもう眠くなる時間なのだろう。


俺の記憶にも小学生の頃はだいたい22時すぎには寝ていたはずだ。


俺は部屋の電気を豆球にして布団に入った。


布団に入りいろんな事を考えた。


思えば、昨日の今頃は42歳だった。今朝俺は死んで、気付いたらあの世にいて、神様に会って、なぜか1986年にやって来た。


1986年にやって来てからわずか一日だが、いろんな事があったが、無事に一日を終える事が出来た。


俺はこれから一年間こちらの世界にいる事になるはずだ。


俺は31年前に一度経験している世界である。


こちらの世界で一年間過ごし、未来が変わらないようにしなければならない。


つまり、31年前に俺自身が経験した事を再現せよという事である。31年前の俺とかけ離れた行動をしてはならない。


つまり、これから一年間、俺は記憶をたどる旅をするようなものだ。


きっと、色々な事が起きるだろう。しかし、絶対に一年間を無事に過ごし、俺が死んだ事を無かった事にしてもらう。


俺は固く心に誓いながら眠りについた。

次回は父と釣りに行く話です。


お楽しみに

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