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今日の日付

ご覧いただき、誠にありがとうございます。


主人公がいよいよ部屋から出ます

俺は昭和63年4月と思われる自分の部屋にいた。


まず、自分の置かれた状況を出来るだけ確認したいので、部屋の中をいろいろ調べてみる事にした。


実際に過去に俺自身が生活していた部屋なのだが、何しろ30年以上前の事だけに、部屋に置いてある物全てを覚えているわけではない。


机の上には筆記用具と共に、宿題なのだろうか、算数のドリルが置かれていた。このドリルそのものに関する記憶はない。次いで、本棚に並べられた漫画を見た。小学生の頃愛読していて、完結まで全巻揃えた漫画が並んでいた。俺はその中から適当に一冊を手に取ってページをめくった。


「おぉ!懐かしいな」


俺はつい感嘆の声を出してしまった。小学生の頃、繰り返し繰り返し何度も読んだ漫画だけに、ストーリーもよく覚えている。ペラペラとページをめくりながら懐かしさに浸っていた。


しかし、懐かしさに浸るばかりでは状況は把握出来ない。俺は漫画を本棚に戻した。


今度は閉じられたカーテンを開けた。窓から見える風景は俺もよく知っているものだった。しかし、2017年とは違うところもある。俺の部屋は家の奥の方、つまり裏側にあり道路には面していない。


窓の向こうには裏手の家が立っている。笹田さんという一家が住んでいるのだが、その笹田の家がまだ新しい。


(そうか、笹田さんの家はまだ建てたばっかりだったんだな)


2017年には老人になった笹田さんと奥さんが二人暮らししているただの民家だが、1986年といえばまだ笹田さんは40代くらい、たしか、高校生の娘さんがいるはずだ。ちょうど、この頃新築したという記憶もある。


(さて、部屋から出てみるか…いや、その前に着替えとくべきか)


俺は服を着替えようと思い服を探した。子供の頃は部屋の隅にある収納ボックスにある服を出して着ていた記憶があるので、収納ボックスを探し中から長袖のTシャツを取り出した。


小学生の服なのでサイズが小さく、さっきまで大人だった俺は一瞬戸惑ったのだが、今は俺は小学生なのだと改めて思い出した。


そうなると、俺自身の体がどうなってるのか気になった。俺は着ていたパジャマを脱いでパンツと肌着だけの姿になった。


下を見て俺の胴体を確認する。42歳の俺はメタボ気味でお腹のたるみが気になっていたのだが、小学生の俺のお腹はスッキリしていた。今度は手足を動かしてみる。動きが軽い。あれこれ身体を動かすのだが、身体のどこにも痛みがない。


「うわ!これはいいな」


ニッコリしながらつぶやく。俺は小学生時代の身体が動きやすい事に感激していた。


俺はTシャツを着てズボンを探したが半ズボンしかなかった。しかし、それは当然である。1980年代の小学生の男子は一年中半ズボンが当たり前だったからだ。

さっそくズボンを履いて着替えを済ませると部屋から出た。部屋を出るとそこは階段に続く廊下である。俺の部屋を出るとまっすぐ前に向かう廊下がある。俺の部屋は廊下の一番奥だ。俺の部屋の出口から見て廊下の右側に二つ部屋がある。


まず俺の部屋から見て手前の部屋は、普段は何も使われていない六畳の和室である。親戚の人とかが泊まりに来た時に寝泊まりする客間だ。


その向こうにある部屋は姉の部屋、俺より二つ歳上の姉である田村真由美の部屋だ。もっとも、2017年ではとっくに結婚して姓か変わり岩本真由美となっている。


姉の部屋の向こうは一階へ続く階段だ。俺はその階段へ向かって歩き出した。


階段をゆっくり下りる。下りた先は一階の廊下だ。その廊下を家の奥に向かい台所へと向かう。台所の入口から中へ入るといきなり声をかけられた。


「英樹、どうしたの?こんなに早く」


声の主は俺の母親だった。母親…田村昌子は1986年当時はまだ三十代だったはずだ。


(若いなぁ〜母さん)


俺は口には出さず心の中でつぶやいていた。


そんな俺の様子を母は怪訝な表情で見つめていた。


「いったいどうしたの?そんな所に突っ立ってないで、さっさと手を洗いなさい」

母はテーブルの隅に置いてあった食パンの中から二枚だけ取り出しながら言った。そして、その食パンをトースターに入れて焼き始めた。


「わ、わかった」


俺は母の言葉に我にかえり、すぐに台所の流し台に向かい手を洗った。


どうやら、朝食の時間のようだ。俺は手を洗うと席に着いた。子供の頃、食卓に座る席は決まっていたのだが、忘れる事なく決まった席に座る事が出来た。これは、両親、姉、俺の四人家族は食卓では、常にそれぞれ四方の同じ席に座っていたので、俺は今座っている席以外で食事をした事がなかったからである。


「春休みに入ってから、ずっと10時頃に起きていたのに、今日はどうしたの?」



母はちょっと驚いたような表情で言ったのだが、俺にとっては貴重な情報を得る事が出来た。俺は今日が春休み期間中である事を知って少し安堵した。春休みという事は学校に行かなくてもよく、春休みが終わるまでの間に今後の生活について考えたり、色々と情報を集める事が出来るからだ。


これからいきなり学校に行くとなると、何しろ俺は浦島太郎状態なので、どんなヘマをするかわからない。


俺は小学生の間は塾や習い事などは一切やっていなかった記憶があるので、春休みとなれば何もする事はなかったはずだ。


とりあえずは学校生活に入るまでに時間的な余裕が出来た。

この時間を上手く使い、来るべき学校生活に生かさなければならない。


そうこうしているうちに、トースターに入れた食パンが焼け上がった。


母は焼け上がった食パンを皿に乗せて俺の前に置いた。


「飲み物、何にする?」


「コーヒーでいいよ」


「あんた、コーヒーは苦いから苦手だと言ってめったに飲まないのに、今日はどうしたの?」


母は俺の言葉に目を丸くしながら言った。そして、戸棚からカップを出すと、カップにインスタントコーヒーをスプーンに軽く一杯だけ入れて、更に角砂糖を2個入れてからポットでお湯を注いだ。


お湯の注がれたカップを持ち、スプーンでお湯をかき混ぜながら母はカップを俺の前に置いた。


つい、うっかり大人の俺の感覚で答えてしまったが、これは失敗だった。


死ぬ前の俺は、朝食の際には必ずコーヒーをホットで飲む。しかし、小学生の頃にそんな習慣はなかったはずだ。


(こういう所で失敗する事もあるのか。これは余程気を付けておかないといけないな)


俺はトーストにマーガリンを塗りながら考えていた。


「じゃあ、仕事に行って来るから。その食器は帰ったら洗うからそこ置いといて」


「うん」


母はエプロンを外しながら台所から出て行った。


そういえば、うちは共働きだった。母は朝から夕方までビルや店舗などの清掃をするパートをしていたはずだ。


たしか、日曜以外は必ず仕事に行っていたから、今日は平日だろう。同じく父親も日曜以外は働いていたので、母がパートに行く時間なら、父は既に出社しているはずだ。


「じゃあ、行ってきます。お姉ちゃんはもう尚子ちゃんと遊びに行ってるから、出掛けるなら鍵をちゃんと掛けときなさい」


「うん、わかった」


母はパートに行った。今の母の言葉から姉はもう出掛けているらしい。父も既に仕事に行っているはずなので、つまりは今は家には俺一人である。


「これはいいぞ」


俺はニヤリとしながら独り言を言った。


家には俺以外誰もいないなら、何も気にせずいろいろ調べられる。


まずは今日が4月だとは自分の部屋のカレンダーでわかったが、正確な日付がわからない。まずは今日の日付を知りたかった。しかし、考えてみれば日付を表示している物が思い浮かばない。スマホか携帯があれば話しは早いがここは1986年である。


俺は台所を出て廊下を歩き、家族が皆でテレビを見たりする時に使う居間に入った。しかし、そこにも日付がわかるような物はない。


居間から(ふすま)一つで繋がっている両親の寝室に向かった。(ふすま)を開けて両親の寝室に入った。布団は畳まれて部屋の隅に置かれており、畳の上には新聞が折り畳まれて置かれていた。


父親は毎朝起きると、まず寝床で新聞を読むのが日課だったのを思い出した。


(もしや!)


俺は新聞を手に取った、そして子供の頃の記憶をよみがえらせた。


父親は毎朝寝床で新聞を読み、その新聞は夜に居間でテレビを見る際に、どんな番組を放送しているか知りたい時は両親の寝室から居間に新聞持って来ていたのを思い出した。


この新聞は今朝父親が読んでそのまま置きっぱなしになっていた新聞だろう。つまり、この新聞は今日の新聞である。


さっそく、新聞の日付を確認した。紙面を見る時に俺はある事に気付いた。


(眼鏡をかけてなかったな)


しかし、新聞の小さな文字もよく見える。


(視力が急に低下したのは高校生になってからだったな)


よく考えたら、俺は小学生の時には眼鏡をかける必要がないくらいの視力があったのだ。


それより、今日の日付を見なければならないと思い直し、紙面の上の端を見る。


『1986年(昭和61年)4月1日火曜日』


俺は新聞の日付を見て今日の正確な日付を知った。


「1986年昭和61年4月1日火曜日」


俺は再度確認して念を押すように言葉に出して言った。


これで、正確な日付はわかった。これに伴い小学校のの始業式は4月6日だったと記憶しているので後5日あると考えた。しかし、水木金と数えて行くうちに、4月6日は日曜日だと気付いた。


(こういう時は始業式は月曜日になるんだったな)


つまり、始業式は4月7日であると考えた。


少し時間に余裕があるので、それまでに小学生生活に順応しておかなければと思った。


何しろ、これから一年間続く小学生生活だ。中身が42歳のオッサンだとバレないようにするのは当然として、大人っぽい言動で変わるはずのない俺の未来が変わる事があってはならないのだ。


朝食の際に、うっかりコーヒーを飲もうとした事を考えると、どこに落とし穴があるかわからない。大人の時には当たり前の事も、小学生になればありえないというケースはたくさんありそうだ。


俺はとりあえず自分の部屋へ戻る事にした。


自分の部屋に入ると、とたんに疲れが出て来たのか眠くなってしまった。


先ほど母が言っていたように、春休みにしては早起きしたため小学生時代の俺の身体がもっと睡眠したがっているのか、2017年から転生して来たばかりで目を覚ましてから緊張しっぱなしだったからなのか、理由はわからないが眠かった。


(春休みだし昼寝でもするかな。昼寝というより朝寝坊だな)


春休みだし、少し昼寝くらいしても未来は変わらないだろうと思い、俺は布団に潜り込む。出来ればパジャマの方が良かったが、既に着替えてしまっていたのであきらめた。


本当に疲れが出ていたのだろう。俺はすぐに眠りに落ちて行った。

次回は小学生の春休みの暮らしについての話です

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