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見慣れた部屋

ご覧いただき、誠にありがとうございます。


いよいよストーリーが動き始めました。

俺は眠っていたようだ。


眠りから覚めた俺は目に映っている光景に釘付けになった。


まず、目に映っていたのは板張りの天井、そして小丸電球が点いている丸い蛍光灯だった。俺はこの天井に見覚えがあった。天井に張られた板の木目の模様もよく知っている。


自分の胸元に向かって視線を移動させてみる。


天井から視線が下がり、最初に目に入ったのはカーテンに覆われた窓。そして、視線が更に下がって自分の胸元付近までやって来た。俺は布団ね中にいるようで、厚手の掛け布団が首から下全体を覆っているようである。目で見なくても、身体の感覚からも布団の中にいる事を理解していた。


今度は視線を右に移動させてみた。目の前にあるのは椅子のようだ。そして、椅子の向こうには引き出しがたくさん付いた机がある。

それならば次は左だとばかり、素早く左を見る、俺の記憶が正しければおそらくそこには(ふすま)があるはずだ。そして、予想通り襖があった。


俺が眠っていた部屋を俺はよく知っている。だが、どこなのか頭の中ではわかっているのだが、それを言葉に変換出来ないでいた。

俺は眠りから覚めた時まず何をするか考えた。そうだ、眼鏡だ。俺は近眼で眼鏡を手離せない。普段から目を覚ますとまず眼鏡をかける事を最初にやっていたではないか。


俺は眼鏡は眠る時も必ず手を伸ばせば届く場所に置く。しかも、右手を伸ばせば届く場所だ。俺は右手を布団から出して自分の右側の床の上を探った。

しかし、どんなに手を動かして探っても何の手応えもない。俺の生活習慣ではありえない事だった。日常的に眼鏡をかけている人間にとって、眼鏡が無いというのは死活問題だ。俺は超の付くド近眼で、眼鏡が無いと自分の足元すらぼやけて見えるほどであり、眼鏡をかけずに歩いていると、小さな段差につまずく事もある。


「ありゃ?眼鏡はどこ行ったんだ?」


俺は独り言を言いながら身体を起こした。身体を起こす際に妙な違和感がある事に気付いた。いや、違和感というより、身体に何の違和感もなく身体を起こせたのである。


俺は30歳を過ぎたあたりから腰痛に悩まされていた。布団に横たわった状態から身体を起こす際には、腰に負担がかからないように身体をかばいながら身体を起こす必要があった。それがどうだ、身体に何の負担もなく起き上がれたではないか!


(何かおかしい…)


俺は違和感を感じながらも眼鏡を探すために回りを見渡した俺の目に飛び込んで来たのは、これまた俺のよく知っている部屋の光景だった。真正面にはカーテンに覆われた窓、左に(ふすま)、右に勉強机、その机の後ろには棚の上に乗った小さなテレビがあるはずだ。


その方向を見ると予想通りテレビがあった。ならば、俺の真後ろには本棚があるのは確実だ。


俺は確信を持って後ろに振り向いた、やはりそこには本棚があったのだ。


(あぁ…この部屋は…)


俺はこの部屋がどこにある部屋か完全に思い出した。ここは広島県福山市にある、俺の実家の2階にある俺の部屋だ。


しかし、ここである疑問が湧いてきた。この部屋は俺が関東の大学に進学したために俺は家を出たのだが、それからすぐに物置代わりに使用されていたはずだ。

そして、何よりも、なぜ俺が実家で眠っていたのかが次なる疑問である。


(そういや、俺はさっきも想定外の場所で目覚めなかったか?)


俺は記憶を紐解いて行った。そして、コンクリートに囲まれた部屋で目覚めた記憶にたどり着いた。その部屋で目覚めた俺はその後どうしたのか…


「あっ!」


思わず大きな声が出てしまった。


「そうだよ、そうだよ。俺は何か神様みたいな奴に会ったんだ」


俺は記憶をたどりながらつぶやいた。その神様みたいな奴に俺は死んだと聞かされ、死んだ事を無かった事にするチャンスがあると言われた事、死んだ事を無かった事にするためには、過去に戻り一年間未来が変わらないように生活しなければならないと言われた事を思い出した。


(と、いう事は?)


俺は考えた。おそらく俺は過去に来ている。しかし、過去と言葉にすれば一言だが、正確に何年何月何日なのかわからない。


(せめて、今が何年なのかわかれば良いのだが…)


俺は部屋をぐるりと見渡した。俺にとってこの部屋には懐かしいアイテムの宝庫なのだが、そんな感慨に浸っている暇はない。何か今の日付がわかる物がないか探してみた。


やがて、自分の真後ろ、ちょうど本棚があるのだが、その本棚のすぐ横の壁にカレンダーが掛かっているのに気が付いた。


ただ、日付が羅列してあるだけのシンプルなカレンダー。そのカレンダーは4月の日付を見せていた。俺は素早く立ち上がりそのカレンダーに近付いた。


ちなみに、立ち上がる時も腰に痛みなど感じなかった事、立ち上がって自分の眼に入る光景が自分の想定とは違っていた事、眼鏡を見付けていないにもかかわらずカレンダーの日付が読めていた事、普段の…いや、死ぬ前の俺からすればおかしな事がたくさんあったのだが、とにかく今が何年何月何日なのかを知りたい事が優先されて、数多くのおかしな事については全く気付かなかった。


俺はカレンダーのすぐ前まで近より、念を押すようにもう一度カレンダーを凝視した。そして、今が4月である事をしっかりと確認したのである。


そうなると、今度は何日なのか知りたいが、日捲りならまだしも、ただのカレンダーでは今が何日かまではわからない。ならば、今は何年なのかが気になりだした。そして、その答えはすぐに見つかった。


カレンダーの曜日と日付の欄の横に大きくかかれた『4』という数字、その下に小さく書かれた数字があって、そこには『1986』と書かれていたのである。


(1986年4月か…という事は俺が何歳の時の部屋なのだ?)


俺は頭の中で計算した。俺は昭和49年8月6日生まれである。昭和49年は1974年。つまり、1986年に俺は何歳になるのか?簡単な引き算をするだけなのに、いろいろ衝撃的な出来事があったためなのか、その引き算が出来ない。


「1974、75、76…」


俺は指を折りながら1974から一つずつ数えた。やがて86まで数えた時俺の指は12回折られていたのである。

(12歳か…いや、ちょっと待てよ。俺は8月生まれだからまだこの年の誕生日は来ていない。と、いう事は11歳なのだな)


ようやく、少し落ち着いたのだろうか、俺が1986年4月には11歳である事をすぐに理解した。11歳という事は小学生か中学生か…また何年生か考えようとしたのだが、こちらはすぐに正解を見付ける事が出来た。俺の息子である直人は今(俺が死んだ時を基準にした場合)12歳でこれから中学生になる。つまり、小学生6年生のうちに12歳の誕生日を向かえる事になるのである。


「つまり、俺はこれから小学6年生である1986年にやって来たという事か…」


俺は自分自身に言い聞かせるように静かにつぶやいた。そして、少しホッとしたのだろう「フーッ」とため息をついたのであった。


俺がこの部屋で目を覚ましてから数分間しかたっていなかった。

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