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運動会③徒競走

ご覧いたたきありがとうございます。

運動会の話も3話目、主人公と仲間達それぞれの徒競走のお話です

昼ごはんを食べて、友人を探し校庭を歩くなか、俺の姉と京子が談笑するのを見たのだが、何を話しているのか気になったものの、聞きに行くわけにもいかず立ち去った俺であるが、それでも二人の会話が気になる。後で京子に訊いてみる事にして、とりあえず俺は友人を探して歩いた。


「おーい、ヒデ」


体育館の前を歩いていたら、誰かが俺に声をかけた。声の方を見ると、西豊治が数人のクラスメートと体育館の脇に座ってお喋りしていた。


その数人の中に、俺と特に仲が良いイケこと小池伸二がいたので俺もそのお喋りに加わった。


お喋りの内容は小学生だけに、俺にとってはどうでもよい話ばっかりであるが、俺も今は小学生をやっているわけだから、適当に話を合わせてお喋りしていた。


昨日の晩にやっていたアニメの話やプロ野球の話、ここは広島県福山市なのでプロ野球といえば広島カープの話題である。今年はカープがなかなか好調で、昨年惜しくも逃した優勝も狙えそうらしい。ちなみに、俺は一度2017年まで生きているので知っているが、この年カープは優勝するが、日本シリーズでは敗退する事になっている。未来が変わってなければの話ではあるのだが……


未来を知っている俺からすればプロ野球の話題もつまらない。


先ほど、狸寝入りしながら聞いた女子の会話と比べると、男子の会話のいかにガキっぽい事か…


もっとも、それはそれで悪い気はしない。童心に帰るというか、子供の仲間内での会話は裏表なく遠慮なく言いたい事を言えるので気楽ではある。どうでもよいお喋りをしながらも、俺は居心地の良さは感じていたのである。


なお、どの時代もクラスカーストなるものが存在し、所謂、いじめっ子といじめられっ子が存在するものであるが、幸いにも我らが6年2組には虐めらしい虐めが無かったと記憶している。これはクラス全員が仲が良かったというのではなく、圧倒的なガキ大将がクラスに存在しなかったからだろう。


したがって、我がクラスのカースト上位は誰だろうかと俺は考えた。


俺達のクラスには大まかに分けて二つのグループに分類される。


まず、毎年学級委員を努める船場哲之助を中心とするグループと、スターこと渡裕次郎を中心とするグループである。


船場のグループは21世紀風に言えば、意識高い系グループといえる。個人差はあれど学力の高い方の児童が集まる。もちろん、男子小学生の意識高い系であるから、大人から見ればたかが知れてるレベルではあるのだが。クラスで決め事などをする時は積極的に意見を出し主導権を握るのはこちらのグループだ。


スターを中心とするグループは、簡単に言えば悪ガキグループだ。悪ガキといっても、ちょっと悪戯っぽい程度で非行に走る児童がいるわけではない。


このグループは船場達に比べるとガキっぽい連中が集まる傾向がある。俺がかつて小学生だった時もスターのグループだったのだが、俺はガキっぽかったわけではないだろうが、船場達が気取って見えたので仲の良いジュンもいるこちらのグループに加わったのだろう。そういうところがガキっと言うのかもしれないのだが……


男子の大まかに分けた二つのグループの中でも、それぞれに幾つかのグループに分かれる。


俺のいるスターのグループだと、リーダー格のスターを中心にした主流派と、俺やジュン、イケ、フジダイのグループ、他にも二つくらいグループがあった。家が近所とか同じ塾に通っているといった共通点でグループになる事が多い。


俺やジュンのグループはスター達のご意見番的な位置付けにある。


もっとも、俺達のクラスではグループ同士が対立しているわけではないので、遊び仲間のグループで分かれたと言うのが正しいと思われる。


一方、女子はどうなのかというと、こちらは複雑だ。


女子は確定したグループというのは存在しないように見える。必要に応じてそのつどグループが編成される。そのため、女子のクラスカーストは男子からみたらよくわからない。


男子の船場と共に毎年学級委員に選出される間田育美がリーダータイプではなく、リーダーを補佐するタイプなので女子の中でも先頭に立つ事はない。


顔の広さなら山岸徳子の方が間田より上だろう。しかし、山岸も積極的に先頭に立とうとはしない。


この二人より確実に学力が上の京子はグループを作ってつるむのを好まない上に、他の女子児童から一目置かれすぎてグループに入れたがらない傾向がある。二つのグループで揉め事が起きた場合、京子がいれば確実に勝てるという風潮があり、京子を仲間に引き込むのは反則という感じになっている。だから、京子は中立の立場に置かれるのだろうし、京子自身もそれを知っているので、どちらかのグループに加担しようとはしない。周りが京子に求めるのは、中立的な視点から意見を述べてもらう事であり、味方してもらう事ではないのである。また、そうであるから、京子が述べた意見には誰もが素直に従っていた。


「おい、ヒデ。聞いてるか?」


クラス内の事情について考えていた俺に誰かが声をかけていた。


「何だ?」


「ヒデは今回の徒競走は何番目に走るんだ?」


声をかけたのはイケだった。徒競走は1組から4組までが各1人ずつ、タイムの遅い者から順番に走る。


「15番目だな。去年はもっと後だったけど、今年は測定の時スタートに失敗したからな」


俺は体力測定の50m走を思い出しながら言った。あの時はスタートのタイミングが合わず、タイムが延びなかった。


「ヒデ、わざとゆっくり走ったんじゃないのか?」


西が俺をからかった。


「わざとじないって」


俺は俺なりに一生懸命やっての結果だったので、何ら後ろめたい事はない。


「イケは何番目だ?」


「2番目だけど、今年もビリだろうな」


イケは体格が良いというか、簡単に言えばデブなので走るのは苦手である。


「そりゃ、イケはスタートのピストルの音を聞いて、それから走り出すから出遅れるんだ」


「普通、そうするだろ」


「違うって、ピストルが鳴るぞって瞬間にスタートを切るんだよ。たまにフライングするやつがいるだろ? そいつらはピストルが鳴るタイミングに合わせてスタートを切ろうとしてるんだよ。ピストルが鳴ってから走り出すよりはスタートで一歩前に出られるぞ」


俺はイケに徒競走で少し有利になる方法を教えてやった。


「そうなのか、知らんかった」


イケが感心したように言った。


『間もなく、午後の部を開始します。騎馬競走に出場する5年生と、障害物競走に出場する2年生は入場門に集合して下さい。その他の学年の皆さんは自分のクラスのテントに集合して下さい』


アナウンスが流れたのを聞いて、たむろしていた俺達はテントに向かった。


テントには既にジュンこと山口淳平やフジダイこと藤井大介がおり、俺とイケもその隣に並んで座った。


「徒競走か……今年はどんなやつと走るんだろうな」


ジュンがため息を吐きながら言った。


「タイムが近い者同士だから、1位になる可能性もあるだろ」


「4組はクラス全体速いのが多そうだしなぁ」


ジュンは相変わらず浮かない顔だ。運動オンチのジュンにとっては運動会はつまらないのだろう。もっとも、ジュンは勉強もあまり出来ないから、運動会より授業がいいかと言われても困るのであるが。


「フジダイはリレーの前哨戦だな」


ジュンがフジダイに言った。リレーメンバーはタイムの速い4人が選ばれるので、必然的にタイムの遅い順に走る徒競走では順番が後の4人がリレーメンバーとなる。つまり、リレーメンバーは対戦相手もリレーメンバーという事である。


「リレーは今年も4組だろうな。あそこは4人とも俺より速いから」


フジダイが言った。フジダイは50m走のタイムが2位でリレーメンバーに選ばれている。


「うちは去年は何位だったっけ?」


ジュンがフジダイに尋ねた。ジュンは話の流れで何気なく尋ねたのだが、フジダイは気まずそうな顔をして黙っている。


「ビリだよ。俺が出遅れてそのままビリのまんまだったんだよ」


フジダイが言いにくい様子だったので、俺が言ってやった。


「別にヒデのせいじゃないけどな」


フジダイが取りなすように言った。


「それだから、ヒデは今回はリレーに出ないようにするために、わざとタイムを出さなかったんだな」


ジュンが言ったが、それは間違っている。


「みんなそう言ってるけど、スタートで遅れただけで一生懸命走ったんだけどなぁ」


俺としてはイカサマをしたと思われたままなのは納得出来ないが、友人達になかなか真意が伝わらないもどかしさを感じていた。


プログラムは順調に進行し、俺達6年生の徒競走の番になった。


徒競走は女子が先に走るので、男子は女子の後方へ走る順番に並んだ。


女子の競走が始まった。我らが6年2組はおおむね好成績である。


「うちのクラスは女子はみんな速いんだなぁ。男子は遅いのが多いけど」


俺のすぐ後ろに並んでいた中橋信行が言った。中橋は小学校の軟式野球部に所属している。ガタイの良い坊主頭の児童である。


「全般的にうちの男子は遅いかも知れないが、そんなに差は無いと思うけどな」


俺はうちのクラスの男子がそこまで他のクラスに劣ってるとは思えなかった。


そんな話をしている俺達の横を後ろから誰かがすり抜けて前の方に行った。


「三宅のやつ、どうしたんだ?」


中橋が怪訝な表情を見せた。


「山岸が走るんじゃないかな?」


「あぁ、そうか」


女子の真ん中あたりの順番で山岸がこれから走るのである。三宅は仲の良い、というか日常的にスカートをめくり、お尻や股や胸を触っている山岸が走るので、少しでも近くから見たいのだろう。


そして、山岸の組が走り出した。


なお、三宅の応援の効果があったわけではなかろうが、山岸は見事にトップでゴールした。


「女子の成績が良すぎるだろ。これじゃ、男子が負け続けたら恥ずかしいぞ」


俺の少し前に並んでいた吉岡大が呆れたように声をあげた。


「逆に考えれば、女子がたくさん得点を稼いでくれるので、男子が得点を取れない分をカバー出来るんじゃないか」


吉岡の前にいた森脇健が言った。


女子の競走も最後の組となり、うちのクラスからは杉山京子が走る事になる。うちのクラスで一番速い京子だが、対戦相手も各クラスで一番速い女子が揃っていた。


対戦メンバーは内側から


6年1組名取貴子…毎年リレーメンバーに選ばれるスポーツ万能女子、生徒会副会長も努める1組の女子のリーダー格


6年2組杉山京子…勉強も運動も学年トップとされる美少女、何をやらせても常にトップ。俺と同じく未来から来ているので、小学生の体だが、中身は21歳


6年3組山下まゆ…小柄なぽっちゃり系、見た目とは逆に足は速いようだが、去年まではクラスで一番速いわけではなかったはず。今年、急にタイムを延ばしたようだ


6年4組飯田聡美…6年生女子最速と思われる長身の美少女。昨年はリレーでアンカーを努め、京子の追撃を振り切ってトップでゴールした


この競走は実質的に京子と飯田の一騎打ち、共にリレーではアンカーを努める事になりそうなだけに、互いに負けたくないところだろう。


京子は子供相手にムキにならなくてもというタイプではなく、負ける事を嫌うタイプなので意地でも勝ちにいくはずである。


リレーの結果にも直結する大事な一戦ゆえ、走る順番を待つ男子児童もお喋りをやめ、固唾を飲んで見守っていた。


「位置について」


号令と共に四人がスタートラインに向かう。


「飯田がんばれー」


4組の男子の声援に飯田が振り向いて笑顔で手をあげて答えた。小学生にしてはかなり背が高く、顔を見れば童顔で小学生とわかるのだが、後ろ姿だけ見れば中学生か高校生に見える。スラリとした長身でスタイルも良い、三宅が同じクラスなら絶対に触っているはずである。


後ろ姿なら京子も負けていない、普段は下ろしている黒髪を今日は走ったりするために後ろで束ねている。しかし、中身が大人のためか感情を表に出さないので、近寄り難いオーラを出しているために男子も嫌ってるわけではないが、怖がってるような面もあり飯田のように声援を受けるわけではない。


「用意」


四人の選手がスタートの構えを作る。選手にとっては最も緊張する時間である。後ろで見守る男子も誰一人お喋りする事なく、選手と同じく息を潜めてスタートが切られるのを待っていた。


パーン。


ピストルの音と共に一斉にスタートを切った。


「あっ!」


「うわ、飯田速えぇ!」


一番外のコースから4組の飯田が飛び出した。京子はスタートが良くなく最初の一歩は遅れ気味だ。


スタートでまず飛び出したのは一番外側の4組の飯田、スタートラインは外側コースが不利にならないよう、わずかに斜めになっていて、外側コースがほんの僅かだが前になる。それもあって、好スタートを決めた飯田はいきなり体一つ前に出た。


内側の名取と京子はやや遅れ気味、3組の山下はスタートはまずまずだったが、外の飯田がスタートを決めたため、飯田が内に寄って来て前をふさがれてしまい後退してしまった。


スタートは遅れ気味の京子だが、スタートしてからの加速は良く、内の名取の前に出た。


徒競走はトラックコースを半周するのでコーナーは二つ、最初のコーナーで前に出られるとそこから抜き返すのは難しい。その最初のコーナーに京子が差し掛かる。外の飯田は体一つ前にいるが、京子の進路をふさぐには至らない。京子とすれば、この二つのコーナーを耐えて直線勝負まで持ち込めれば勝機は出てくるはずである。


最初のコーナーは何とか耐えていた京子だが、二つ目のコーナー出口で飯田が完全に前に出た。最後の直線、京子と飯田は共にペースは落ちなかったため、結局そのままゴールとなった。


勝つためには手段を選ばない京子の性格から、飯田と並んでいたなら体当たりをしてでも勝ちに行ったはずであるが、飯田が常に前にいたのでは打つ手がなかったようだ。


「やっぱ、飯田は速いなぁ」


「杉山が負けるとか珍しいな」


「これじゃ、リレーは男女ともに4組かな」


女子の徒競走を終えて、後ろに控えていた男子児童達が口々に感想を述べているが、すぐに男子の徒競走が始まる。


俺達仲良し四人組で最初に走るのは2組目の競走に出るイケである。男子の最初のレースが終わり、すぐにイケの出番がやって来た。


「イケ、フライングしてもいいから、スタートは早く行けよ」


俺はイケに声援を贈ったのだが、走るのが苦手で徒競走はいつもビリ争いのイケは緊張しているのか俺の声援に応える事はなかった。


イケの走る競走のメンバーは


6年1組藤井修一…かなり大柄。みるからに足が遅い児童で、運動全般が苦手。あだ名はジャイアン


6年2組小池伸二…ガタイが良く力持ちだが足は遅い。スナミナ不足で全力で走るとすぐに息が上がる


6年3組大久保吉弘…それほど足が遅いイメージはないが、タイム測定の時たまたまタイムが遅かったのかここに組み込まれている


6年4組小松秀伸…1年からずっと50m走のタイムはクラスでビリだったが、今年初めてブービーになる



メンバー的に普通に走れば大久保が勝つ可能性が高い。おそらく小松がビリなので、イケは藤井との2位争いになるだろう。


「位置について………………用意」


4人の選手がスタートの姿勢と取る。


ピストルが鳴るより明らかに早くイケが飛び出した。


「早い早い、戻って」


スターターの教師に注意されイケがスタートラインに戻る。本物の陸上競技だとフライング2回で失格となるが、運動会で失格などないのだから、何度フライングしてもいい。


「イケ、それでいいぞ」


俺は再びイケに声を掛けた。イケは俺の声援が聞こえているのか聞こえていないのかわからないが、表情ひとつ変えずスタートラインに戻った。


「位置について………………用意」


イケは今度はスタートのタイミングが合うだろうか、俺はじっと見守っていた。


「あっ!」


再びイケがフライングしてしまった。再び緊張がゆるみ後ろで見守っていた児童達からため息がもれた。


「ちゃんと、ピストルが鳴ってからスタートしなさい」


スターターの教師がイケに注意をするが、イケは教師の声を無視するかのように教師の顔を見る事もなくスタートラインに戻った。


(それでいい、先生の言う事なんか無視すればいいんだから)


イケが二度フライングした事により、対戦相手が集中力を切らしてスタートに失敗するのが期待出来そうだ。欲を言えば、スタートと同時に外に斜行して、メンバー中最強と思われる大久保に体当たりしてスピードを殺したい所だが、イケがそこまで考えてはいないだろう。


「位置について」


三度目とあって、イケ以外は少しダラダラした様子でスタートラインに並んだ。


「用意」


『パーン!』


「うわっ!」


俺は思わず声を出してしまった。


四人がスタートの体勢を取るやいなや、スターターはすぐにピストルを鳴らしたのである。おそらく、これ以上フライングさせないために、誰かが飛び出す前にピストルを鳴らす事にしたのだろう。


これは四人とも想定外だったようで、全員スタートが良くない。


中でもスタートのタイミングを見計らっていたイケが出遅れていた。


全員遅れ気味のスタートだが、スタートしてからは予想通り3組の大久保の加速が一枚上手で、あっという間に先頭に立った。コーナー入口では早くも独走体勢となり、他の3人より1m以上前に出た。元々のタイムが他より良いのだから、コケない限りはこのまま先頭でゴールするはずだ。


2番手には藤井、イケはというと藤井にわずかに遅れて小松と並んでコーナーに入って行った。コーナー出口までに藤井に並べればイケにも2位のチャンスはありそうだが、イケが外を回るだけに不利に見える。


大久保はコーナーでも他の3人を更に引き離し直線に入る。これは楽勝だ。


コーナーでは内側一杯を回る藤井がコーナーワークでイケを振り切りコーナーを回りきる。イケも懸命に食らい付くが藤井の方がスピードに乗っているようで、追い付くようには見えない。小松はイケから更に遅れてビリ確定に見える。


直線でも大久保は余裕の独走。最後は右手を高々と挙げてゴールを決めた。


2位は藤井がイケを更に引き離してゴール。イケは直線でスピードが落ちて小松に迫られ、あわやビリかという状態だったがどうにた3位だった。


「イケは3位か……男子はなかなか上位にならんなぁ」


前方からジュンが俺の方を振り向いて言った。


「お前はメンバー的に勝ってもおかしくないんだから頑張れよ。他のクラスの女子も応援しているぞ」


俺はジュンに言った。ジュンは小学生にしてはイケメンで、コミュ力抜群で敵を作らず誰とでも仲良くなれるのだから、勉強か運動、どちらかが出来るなら学年一のモテ男になれるのだが、残念ながら勉強も運動もクラスでビリに近い。


そのジュンが走る番が近付いて来た。ジュンの前に走る堀武彦がビリだったのをはじめ、6年2組の男子は全員3位かビリである。


そして、いよいよジュンの出番となった。


「ジュン頑張れよ」


「ビリにはなるな」


「頼むぞ」


後ろで待っている2組の児童から声援が飛ぶ。しかし、声援を受ける側からすれば後ろは自分より速い児童なのだから、速いやつが上から目線の声援に思えて、バカにされているように思えるらしい。


「ジュン、勝てそうなメンバーだから、最後までしっかり走れよ」


俺も声援を贈るのだが、確かに上から目線である。声援を贈りながらも、心の中ではジュンは根性なしだから、おそらく最後はへこたれて負けるんだろうなと思っていた。


ジュンと一緒に走るメンバーは


6年1組川尻健二郎…1、2年の時は同じクラスだったが、足はかなり遅かったはず。学年が上がるにつれ、少しずつ足が速くなったのだろうか


6年2組山口淳平…クラス一番の人気者だが、スポーツ全般が苦手。女子にも人気があるが本人は誰が好きなのか誰にも言わない


6年3組内村誠二…3組では一番小柄、運動はあまり得意ではないが、算数の成績はクラスで一番。生まれつき目が悪いらしく、入学時より眼鏡をかけている


6年4組安藤博…5年生の二学期に関西から転校して来た。スポーツ、運動ともに出来るわけでも出来ないわけでもない。関西育ちだが両親が東京の人間のためか、言葉に訛りはない


これは誰が勝つのか予想が難しい。4組の安藤の実力が不明だが、4組はクラス全体的にタイムが速いので、安藤もそれなりに速いだろう。川尻や内村はジュンと大して変わらないはず。ジュンも頑張り次第では上位もありそうなメンバーである。


ジュンと他の対戦メンバーがスタートラインに立つ。


「位置について……用意」


ジュンはスタートを決める事が出来るだろうか。四人がスタートの構えに入るとすぐにピストルが鳴った。イケがフライングを連発したためか、スタートを切るタイミングが早くなっている。位置について、用意の後に間髪を入れずピストルを鳴らすようになっていた。


四人が一斉にスタートした。四人とも横一線の揃ったスタートとなった。ここからの加速が勝敗を分ける。


コーナーに向かう直線、外側の選手はここで内側の選手の前に出て、内側に進路を取りたい。やはり4組の安藤が加速しながら他の3人よりわずかに前に出た。


しかし、安藤のすぐ内側の内村も懸命に粘り安藤を完全に前には出さない。


ジュンは内村よりわずかに遅れているが、内村が安藤と外で競り合っているため、コーナーまでに前に出られる事なく先にコーナーを曲がれそうだ。ジュンの内側で最内を走る川尻もジュンとほぼ同体。


この体勢だと、コーナーでは外側が余分に距離を走るため不利になる。正味の速さは安藤が一番上なのだが、最アウトを走るだけにコーナーまでにせめて内村を抜いて内側に入っておかなければ苦しい。


「これはジュンにもチャンスあるぞ」


「よっしゃ、行けるぞ」


「勝て」


ジュンにも勝つ可能性のある展開になったため、惨敗続きで意気消沈していた2組の男子児童は俄然盛り上がってきた。


コーナーでも四人の体勢は変わらず、むしろ、最内でコーナーを回る川尻がコーナー出口ではやや前に出ていた。ジュンもほんのわずかに遅れているが、直線で充分に逆転出来る位置で直線に入った。


ジュンのすぐ外の内村はコーナーで少しずつ遅れ、一番速い安藤がコーナーを曲がりきる前にコースを内に取り内村の前に出た。これで内村は脱落。


最後の直線で川尻が逃げ込みたいところだがスピードが乗らず、すぐ外側からジュンが追い付いて来た。


ジュンはジワジワと川尻に追い付き、追い越したところがゴール前だった。


ジュンがゴール寸前で川尻を交わし、先頭でゴールに駆け込もうとしたところに、安藤が一気に加速してジュンに並びかけて、交わしたかどうかという所がゴールだった。


「どっちだ?」


「ほとんど同時だ」


「どっちかわからん」


俺の回りにいる児童が口々に言う。


「安藤が勝ったに決まっとろうが」


4組の児童がこちらに怒鳴って来た。


「ジュンが勝っとったわ。お前メクラか?」


言われた2組からはスターが21世紀では差別用語として、使用禁止になっている汚い言葉で怒鳴り返している。


俺もゴールの瞬間は見ていたのだが、何しろ離れた場所なので、どちらが勝ったかまでは判別出来なかった。判定はゴール位置で監視していた教師に委ねられる。


その教師は安藤を1位の児童が並ぶ列に促した。


安藤が1位でゴールした児童が並んでいる列に並んだのを見て、4組の児童からは歓喜の声が上がり、俺達からはため息がもれた。


「ジュン惜しかったなぁ」


吉岡が話し掛けてきた。


「あぁ、ジュンが初めて徒競走で勝ったと思ったんだがなぁ」


口ではそう言ってるが、ジュンにしては2位なら上出来である。


他人にばかり気を回しているが、俺の順番も近付いて来ている。


俺の前に並ぶ児童が次々に走って行く。それにしても、うちのクラスの男子は成績が良くない。ジュンの次に走った佐藤学が1位になった以外は全員3位か4位である。これでは、女子が稼いだポイントをチャラしてしまったと言っていいだろう。


そうこうするうちに、いよいよ俺の番がやってきた。こんなオッサンになって、かけっこなどする事になるとは思ってもいなかったが、今は小学生だし、俺の性格上やる以上は勝ちたいのである。当然、ここも全力で頑張るつもりだった。


「位置について」


スターターの言葉に俺と左右に並んで座っていた児童、合計四人が立ち上がりスタートラインに向かって歩いて行く。俺と走る対戦メンバーは


6年1組渡辺虎鉄…名前は『こてつ』と読む。1年から4年までずっと同じクラスだったが、足の速い印象はなく、むしろ鈍臭い印象がある。


6年2組田村英樹…去年はリレーメンバーだったが、今年はタイム測定で記録が伸びなかった。中身は42歳のオッサン


6年3組永井勇一…どちらかといえばデブに分類されるタイプ。足が速い印象はなく、むしろここに出るほど測定では良いタイムを出したのか意外


6年4組東出勝…野球やサッカーなど球技は得意らしいが、足はあまり速くない。ちなみにフジダイの家の向かいに住んでいる


さすがに、このメンバーだと俺は負けられないところである。俺より速いやつがいる印象はなく、コケない限りは勝てそうた。


「用意」


四人同時にスタートの構えに移る。スターターはピストルをすぐに鳴らすので、早めにスタートを切った方がいい。


(1…2…)


俺は用意の号令でスタートの構えをしてから、数を数えていた。俺より前に走る連中のスタートタイミングを計っていた。


スターターは用意の号令から、スタートの構えをしてから、三つ数えたあたりでピストルを鳴らす傾向があった。


俺は心の中で三つ数えてからピストルの音を聞くまでもなく走り出した。


パーン


俺が走ろうとした瞬間にピストルが鳴った。スタートタイミングはピッタリだった。フライングはない。


コーナーに向かう直線、俺は全力で突っ走った。俺の両隣、1組の渡辺、3組の永井は共にスタートの瞬間に置き去りにしたため、横目には姿を見る事は出来ない。4組の東出も横目に見えないのだから、やはり後方に置かれているに違いない。


コーナー入口、本来ならここでコースを内に寄せて、内側を走るやつを征するところだが、コーナーで最内に入りコーナーを小回りするよりは、少し内を空けて回った方がスピードを落とさなくて済む。それに、内側の渡辺がここから追い付くとは思えない。そこで、俺はあえて内に寄らずそのまま内側を一人分空けたままコーナーを曲がって行った。


コーナーをスピードを落とさず回り直線に入った。このタイミングで外側を確認してみた。首を横に曲げて見たが、永井も東出も見えない。どうやら、後続を引き離し独走のようである。


俺はまっしぐらにゴールを目指し全力で走った。そして、そのままゴールに飛び込んだ。


俺は1位の児童が並ぶ列に加わった。2組の男子で最初の1位とあって、先に走った2組な女子達が立ち上がって俺に拍手をしてくれていた。しかし、2位だった京子は立ち上がる事も拍手をする事もなく、無表情のまま俺を見つめていた。


俺の視線が京子の視線と交錯した。俺は少し誇らしげにニヤリとしてみせた。それを見た京子は肩を竦めてからフッと笑顔を見せた。


42歳の俺だと全力疾走した後など、息は上がり倒れ込んでいただろうが、今は息こそ少し上がっているものの、足腰がガクガクになる事もなくピンピンしている。俺は改めて子供の体の丈夫さに舌を巻いた。


対戦メンバーに恵まれたとはいえ、1位というのはやはり嬉しい。俺はウキウキした気分で地面に座り込んだ。


俺の1位に元気付けられたわけではなかろうが、俺の後に走る連中は1位か2位に入り、序盤の低迷が嘘のように好調になった。


リレーメンバーが走る番になり、いよいよフジダイの出番となった。


リレーメンバーの競走だけに、先に走った児童も注目しており、皆が熱い声援を贈り大いに盛り上がっていた。


フジダイが走る競走のメンバーは


6年1組谷村和也…学校のサッカークラブに所属するスポーツマン。リレーメンバーの常連で女子にも人気がある


6年2組藤井大介…小柄ながらすばしっこい。低学年時はそんなに足が速くなかったが、3年生以降リレーメンバーに選ばれるようになった。短距離だけでなくマラソン大会でも常に上位


6年3組森島徹…去年は3組のトップタイムだった。背が高く長い足を生かしたストライド走法


6年4組小見山好展…去年初めてリレーメンバーに名を連ねたが、今年は更にタイムをアップさせクラス2番手まで進出


フジダイにとっては厳しいメンバー構成、森島と小見山はフジダイより明らかにタイムが上で、フジダイとしては両者の一角を崩せるかが目標となる。


遠くから見ている俺には細かい事はわからないが、フジダイ達四人がスタートラインについている。


そして、ピストルが鳴りスタートが切られた。


スタートはややバラけており、フジダイと森島がやや遅れ、小見山が好スタートを切った。


こうなると、小見山は森島のコースに切れ込んで来て更にフジダイのコースにまで寄せて来た。


小見山は加速良くコーナーに入り、内の谷村も交わし先頭に立っていた。


フジダイは小見山と谷村に遅れ森島との3位争いだが、タイムで勝る森島がコーナーで外からフジダイを捲って単独3位に浮上した。


コーナーを出て直線に入ると小見山は谷村を完全に置き去りにして、独走となりゴールした。


森島が直線で猛烈な追い上げで谷村をゴール前で逆転して2位、フジダイは一人遅れてのビリに終わった。


「あぁ、スタート失敗した」


フジダイが俺の方に来て地団駄踏みながら悔しがった。


「他のクラスのリレーメンバー、みんな速いな」


「うちは三宅とかメンバーに入ってるし、絶対ビリだろ」


「4組のやつら、タイムが4番目のやつでもうちならトップじゃないか?」


「1組が思ってたより、みんな速いんだよな」


徒競走を終えて俺達は口々に感想を述べるのだが、女子はともかく、男子に関しては成績が低迷した事もあり、リレーに向けて悲観的な予想が立てられていた。


とはいえ、俺自身は1位だったので、個人的には気分が良い。競技を終えて思い思いに解散していく児童のなか、少しだけ誇らしげな気分で退場していた。


競技を終えた児童はテントに戻り観戦するか、どこかで集まりお喋りするかのどちらかなのだが、京子が一人で校舎に入って行くのが見えた。


(トイレかな?)


俺は京子が昼休憩に俺の姉と会話をしていたので、その時の事を訊いてみようと思い、京子が消えた校舎の入口へと歩を進めた。

次回は運動会の最終話となります。

お楽しみに

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