運動会① 二人三脚
ご覧いただきありがとうございます。
今回は運動会の話ですが、運動会は一大イベントゆえ、何回かに分けて掲載します。
1986年5月25日日曜日午前8時すぎ、広島県福山市にある市立第二小学校には、快晴の空の下、体操服姿の児童が続々と登校していた。
日曜日なのに、なぜ児童が登校しているのかというと運動会当日だからである。
今日は俺も例に漏れず体操服姿で登校した。わざわざ学校で着替える手間を省くためであるが、シャツに短パンである男子はまだよいが、ブルマで登校しなければならない女子はこの上ない恥辱を感じていたに違いない。
特に高学年になればなるほど、ブルマを買い替えてなければブルマが窮屈になり、お尻に食い込んだりしている。痴漢の常習犯の三宅に言わせれば、お尻に食い込んだブルマを直そうと、布地の内側に手を入れて引っ張っているのを見るのがたまらないらしい。
運動の得意苦手にかかわらず児童が一様に楽しそうなのは、運動会が好きだからではなく授業がない上に、翌日が代休で休みだからである。
児童は登校すると教室には入らず、校庭のトラックコースを取り囲むように設置されたテントの中で、それぞれのクラスに割り当てられたテントの下に座って待機していた。
テントは児童用の他にも保護者用のがあり、それらは子供会別に分けられていた。それらのテントにはまだ応援の保護者の姿は見えないが、じきに続々とやって来るだろう。ちなみに、うちは父は東京に単身赴任中で来られないが、母と姉が来る予定である。
母はともかく、姉がわざわざ来るのは別に俺を応援したいからではなく、昼ごはんを作る母が弁当を持って学校に行くので、昼ごはんを食べたければ自分も学校に行く必要があったからである。
姉も昼ごはんくらい自分で作ればいいのだが、姉は家事全般が苦手であり、この十数年後、結婚し子供が出来てからも変わっていなかった。
俺としては、母が来るのはともかく、姉が来るのは京子と一緒に競技に出場するところを見られてしまうので、姉が俺をからかう材料を与えてしまうようで、出来れば来てほしくないところである。
俺達6年2組の児童は割り当てられたテントの下に固まって座っていたが、8時半になると担任の板垣茂先生がやって来て出席を取り始めた。
「マナブはやっぱり来れんかったか」
誰かがポツリと言っていた。マナブとは佐藤学の事であり、金曜日から熱を出して休んでいた。
板垣先生が出席を取り終えた。
「マナブもせっかくの運動会なのについてないな」
俺の後ろの方で誰かが言った。
佐藤以外は全員揃っていたのだが、普段の授業の日は休んでいる児童は羨ましがられるものだが、このような行事の日だと気の毒に思われるのだから、子供というのは単純である。
そうなると問題なのは、二人一組で参加する競技をどうするかである。
佐藤は井上飛鳥という女子児童とペアを組む事になっていた。
「はい、みんな静かに」
児童を前に板垣先生が声を上げた。その声にクラス全員お喋りをやめて板垣先生に注目した。
「佐藤君が休みなので、ペアの井上さんがペアを組む相手がいません。二人三脚は男子の誰かが二回出場してもらいたいのですが、誰か立候補……」
「はい!」
板垣先生の言葉が終わる前に誰かが立候補の名乗りを上げた。
その瞬間、クラス全員その声の方を見るまでもなく、誰が立候補したか想像出来た。
「三宅君、立候補するのかい?」
「はい、立候補します」
立候補したのは言うまでもなくスケベ男の三宅だった。三宅からしてみれば、二回も女子と密着して肩を組み合うのだから、立候補したいところであろう。
三宅は山岸徳子と仲が良くペアを運動会でも組んでいた。俺は山岸の姿を探した。そして、座っているクラスメイトの一番後ろの方にその姿を認めた。
山岸はスケベではあるが、なぜか想いを寄せる三宅が他の女子を触りたいと立候補したようなものであるから、当然ながら面白くなさそうな表情である。隣に座る京子が苦笑いしながら山岸を見つめていた。
「井上さん、三宅君とペアでいいですか?」
板垣先生が井上に尋ねた。
「は、はい」
井上としては、内心は三宅に触られるのは嫌であるが、表立って嫌がる事も出来ず、渋々承諾したのであろう。
二人三脚のペアは決まったが、ペア体操はどうするのか?
ペア体操は男子が二回やる事は出来ないので、どうするかが問題となったが、板垣先生が他のクラスの担任に相談したところ、3組の男子がやはりペアがいない事がわかり、井上はペア体操の時だけは3組に加わる事で解決となった。
「児童の皆さんはトラック内に整列して下さい」
校庭にアナウンスが流れ、テントに待機していた児童が校庭に整列した。
児童の整列が終わると、校長先生から型通りの挨拶があって、それから全員でラジオ体操をして解散し、児童は再びテントに戻って行った。
いよいよ競技開始である。最初は一年生の徒競走だ。一年生はクラスは三つ、それぞれのクラスから2人ずつ出場し6人で競走する。
どの児童も紅白どちらかの帽子を被っている。五年生と六年生は四クラスあるので、1組と2組が赤で3組と4組が白となっているが、四年生以下は三クラスしかないので、1組が赤で3組が白、2組は赤と白に分かれている。
どの競技にも着順により点数があり、全競技の合計点を紅白両チームが競う。俺達の6年2組は赤チームなので、他学年の競技も赤チームを応援していた。
保護者用のテントにも続々と保護者の数が増えてきていた。21世紀の運動会では動画を撮ろうとする保護者が多いが、1986年当時は、ビデオカメラは高額だったため庶民には普及しておらず、カメラで写真を撮るのが一般的だった。
徒競走、玉入れ、大玉転がし、障害物競走、綱引き等の運動会の定番競技が続々と行われる中、俺達六年生の最初の出番である二人三脚の順番がやって来た。
二人三脚は1組から4組までがそれぞれ1ペアずつの4ペアで競走する。どのペアが何番目に走るかは決まっておらず、紐が結べたペアから順番に並ぶ。
ただ、うちのクラスの場合、三宅が二回走るので、三宅は一番最初に山岸徳子とのペアで走り、ゴールした後に一番ラストで井上飛鳥と一緒に走る事になった。
準備の出来たペアからスタート地点の後ろに並ぶのだが、俺と京子も俺の左足と京子の右足を固く結んで6年2組の列に並んだ。俺達は前から4番目だった。
「ただいまより、六年生によります二人三脚を開始します」
放送部員による場内アナウンスが流れ、いよいよ競技開始である。
俺達6年2組のトップバッターは三宅・山岸ペアである。山岸が既ににやけ顔の三宅を引っ張るように、結ばれた足をぎこちなく動かしながら、スタートラインに向かいひょこひょこと歩いて行く。
「徳ちゃん頑張れ〜」
俺の隣にいる京子が山岸に声援を送る。山岸は後ろを振り返り笑顔で京子に向かって軽く手を上げて応えた。
「三宅、わざとゆっくり走るなよ」
後ろの方から三宅にヤジが飛んだ。三宅の事だから、少しでも長い時間女子に触れていたいから、わざとゆっくり走る可能性があるので、それを戒めるヤジである。
「位置に着いて」
スターター係の教師の指示で各ペアはスタートラインに並ぶ。
「用意」
ここでスターターはピストルを空に向けて掲げ、各ペアはスタートの姿勢に移る。この用意の合図からスタートするまでの時間が一番緊張する。走る当人達だけでなく、待機する児童も固唾を飲んで見守っていた。
ぱーん!
火薬の爆発する軽い音と共に各ペアはスタートして走り出した…………はずだったが、俺達2組の三宅・山岸ベアと隣の3組のペアが最初の一歩目でいきなりコケている。一方、1組と4組のペアは息もピッタリで、どんどん先行して先頭争いをしていた。
3組のペアはすぐに立ち上がり、態勢を立て直して走り出したのだが、2組のペアはというと、三宅が地面に這いつくばったまま、何やらバタバタともがいている。どうやら、三宅はコケた際に脱げた帽子を拾おうとしているようだ。
その姿に後ろで待機する俺達は大笑いしていたが、三宅とペアを組む山岸は三宅のせいで笑われてしまい怒り心頭のようである。
「何やってるの、ボケ! 帽子なんかいいから、さっさと立ちなさい!」
山岸は三宅を一喝してから三宅の髪の毛をわしづかみにして引っ張り、「痛い、痛い」と叫ぶ三宅を無理矢理立たせた。そんな様子に俺達はまた大笑いした。
結局、山岸と三宅はスタートの失敗が致命的で、そのままビリでゴールした。
「どうする? 本気で勝ちに行く?」
隣に座る京子が俺に話し掛けてきた。
「出来れば勝ちたいけどな」
俺としては負けるよりは勝ちたいところである。
「まぁ、とりあえず、転ばないようにペースを合わせる事に集中しましょう。それで負けたらしかたないわね」
「だな」
焦ってコケるよりは、しっかり走りきる事を優先するのは間違いではないだろう。
二番目のペアによるレースが始まった。2組は船場哲之助と間田育美という学級委員同士のペアだ。四月の始業式早々に行われた学級委員選挙で、それぞれ推薦を受けて、他に立候補も推薦もなく無投票で選ばれていた。もっとも、学級委員は学期ごとに改選され、同じ人は選ばれない決まりなので、二学期には別の学級委員が選ばれる事になる。
間田は運動神経は悪くないが、船場はかなりの運動オンチである。間田がせっかちすぎるのか、船場がグズグズしすぎているのか、走り方がぎこちない。転倒こそしなかったが、最初のレースに続いて2組はビリになってしまった。
「船場のヤロー鈍臭いな」
「また、うちのクラスがビリかよ」
他の男子児童から我がクラスの不甲斐なさに不満の声が聞こえだした。
「あっ、田村君。一緒に走るんだね」
俺の隣にいる京子の更に向こう側から誰かが話しかけてきた。
「あぁ、糸数さんか」
遠足の時に俺にアプローチして来た糸数玲奈という女子児童だった。
「あぁ、杉山さん。やっぱり杉山さんと田村君のペアはお似合いだわ」
玲奈は屈託のない笑顔で京子に言った。
「糸数さんこそ、カッコいい男子とペアじゃないの。谷村君って言うのよね?」
「谷村君はリレーにも出るし足速いよ。でも、私は田村君と一緒に走りたいわよ。杉山さんがうらやましいわ」
玲奈にとっては悪気のない、無邪気な発言なのであるが、京子にはこれが「私はまだ田村君を諦めてないわよ」と聞こえてしまうのだから、大人になるという事は純粋な心を失わせるという事なのだろう。
「まぁ、二人三脚はあなた達には勝てないでしょうけど」
京子は顔では平静を保っているが、内心はかなりイラッとしていたはずである。
「前言撤回。1組にだけは勝つわよ」
京子が俺の方を向いて小声で言った。
「やる気になったみたいだな」
俺はニヤニヤしながら言った。
「挑発されて引っ込んでるわけにはいかないでしょ」
「挑発なんてされてないよ。糸数さんは本当に羨ましがってただけなんだから」
どうやら、京子は立ちはだかる者は全て叩き潰すというタイプのようである。
いつの間にか、前のレースが終わり俺達の番になっていた。
「おーいヒデ、俺達3回続けてビリなんだから、お前らはしっかり頼むぞ」
走る順番待ちをしていた児童の中から誰かが言った。俺は声の主を確認した。
「おう、ビリにはならんようにしとかにゃあいけんの」
俺は振り返って言った。
「絶対勝てよ、頑張れ!」
声の主はスターこと渡裕次郎だった。
「位置について」
俺達も含む四組のペアがスタートラインに向かって行く。ふと、隣の玲奈を見ると、彼女はペアの谷村に寄り添うように肩ではなく腰を抱いて歩いている。谷村も玲奈とペアなのが嬉しいのか玲奈を見つめながら微笑んで、玲奈も谷村に微笑み返していた。
「あの二人、いい雰囲気じゃない。だったら、人の男に色目使うなよクソアマ」
「言葉が汚くなってるぜ」
京子が吐き捨てるように言ったのを俺がたしなめた。
俺達はスタートラインについた。このレースに出場するのは内側から
6年1組…谷村和也、糸数玲奈
6年2組…田村英樹、杉山京子
6年3組…松井哲男、藤野優子
6年4組…坂本正、西川みのり
京子もそうだが、1組は谷村、3組は男女両方、4組の西川がリレーメンバーというハイレベルなメンバー構成である。
「スタートで前に出たら、すぐにインを絞って1組の進路をふさぐわよ。コーナーでは抜かれそうになったら、少しアウトにふくれながら外を牽制しましょう」
スタートラインに立ってから、京子が俺にささやいた。
(とにかく、前に出て後ろを邪魔しながら逃げ切るって事だな)
俺は心の中でため息を吐きながら京子の作戦を理解はしたが、競輪じゃあるまいし、コーナーで外を張って行けなんて作戦を運動会で実行させようとする京子に俺はタジタジだった。
「用意」
俺と京子は結ばれた足を前に、結ばれていない足を後ろにしてスタートに備えた。
二人三脚でスタートの姿勢の時、結ばれた足を前にするか、後ろにするかあまり重要視されないが、俺は結ばれた足わ前にする方がいいと思っている。最初の一歩を踏み出すのは結ばれていない足の方がスムーズに出せるからである。
スターターがピストルを上に向けて構えた。いよいよ、スタートかという時に俺と京子は走り出した。
パーンという乾いた音が校庭に響き渡った。そして、もう一度乾いた音。
「フライング! 戻って戻って!」
これは俺と京子の作戦だった。わざと一回フライングして他のペアの集中力を切らす。事実、俺達につられて走り出した他のペアは突然停止を命ぜられ、スタートラインに戻されたのだが、戻る際にコケるペアもあった。
小学生の集中力など、簡単に途切れてしまうものである。二回目のスタートは全体的にゆっくりしたものになるはずだ。
スタートしてから、またスタートラインに戻る想定をしていなかった他のペアが、バタバタしながらスタートラインに戻るのを尻目に俺と京子は平然と足並みを揃え歩いている。
「位置について」
再び四組のペアがスタートラインに並んだ。
「用意」
今度はちゃんとスタートするつもりなので、俺と京子も集中した。
ピストルが鳴った瞬間、俺と京子は最初の一歩を結ばれていない方の足で踏み出した。二人の体が密着したままグイッと前に出る。
スタートして直線を進むのだが、京子の作戦では玲奈を勝たせないために内側に斜行して進路を妨害する事になっていた。
しかし、1組のペアはスタートのタイミングが合わなかったのか、最初の一歩からもたついていて、俺達はすぐに置き去りにしてしまった。むしろ、スタートから俺達のすぐ右斜め後方に付いてきた3組のペアの方が問題である。
「真っ直ぐ……真っ直ぐ走れ!」
走りながら喋るのはしんどいが、すぐに内側にコースを取るより外側を牽制した方がいいと思い、俺は京子に真っ直ぐ走るように言った。
「わかった……外に注意して」
京子はさすがに頭の回転が速い、俺の意図をすぐに察したようである。
俺と京子は3組のペアにわずかなリードを保ったままコーナーを迎えた。出遅れた1組は気配を感じない。また、4組のペアも横を見る限り姿を確認する事は出来なかった。つまり、相手はしつこく食らい付いて来る3組のみと考えていいだろう。
いよいよコーナーのカーブに差し掛かった。普通は少しでも走る距離を短くするために、ラインぎりぎりを走るのだが、俺達は外から追い上げて来た3組のペアを牽制するために、あえてインにへばりつかず、内側を1mくらい空けてコーナーを曲がって行った。
コーナーのカーブでも俺と京子の息はピッタリで、足並みは乱れる事はなかったが、3組のペアはどちらもリレーメンバーだけあってさすがに速い。カーブしながらもじわじわと並びかけて来た。
京子が走りながら俺の体を外側に向かって押して来た。外に斜行して邪魔をしろという事だろう。
(そこまでして勝たなくても……)
俺は勝ちたいのはやまやまだが、無茶してまで勝つ必要はないと思っていたので無視していたが、京子は納得しないのか更に押して来た。
「捲りが来た……弾いて!」
「これは競輪じゃないぞ」
「うるさい、行け!」
京子に思いきり押され、コーナー出口あたりで俺達の進路が少し外にふくらんだ。
今まさに追い抜こうとしていた3組のペアは、俺達が進路をふさいだために一瞬ペースが乱れた。
直線に入り、逃げ切ろうとペースを最大限に上げてひた走る俺達だが、3組のペアも態勢を立て直して再び追い上げて来た。
しかし、俺と京子もペースを落とさず並ばせない。最後は息切れしそうになりながらめ、ゴールテープまでどうにか逃げ込んだ。
ゴールすると俺は息が上がってしまい、京子と足が結ばれたままだがへたり込んでしまった。へたり込んだまま、俺は京子の足と結ばれていた紐をほどいた。
隣には2着だった3組のペアが肩で息をしながら女子が紐をほどいていた。
3着は4組のペアで、玲奈達は最下位だった。
玲奈と谷村はゴールした直後に足並みを乱し、ヘッドスライディングのごとく地面にうつ伏せに倒れ込んでしまった。
転倒した玲奈をいち早く起き上がった谷村が手を貸して起こしてやり、まだ互いの足を結んだらまま、退場門へと二人寄り添って歩いて行く。
「いい雰囲気になっちゃって、あのクソアマ、あの男を彼氏にすればいいじゃない。よりによって、私の男に手を付けようとするなっつーの」
「あのー、杉山さんの本性が見えちゃってますよ」
京子は退場門に歩きながら、玲奈と谷村を見ながら悪態を吐いた。俺は周囲のクールビューティーなイメージとは正反対な京子の本性を垣間見て身震いしてしまった。
走り終えた者はテントに戻り、これから走る者を応援する。
俺の二つ後の組で走ったフジダイ事藤井大介は野田しのぶという女子とのペアだったが、スタート直後に盛大にコケてしまい、最後に追い上げたものの3着どまりだった。
ジュンこと山口淳平は海藤聖子とのペアだった。スタートからゴールまでコケる事なく走り抜き、コーナー出口ではトップもうかがえる位置にいたものの、直線で伸びず後続に抜かれこちらも3着だった。
イケこと小池伸二は平井清美のペアだったが、どちらも足の速くないうえに、スタート直後とコーナー入口でコケてしまったため、最初から最後までビリのままだった。
「結局、俺達の中ではヒデだけが1着か」
競技を終えて、俺達仲良し四人組で並んで座って観戦しながらイケが言った。
「フジダイはちゃんと走れれば勝てたのになぁ」
ジュンがフジダイに言った。
「最初の一歩をどちらにするか決めてなくて、互い違いに走り出しちゃったんだよ」
フジダイが弁解した。
「ジュンは直線でちょっとモタついたのが惜しかったな」
フジダイがジュンに言った。
「でも、ヒデは羨ましいよ。男女ペアで何かする時は必ず杉山がペアになるんだから」
フジダイが心底羨ましそうに言った。
「杉山とだったら、何をやるにしても楽しいだろうなぁ」
イケも羨ましがっていた。
「でも、ヒデは女子に人気が出て来たから、ヒデさえその気になれば杉山以外とでも組めるんだけどな」
事情通のジュンが言うのだからそうなのだろう。
「そんなうまい話、あるわけないだろ」
正直、俺は過去に経験した小学生時代に女子に人気があるとか考えもしなかったので、急に女子に人気が出て来たと言われてもピンと来ないのである。
「次はペア体操だろ? 何時から?」
フジダイが尋ねた。
「11時45分からだぞ」
イケがそばに落ちていたプログラムを拾って、ペア体操の開始時刻調べてフジダイに教えた。
「ちょっとどいて」
三宅が俺達の横を通り抜け、最前列に陣取った。
「今度は何の競技だ?」
俺がイケに訊いた。
「五年生の徒競走だな」
イケが答えた。
「五年生といっても、三宅の目当ては女子なんだろうな」
フジダイが笑いながら言った。
「体育館入れるから、バスケやろうぜ。やりたい人は来いよ」
西豊治が数人の児童と共に体育館に向かった。
「俺らも行く?」
イケが他の仲間に尋ねた。
「めんどくさいから、ここにいようぜ」
ジュンはバスケはやらないつもりらしい。
「そうだな、ここにおった方がええ」
フジダイもバスケはやらないようだ。
「俺もここで休んでいたいな」
俺もわざわざノンビリ出来る時間にバスケなんかやるつもりはない。
「イケ、バスケ行きたいなら行って来いよ」
俺がイケに行った。
「じゃあ、行って来るわ」
イケが体育館に向かって走った。
フジダイとジュンは昨日やってたテレビ番組について話し始めた。俺はその番組を視ていないので、話題には加われない。
俺は女子が固まって座ってる方を見た。
俺のすぐ左側にはクラスの女子全員が固まって座り。ワーワーキャーキャーにぎやかにお喋りしている。
(こっちの方が面白そうだ)
女子とお喋りはしたいが、女子の集団に入って行くわけにもいかないので、女子の会話だけを聞く事にした。
「俺、寝とくから、何かあったら起こしてくれ」
俺はジュンとフジダイに頼んでからシートに寝転がり、女子達の会話に耳を傾けた。
次回も運動会の話の続きです。
お楽しみに




