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決意

ご覧いただき誠にありがとうございます。


更新が飛び飛びになって、なかなかストーリーが進みませんが、これからも頑張って更新するつもりです

1986年4月8日火曜日、今日は入学式だ。


入学式の日は新入生以外は休みになるのだが、例外として6年生は在校生代表として入学式に出席する事になっている。


この日は荷物は何も持たずに朝8時半に体育館に集合との事で、俺は8時過ぎに家を出て学校に向かった。


ジュンはやはり今日も寝坊しているみたいで、途中で会う事もなく俺は学校に着いた。


教室には行かず、上履きに履き替えるとそのまま体育館に向かった。


入学式は9時からの予定であるが、すでに気の早い新入生親子が学校に着いており、校門や校舎の前で記念写真を撮る姿が見受けられた。


9時になると入学式は始まり、先月にさんざんリハーサルをやっていたので、式は滞りなく終わる事が出来た。とはいえ、俺は4月1日に転生して来たので、リハーサルなど出席していないのである。それでも、他人の真似をしながらどうにか乗り切る事が出来た。


入学式が終わると、俺達はそのまま帰ってよいとの事になり、俺はジュンと一緒に帰る事にした。


帰り道にジュンが俺に話しかけて来た。


「ヒデ、お前やっぱり杉山の事好きなんだろ?」


ジュンは冷やかしてるのではなく、普通に言った。


「そう見えるか?」


俺は半分とぼけて言った。


「見えるさ。お前はいつも杉山の方ばかり見てるし」


「そうか……俺はそんなに杉山の方ばかり見てたのか?」


まぁ、確かにジュンの言う通り、俺は杉山京子に心を奪われていたのは事実である。しかし、小学生のジュンに見抜かれるとは、ちょっと俺も露骨過ぎたのかも知れない。


「ヒデ、お前五年生の時と雰囲気変わってるよ」


ジュンが俺に言ったのだが、それはそうだろう。中身は42歳なのだから、本物の小学生みたいには振る舞えないのはしかたない。しかし、こちらの時代に来てまだ10日もたっていないのに、早くも変化に気付かれているようでは前途多難だなと思った。


「俺の雰囲気がどう変わったんだ? 自分じゃわからんから言ってみてくれないか?」


「今のお前の言葉遣いとか、まるで大人みたいな言い方だよ。お前、自分で気付いてないのかよ!」


ジュンはあきれたように言った。


「何か急に大人っぽくなったよ」


ジュンは感心したように言って、自分の言った事にその通りだというようにうなずいた。


「俺は何も変わってないつもりだけどなぁ」


俺はわざととぼけておく事にした。


「お前だけじゃなく、杉山も変わったよなぁ〜」


ジュンはこれからが本題だと言う感じで、家に向かって歩く足を止めて俺の方を向いて言った。


「さぁ、どうだろう……」


変わる前の京子がどんな感じだったのか、31年前の記憶の中にしか京子が存在しない俺にはわかるはずもない。


「ジュン、杉山がどう変わったんだ?」


俺は京子に興味があるのは事実なのだから、どう変化したのか知りたかった。


ジュンは待ってましたとばかりニヤリと笑みを浮かべた。


小学生にしてはなかなかのイケメンだが、勉強もスポーツも苦手で時間にルーズであるが、底抜けに明るく、ポジティブな性格ゆえ、コミュ力のかたまりのような男であるジュンは事情通であり、『勉強以外はジュンに聞け』という風潮が俺達のクラスにはあった。


ジュンは他人にいろんな事を聞かれるのが大好きなのである。


「杉山を見たらわかるだろ? まず、五年生の時と髪型を少し変えてるだろ。伸ばした髪の先の方が、少しクルクルとしてるじゃないか」


「あぁ、そういやそうだな」


俺は京子の姿を想像しながら言った。確かに京子は軽い巻き髪にしていた。


「それから、仕草が大人っぽくなってる気がする。休憩時間に席に座ってる時とか、足を組んで座ってただろ」


ジュンは俺が隣の席にいながら、そんな事も気付かないのかと言わんばかりに説明した。


「それに、顔がスッキリしたというか……何て言えばいいか……そうだ、化粧してるみたいな感じになったし」


一生懸命説明するジュンに、俺は心の中であきれていた。


(ジュン、お前、どんだけ彼女の事を見てるんだよ)


俺はジュンにあきれながらも、思い起こせば確かにその通りだと考えていた。


俺の記憶の中にある京子は、ジュンが言ってた五年生の時の京子だ。最初は記憶違いかとも思っていたが、どうやらそうでもないらしい。


(まぁ、当初より美人に変化したのなら、悪くはないだろう)


俺は深くは考えてなかったが、美人になったのなら悪くはない。


それにしても、ジュンはクラス内の様々な事情に通じていて、こういう時には頼りになる。社会に出でも、コミュ力のある人間はそれだけで世間を渡っていけるのだから、俺から見れば羨ましい限りだ。


俺はどちらかといえば、人間関係も仕事も慎重派である。ジュンのようにはいかないだろう。


「それで、ヒデは杉山の事が好きなのか?」


ジュンが尋ねる。いいかげんに白状しろと言いたげな感じだ。


「そうだな……」


俺はどう答えるのがベストか考えた。こういう面が慎重派だと自分でも思っていた。


「まぁ、杉山には興味はあるなぁ」


俺は『好き』という単語をあえて避けた。


一目惚れしてしまったのは事実だが、それだけで好きと宣言するのは軽率に思えたし、何より俺が京子を好きだという事になると、従来と人間関係が変わってしまうのではないかと考えたからだ。


もっとも、そんな事を考えるなら一目惚れするなと言われそうであるし、確かにその通りなのだが、一目惚れしてしまったのだからしかたない。


「杉山は五年生の時から、お前の事を好きというか、今お前が言った興味があるって感じだと女子の間では言われてたけどな」


「全然知らなかった」


俺は京子が俺に興味があったかなど、31年前の記憶をいくら紐解いてもあり得ないような感じであった。あの頃は女子の間の事など興味を示してなかったのだから、全くわかってないというのが事実なのであるが。


「ヒデも何か大人っぽくなってきたし、杉山とはお似合いかもな」


ジュンはニヤリとしながら言うが、こちらは中身は42歳のオッサンである。小学生とお似合いだと言われても、嬉しいというより苦笑いしなくなる。


ただ、オッサンの俺から見ても、京子は魅力的であるのたから始末が悪い。これが大学生の頃に戻って、同じゼミの女の子に一目惚れしたのならまだいい。大人の男女の付き合いが出来るからだ。


小学生の女子を好きになって、仮に相手も俺の事をまんざらでもないという感じだったとしたら、どう付き合えばよいのだろうか?


せいぜい、一緒に遊んだりするくらいしか思い浮かばない。当然、性的なお付き合いなど小学生同士なのだから論外として、二人でデートとかも小学生らしくないように思える。


結局、小学生同士だと大した事は出来ないという結論になるのだが、それでは俺が満足出来そうにない。しかし、俺が今は小学生である以上、小学生の範疇を超えた行動は慎むべきだろう思える。


これが、31年前の俺なら、京子と放課後に二人で校庭で遊んだり、彼女を俺の家に連れて行き、二人でテレビゲームをしたりするだけで満足出来ていたはずであるし、俺が今は小学生であるのだから、それで満足しておかなければならないだろう。


「ずいぶん、話し込んでたら遅くなった。早く帰らないといけないな」


ジュンが突然我に返り歩き始めた。俺も一緒に歩いたのだが、すぐに互いに別々の方向に向かう交差点に至り、そこでジュンと別れ俺は自宅に向かった。


家に帰って、母が用意していた菓子パンを昼ごはんとして食べた後、俺は自分の部屋に戻りようやく一息つく事が出来た。


始業式、入学式はどうにか無事に終わったが、明日からは授業が始まる。小学生の授業など大人にとっては退屈に違いない。それが一年間続くのである。考えただけで疲れてしまった。


(杉山京子に一目惚れしたおかげで、退屈はしないかもな)


そう考えると、京子に一目惚れしてしまったのは悪くないのではないかと考えてしまう。


当初は実際に俺が体験した小学六年生の一年間を、忠実に再現しなければならないと考えていたのに、今ではえらい変わりようではないか。


しかし、最後に帳尻を合わせれば何とかなるのではと考えていた。


(何かの漫画で、東京大阪理論ってのがあったけど、あの理論が正しいなら、大まかな方向性が正しいなら大丈夫なはずだ)


東京大阪理論というのは、人生を東京から大阪への移動に例え、新幹線だろうが飛行機だろうが、方向さえ正しければ大阪に着くという理論である。


何とも都合の良い理論だが、あながち、的外れな理論ではないだろうと俺は考えている。


それに、何が未来を変える要因になるのか見当もつかないし、42歳の俺が浦島太郎状態の1986年の世界で、かつて体験した小学生生活を正確に再現するなど不可能に思える。


ならば、自分の行動一つ一つに未来への影響などを考えすぎるよりも、その時その時、自分がベストだと思う行動を取るのが一番だと思えたのである。



つまり、俺はこの時代で自然体の生活し、未来に影響が出そうな事態になってから修正すれば良いというのが結論となった。京子に一目惚れしたからといって、即未来が変わるというわけでもないだろう。また、未来への影響を考えて自重したとして、それが別のところに影響して未来が変わる可能性もある。


これでは、考え始めたらキリがないのである。


この時代で生活するにあたり、基本的な方針がようやく決まり気分が軽くなった俺はテレビを点けた。


平日の昼間だから、テレビにはドラマの再放送らしき番組が映っている。あまり面白くなさそうなので、チャンネルをひねり他局がどんな番組を放送しているか見ようとした。


当時のテレビは本体のつまみを回してチャンネルを変えるのが主流だ。リモコンは一部の高価な機種にだけ付いていた時代である。


チャンネルを回しいくつかの局を見るうちに、ワイドショーらしい番組が写し出された。


有名な芸能リポーターがマイクを片手にただならぬ雰囲気でカメラに向かって話していた。


「この事務所ビルの屋上から飛び降りたとの事です」


「確認は取れていませんが、飛び降りたのは人気アイドルの……」


ワイドショーでは、先程、18歳の人気女性アイドルが所属する芸能事務所の建物の屋上から飛び降り自殺を図ったと言っている。


この女性アイドルの名前は芸能人に興味の無かった俺も知っていたくらいの有名人で、飛び降り自殺を図り死亡した事も知っていた。ただ、それが今日、つまり1986年4月8日だったというのは知らなかったし、31年も前の事だから忘れていた。


俺の記憶では、この女性アイドルの自殺にショックを受けた若者が何人も後追い自殺をして社会問題になったはずだ。


しばらくはテレビではこの話題で持ちきりになるだろう、俺はテレビを切って漫画でも読む事にした。


(自殺か……)


自殺と聞くと杉山京子の事を思い出す。京子は1986年8月に東京で自殺している。この世界に生きる京子も同じなのだろうか?


未来が変わらないようにするためには、たとえ京子が自殺するとわかっていても防いではいけないのかもしれない。しかし、それで良いのだろうかは俺にもわからない。


(京子が自殺しなかったとしたら、未来は変わるのだろうか?)


杉山京子という人間が俺の未来にどれだけ影響を与えるのかわからない。


京子の自殺を防いだうえで未来が変わらないようにすればいい。


その方法を探すのが、今の俺に与えられた課題となるであろう。


京子が自殺しないようにするのが俺は正しいと思う。俺は自分が正しいと思う事をする。そのうえで対策を考えよう。


俺は決意を新たにして明日からの授業に備えた。


いよいよ、明日から本格的な学校生活のスタートである。

次回は小学校の授業についての話です。お楽しみに

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