能力
サクッと読めるぐらいの長さを毎話心がけます。(語彙力足りないだけ)
「り、理仁様!」
吹っ飛ばされた男が直ぐに起き上がり黒髪の少年こと黒橋理仁の足元に駆け寄り跪く。まさに犬のような忠誠心だ。先程吹き飛ばされたのをこれっぽちも気にしていないようだ。
そして周りの人がざわめき出す。
「理仁様…王子の…?」
「まさか、ここでお会い出来るなんて!」
その中、男は微動だにせず跪き続けている。
だが、そんな忠誠を捧げられている当の本人は冷たい視線を向ける。
「なに」
「なぜ、このような場所に貴方様がいらっしゃっているのでしょうか?」
「可愛い後輩の様子を見に来たんだよ」
「そこまで私のことを気にして頂いていたなんて…」
と、そこで男が言葉を紡ぐのをやめる。
理仁が今すぐにでも男を殺しそうな気配を出し始めていたからだ。まさに、これこそ殺気というやつだろう。
「誰も君のことなんて気にかけてないよ。正直、ここまで役立たずだとは思わなかったよ」
そこでいったん切り、フンと鼻を鳴らす。
「僕はあくまでも伝えろとしか言ってない!無理やり連れてこいなんて言わなかったよね!!!」
「理仁様の仰る通りです…私の恥ずべき失態です」
「それに、なんだいあれは?」
「あれとはなんでしょうか?」
理仁の問いに問いで返す男。
だが、それはここでは最適な回答ではない。そもそも、問いで返す時点で詰んでいた。
「白斗の実力を知らないとは言え、初見の相手に舐めてかかりすぎだよ!死にたいのか!!」
全く以てその通りだった。
今は昔のように軍隊で圧倒的な力を形成するのではない。
圧倒的な個の力とその数で戦うのだ。
今の戦争は下手したら1人の力でパワーバランスがひっくり返る可能性がある。男のとった行動はまさに自殺するに等しかった。
「理仁先輩、そこまでにしとけって…わかんなかったことは、攻めても仕方ない」
「なんだその口の利き方は!?この無礼者が!!!」
「ええ……」
せっかく庇ったのに何故か罵倒される。
2度とこいつのことを庇ってなんかやるものかと、心の中で白斗は思った。
「口の利き方に気をつけるのは君の方だ。いい加減にしないと君の口をずたずたに引き裂いてあげるけど?」
理仁は幼さが残る顔つきをしているのだが、その顔にはもはや感情は浮かんでいない。怒りという感情以外は。
「しかし!」
「能力、〔王子〕。この者の発言を1時間許可しない」
次の瞬間男から声が上がらなくなる。口は動いているのだが、言葉が出てこない。声帯が機能していないのだ。
「能力か…」
「使いたくなかったけどね」
そういって、茶化すかのように理仁は小さく舌を出す。
今の現象を引き起こしているのは能力というものだ。
これは一般的に世界からの祝福とも言われている。その人が生まれて持つ素質に影響されて内容は決まる。
理仁の場合は〔王子〕。他者に対しての命令権、または支配権を持つ。あまりに圧倒的ではあるが、相手が国王のような発動者よりも上の人だったりすると効果はない。その点を差し引きしても十分過ぎるほどお釣りが出るスキルなのだが、理仁は使う気にはならないらしい。本人曰く、つまらないとのこと。
「まあ、使っちゃったついでで。〔王子〕、この場にいるもの全てに命令する。帰れ」
すると、白斗と理仁以外の人が全員動き出す。みな、帰るのだ。人払いという所か。
そして。
「いや、おかしいよね。白斗」
「なにが?」
「命令対象に君も含まれてるんだけど…」
「命令の行使力が弱いだよ。能力的に」
「使うのあまり好きじゃないとはいえdisられるとなんとも言えなくなるね」
この場合、白斗にも効果が及んではいるのだが、この時発生する精神操作に対しての耐性が高いため不完全に終わった。この通り、能力は完全ではないのだ。
同一のものでも等級があり、それによって性能が変わる。ちなみに理仁の〔王子〕はB+である。
「久しぶりにあって白斗に先制取れたから行けると思ったのにぃ…」
理仁が言ってる先制とは登場する時に白斗の額をデコピンしたことだろう。
「あれはほんとにびっくりした。なんの前触れも無かったから」
「そりゃ、久しぶりに会うんだ、サプライズぐらいはね?てか、話があるからわざわざ来たんだよー」
白斗が素直に言うと理仁は準備したかいがあったといわんばかりにテンションが上がる。よほど嬉しいらしい。
「取り敢えず、家に上がるか?と言ってもなんも出来ねぇけど」
「えー?何でー?」
ぶー、ぶーと理仁が言う。
「いや、そりゃ学校があるからさ」
「行かなくていいよ?」
「へ?」
「今日の朝、学校に申請だして辞めさせたから」
「は?」
「退学」
「何してくれてんのぉぉぉぉお!?」
白斗の叫び声が虚しく住宅街で木霊した。
うぅ、ヒロイン出すまでが長い……。