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この世界  作者: 林 広正
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宇宙人来襲


   宇宙人来襲


 隊長は声もなくその場で倒れてしまったんだ。眉間には穴が開き、赤い血が流れ出ていた。なんだか血糊のようでリアルを感じられなかった。

 その場がまた騒がしくなった。遠くから砂埃が近づいてくる。空には戦闘機と、ヘリコプターが近づいてきていた。

 大砲やミサイルが円盤に向けて発射された。けれどやはり、無意味だった。戦車の陰からは隊員たちが武器を手に走っている。発射されたライフルの弾は、数人の宇宙人の頭を貫いたけれど、すぐに別の宇宙人の手によって倒されてしまった。宇宙人は指の先からピンクの光を出して攻撃をしていた。隊員たちは逃げ出すことをせず精一杯に戦っていたよ。けれど数分も耐え切ることが出来ず、全滅していた。またすぐに、静かになってしまったんだ。あなたは恐怖を感じる静けさがあるのを知っているかい?

「君は戦わないのか?」

 宇宙人の一人が僕に近づいてきた。破られた静けさ。けれど恐怖はそのままに残されていた。その宇宙人に口はない。その声も、耳には届いていなかった。死神の言葉のように頭の中に直接響いてきたんだ。

「この星の生き物は野蛮だ。けれどこの自然は美しい。以前から欲しいと思っていた。こんなことになる前に襲うべきだった。美しいこの星を滅茶苦茶にしているのは、君なのか?」

「どうして? この星をずっと見ていた? それならどうして? この星が好きなのなら、降りてくればよかったんだ。交流の道を選べば、この星も変わることが出来たはずだ!」

 自分の台詞だけれど、よくもそんな言葉が口から出てきたと不思議に感じるよ。それも真顔で叫んでいたんだから笑えてくるよな。

「私たちは何度も接触を試みた。けれど君たちは、野蛮過ぎる。そして少し、複雑だ」

「いつからこの星に? なにが目的なんだ?」

 宇宙人はその大きな眼を真っ直ぐ僕に向けていた。その眼には、吸い込まれてしまうような力があったよ。僕は視線をそむけることが出来ず、足を動かすことも出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。けれど口だけは、よく動いていた。何故だろうな? 恐怖を感じているとき、不安を感じているとき、人はいつだってお喋りになるようだ。

「僕はさっき、宇宙人を見た。君たちの仲間だ。人を平気で殺そうとしていた。それは野蛮とはいわないのか?」

「私たちは身を守るためにはいくらでも戦いをする。相手を殺してしまうこともある。けれどそれは生きていくためだ。それを野蛮とはいわない。自分が生き抜くためには、あらゆる犠牲をも必要とする」

「それは人間も同じだ!」

 このときの僕はどうかしていたんだ。何故だか物凄く興奮をしていた。普段なら口にしない言葉が次か次へと外に吐き出される。きっと、宇宙人が発する未知の力が僕をそうさせたに違いない。というか、そういうことにしておこう。

「本気でそう思うのか? 君たちは無意味な争いをし、無意味な殺生をしている。それが、私たちの調べた事実だ。今でもそうではないか? こうして多くの命を失っているんだ。これを野蛮とはいわないのか?」

「多くは地震で亡くなったんだ。僕たちだって必死に生き残るために戦っている。きっとそうだ! 僕はそう信じている」

「困った方だ。君は真実を歪めようとしている。確かに、人間たちは必死のようだ。野蛮な生き物であることは変わりないが、私たちや敵対する生き物たちに対しては正当な理由で戦っているようでもある。けれど私たちがいいたいのは、人間たちの話ではない」

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