バイトの王子様。
「えーーっと、まず履歴書出してくれる?」
「はい、とくとご拝見ください。」
「いや、そこまで見ないよ。」
「名前は女子和也、本名なの?」
「はい、みんなからはJKと呼ばれています。」
「いや、知らないよ。」
「性別は男ね。」
「はい、意外ですか?」
「いや、妥当だよ。」
「年齢のところ抜けるよ、しっかり書いといてね。」
「はい、ところで何歳に見えますか。」
「いや、その鉄仮面のせいでなにも見えないよ。」
「住所はここから直線二百メートルって、マクドの看板か何かかな。」
「はい、主にそこらへんで夕食は済ましています。」
「いや、話噛み合ってないな。」
「電話番号がフリーダイヤルってなんでなの?」
「はい、母がそこでパートしてるんで。」
「いや、せめてお母さんの携帯電話にしてよ。」
「学歴の東京大学卒業って嘘だよね。」
「はい、やっぱりバレますか。」
「いや、東京大学小学校卒業は流石に気づくよ。」
「職歴はサンタクロースってのも嘘だよね。」
「はい、でも先月愛娘にプレゼント買ってあげました。」
「いや、今四月だよ、あわてんぼうすぎるよ。」
「資格英検八段っていうのも嘘だよね。」
「はい、やっぱり日本語英語の発音でバレますか。」
「いや、段が一番すごいってわけじゃないんだよ、英検は。」
「志望の動機が、店長のテクニックに惚れたってどういうことなの?」
「はい、手の動きに浪曼を感じたので。」
「いや、ただレジ打ってただけだからね。」
「希望記入欄の滑舌に定評があるって本当?」
「はい、早口言葉程度おちゃちゃこさいさいです。」
「いや、今噛んだよね。」
「なんでその服装で着たの?」
「はい、印象よくするために。」
「いや、喪服は印象よくないな。」
「あとその靴も良くないな。」
「はい、いいサイズがなかったので、これはしょうがないです。」
「いや、そりゃあ、歩くたびにピコピコなる靴だからね。」
「じゃあ最後に一言どうぞ。」
「はい・・・・・・」
「いや、何もなかったらいいんだよ、別に。」
「あの、合否発表はいつになるんですか?」
「急いでそうだし、今しようか?」
「はい、助かります。」
「ちなみに、手応えはどうなの?」
「予想通りの質問だったんで、ベストは出せました。」
「予想できる質問だったら、履歴書書き直して欲しかったな。」
「逆に僕に対してどんな印象ですか?」
「アイデンティティが暴走してるね。」
「それほどでもないですよ。」
「いや、君はそれほどの逸材だよ。」
「急かすようで申し訳ないですが、発表お願いします。」
「ああ、言うよ。」
「ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ。」
「ドキドキうるさいから、ちょっと黙ってくれるかな。」
「言うよ、採用ということで。」
「本当ですか、すごく嬉しいです。」
「涙を出すほど喜ばなくても。」
「はい、二百件連続で不採用だったので。」
「それほど落ちても屈しないその根性がさらに気に入ったよ。」
「じゃあ、早速今から研修するからこの制服に着替えてきて。」
「はい、初めてなんでマニアックなプレイは勘弁してくださいね。」
「君は研修をなんだと思ってるの。」
「着替え終わりました。」
「おお、思ったよりはやいね。」
「はい、この道二十五年ですから。」
「じゃあ私は、その道三十年かな。」
「まずはここで声だしの練習しようか。」
「いきなりだせって・・・・・・正直僕大きさには自信がありますよ。」
「いや、声の話だよ。」
「はい、知ってますよ。」
「くっ。」
「じゃあ、私に続けて出してみて。」
「店長も出すんですか!?」
「同じ手には引っかからないよ。」
「今度は性的な意味ですよ。」
「くっ。」
「それじゃあいくよ。いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ!!」
「おお、ばっちりだよ。」
「学生時代野球部だったので、声だしは余裕ですよ。」
「あ、そうだったの。」
「はい、百人脱がせのKAZUYAと言われてました。」
「やっぱり、そっちね。」
「まあ、声だしはできてると思うから次のステップへ行こうか。」
「いいともーーー!!」
「おまちしておりまーす。」
「じゃあ次は、商品の補充について説明するね。」
「あ、僕前のバイトでやったことあるので、得意です。」
「あっ、そうなんだ。ちなみに何のバイト?」
「サンタクロースです。」
「娘さんは何を欲したの。」
「一から説明するとね、新しく補充する商品を後ろに置いていくわけ。」
「つまりお客さんは、古いものから取っていくってことですよね。」
「まあ、そうなるよね。」
「結婚でもこのシステム使って欲しいですよね、ねえ店長。」
「女子君、減給ね。」
「まあ詳しいことは、追々説明していくから。」
「アイマム!!」
「そんな険しい顔しなくても、減給は冗談だからね。」
「次は、レジ打ちについて説明するよ。」
「このレジ、家にあるのと同じですので説明は結構です。」
「女子君の家って、店でもやってるの?」
「はい、4LDKです。」
「また話が噛み合わないね。」
「それじゃあ今日はここまでで、シフト決めたいから空いてる日教えて。」
「家にいても呼吸ぐらいしかすることがないので、基本毎日空いてます。」
「変なこと聞いてごめんね。」
「ちなみに今週一杯は研修期間ということで、時給は650円ね。」
「桁一つ多くないですか?」
「いや、合ってるよ。」
「とりあえず、明後日の夜の九時にまた来てくれる?」
「どうしてもですか?」
「うん、どうしても。」
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