ー目覚めー
登場人物紹介
日名 礼・・・人嫌いで物静かな少女。“07事件”に巻きこまれる。茶道や薙刀を余暇に興するなど、和に精通している。
青井 唯・・・礼の親友で同じ高校に通う、礼とは対照的な明るい雰囲気を持つ少女。礼と同じく“07事件”に巻きこまれる。
警備会社側
橘 澪・・・とある警備会社の警備員。日本で最初の“07事件”被害者が発生した日、災害に巻きこまれた礼と唯を救助する。
立川 陸嗣・・・澪の所属する警備会社のアテナ分隊分隊長。任務は鉄道の駅と、そこに併設されたショッピングモールの警備及び監視。
マシュー、悠斗、長谷川・・・澪と同じくアテナ分隊の隊員。長谷川と立川を除いた三人は高校生である。他にも隊員は数名いる。
マシューは英国と日本のハーフである。
2011.08.xx
辺りが燃えていた。赤々と光りを放つ火焔が、屋敷の床、壁、天井を舐める。
誰一人として、その炎の侵食を阻む者はなく、瞬く間に凶悪的なその熱は、周囲の日常の光景を呑み込んでいく。
少女は、腕の中の死体を抱え起こした。
このままこの火焔地獄の餌食になるのは御免だった。そのまま廊下を直進し、戸外へと向かう。屋敷の外に達したところで、助かる見込みは無いのだが。
身体は既に、内臓に深く突き立ったナイフの傷による大量出血で、その活動を終えようとしていた。
事実、庭先に到達すると同時に倒れ込む。
まるで鉛を流し込まれたかのように、身体が重たい。
横たわる自分の目に映る、燃え盛った建物は眩く、目の霞みも手伝って幻想的に感じられる。
人が訪れる事のない、深い森の奥に廃墟として居場所を構える屋敷と、自分の腕の中で眠るように安らかな表情をしている死体は、自分を仲間に誘っている。
地獄のような屋敷から伸びる、数々の誘いの手が、自分の心を魅了している。心身共に、疲労し、傷ついた自分にとって死と言うものは褒美のようにも思えた。
そこに、一つの影が目に入った。燃え上がる屋敷を背景に立っているその人物の顔はよくわからない。
しかし、炎が激しさを増す中でその明かりが照らし出した表情は、悲しみに濡れていたように、薄れていく意識の中でそう感じた…
2011.07.20.
最近は嫌な夢ばかり見る。そのせいで朝はめっきり機嫌も悪くなり、(とは言うものの自覚はなく、友人の談)登校中の同行者であるこの青井唯をしばしば退屈させている。
「礼ってさぁ、なんか最近冷たくなったよね?」
「気のせいでは?私はいつも通りに登校し、いつも通りに無理矢理貴女の相手をさせられているだけです。」
「ほらぁ、またそういう事言うっ!もしかして私の事嫌いになっちゃった…?」
「…。」
「どうしてそこで黙るのよっ!?」
そう言い、唯は頬を膨らませる。
私は人や動物が苦手で(猫は例外)、別段それを克服しようとも思っていないのだが、クラスでいつも独りでいると、同じように学校に自分の居場所を見出せずにいた唯に絡まれるようになった。
結果、高校に入学してから一学期終盤の今日まで、いつもベタベタとされている。
「あっ、そんな事より!明日から夏休みだし、また近い内に礼の家に泊まりに行っていい?」
「…構いませんが、私は奈良の方の神社に帰りますよ?」
「へっ、奈良…?あぁ!そう言えば礼って神社の巫女さんだったよね?ついでに肝試しできちゃうかも!」
「私の神社には悪霊も何もいません。」
と、少々失礼な発言をした唯にそう言い放つ。
別に気にしてはいないが。
「えー、夢がないなぁ…。」
霊に夢を抱く方が変だ、と私は思った。
このようなやりとりを続けている内に、学校前へと到着する。
校門の前には警備員が立っているが、先月までいた気のいい年配の男の人は消え、代わりに今は若く、屈強そうな人間が、腰に“拳銃”をぶら下げて立っている。
ただの警備会社の人間が銃を所持しているなど、数年前までの日本なら考えられない事だが、近年は合衆国の同時多発自爆テロや、この国での地下鉄化学兵器テロ事件に始まり、テロリストや宗教崇拝者、過激思想家による無差別テロが増えたことによって法律が改定されたのだ。
今では全国の駅、空港、大企業、病院など、いたる所で銃を持った警備員を見る事ができる。
「何か、警備員のおじさんが代わっただけで1日の学校生活が余計に窮屈になった気がするー…。」
そう言いながら、唯と私は金属を探知するゲートをくぐる。
危険物を所持している事を示す警告音に邪魔される事もなく、二人でゲートを抜けた。
一学期最後の学校生活が始まる。
明日からは夏休み。
部活もしておらず、定期テストの欠点による補習も無い私は、これからの長期休暇をいかに有意義なものにするかを考えていた。
最初は少し短く纏めて見ました!
是非、感想などありましたら聞かせて下さい!