表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第五篇

 それほど走った覚えはないが、随分と離れてしまった。

 バイパーも移動しながら戦っている。距離が開くのは当然といえばそうか。

 彼の銃が吼える度に、一人、また一人と倒れていく。

 だが、いかんせん数が多い。あのままでは、囲まれてハチの巣だ。

 助けに行こうと足を進めた……が、止められた。

 バイパーの手が制止のサインをだしていた。帽子のつばで口しか見えなかったが、


「すぐ終わる」


 ――と言ったように見えた。笑っていた。

 そんな矢先に、

「もらったー!」

 バイパーが通り過ぎた茂みから、手斧を振りかぶった男が飛び出した。

 バイパーは銃を向けたが、様子がおかしい。

 弾丸がないのだろうか。

(ヤバイ!!)

 思わず口に出しかけた時、

「ぐわっ!?」

 手斧の男が吹っ飛んだ。

 空いた手で殴ったのだろうか。しかし、間合いが遠すぎる。

 何をぶつけたのだろうか。目を凝らすと、左の裾から何か垂れている。

(鎖……か?)

 さらに目を凝らそうとすると、垂れていたものは彼の腕の振りにつられて、うねりを上げた。

 その独特な金属音は、鎖に間違いなかった。

「うわ!?」

 バイパーに向かっていた集団の一人が鎖に捕らえられる。鎖を手足のように動かすその技術に驚いた。

(だが、一人を封じても――)

 案の定、他の男たちがバイパーめがけて引き金を引く。

 しかし、バイパーはその銃声にひるむことなく、勢いよく鎖を引いた。

 全身の力で引かれた鎖は、絡めた男を引っ張りだすと、

「ぐわあー!!」


 男は遠心力で振り回され、他の男達にぶつけられる。


「がはっ……!」

「あひぃー!!」

 まるで鎖がま……分銅が少々大きいが、だからこその威力は凄まじく、バイパーは周囲の敵を一掃してしまった。

 分銅にされた男は、用が済むと鎖を解かれた。

 やっと自由になったその身は所々骨折しているらしく、悶絶しているようだ。バイパーに牙を剥く様子すら見えない。

(ムゴい戦い方をする……)

 彼はよっぽど乱戦、対集団戦に慣れているのだろう。

「さて……そこのアンタら二人」

 少し離れた男達に呼びかける。

 二人とも体が震えた。

「残ってるのはアンタらだけだが……まだやるかい?」

 尋ねると、二人は黙って銃を落とした。降参らしい。

「今夜で組織は終わる。新しい場所を探すんだね」

 言い捨てると屋敷に向か――


 ナイフを投げた。


 男の懐から銃が落ち、それを追うように彼も地に伏した。

 もう一人を睨むと両手を挙げた。完全に戦意を喪失している。

「投剣のヨフィエル。その名を知らなかったのがテメエらの敗因だ」

(知ってりゃ、無駄な血を流すこともなかっただろうに)

 胸中で舌打ちすると、その場を後にした。


 バイパーの乗ってきた車の残骸を横目に、屋敷の内部に入る。

 大理石の柱。

 絨毯。

 絵画。

 シャンデリア。

 目に付く全ての、高価かつ悪趣味な調度品たちは、ことごとく破壊されていた。まるで台風の後だ。

 横たわった死体をまたぎ、瓦礫を避けながら、向かうのは階段。嵐の後を追う。

 しかし、こんなに苦もなく先に進めるとはな。

 一枚かませろと言った手前、色々と申し訳ない。

 これだったら、依頼の時に何も言わず、後から……待てよ。


 そういや、アイツはなんでオレに捜査の依頼なんてしたんだ。


 『待て葉』のマスターに聞けば、すぐに分かる事じゃないか。ひょっとしたら、オレを関わらせる事自体が目的なのか?

(でも、それじゃアイツのメリットは何だ?)

 バイパーが何かの依頼のついでというなら、やり方がまどろっこしすぎる。考えると混乱してきた。

(考えるのは後だ。この一件を済ませば、何かがわかるだろう)

 気持ちを切り替え、再びバイパーを追った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ