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12 若さには勝てない

小林君はさも当然のように「日向丘中」と書いてきたけれど、私の記憶の中にそんな中学校はない。どうせ中高一貫校だろうとあたりをつけながらパソコンで検索をすると、案の定ビンゴだった。

学校案内のページを見るだに、なかなか設備が整ったところのようだ。高校はいいにせよ、中学でこの充実っぷりはちょっとずるい。

夏は死にそうなほど暑く、冬はストーブから離れた席ほど凍えそうになるのが普通の中学校でしょう!?それともあれは私のところだけとか!?


そういえば、最近は温暖化がどうこうとかで、市立でもクーラーがついたという話を聞いた記憶がある。温暖化許すまじ。学校も緑のカーテンでしのぎなさい。クーラーも結構電力くうんだから。


エアコンを使うなとは言わない。実際、エアコンの使用をためらったお年寄りが、熱中症で何人も亡くなっているのも知っている。私自身もクーラーの恩恵にあずかっている一人だ。

ただ、日中はできるだけ、公共の施設か商業施設で過ごすようにしていた。自分一人のためだけに電気代を上げるのはもったいないし、課題も図書館でした方がはかどるのだ。……色々な誘惑がないおかげで。

夜は夜で、できる限り窓を全開にして寝るようにしていた。真夏はさすがにクーラーを使うが、案外しのげるものだ。


というわけで。



「エアコン付きの中学とか許せない」



軟弱者め!!



アクセスのページを印刷した瞬間にウィンドウを閉じて、滅べ待遇の良すぎる中学生と呪いを送っておいた。冷房のききすぎでお腹を下してしまえ。









日向丘中学校は、駅から徒歩15分ほどの急な坂道の上にあった。バスを使うには近すぎるけれど、推定20度の傾斜はきつすぎる。学生は毎日ここを上り下りしているのか?中高生すごい。中高生すごすぎる。10代のパワーなめてた。

校門の前で一旦立ち止まり、べたつく汗をハンカチで拭う。ポニーテールにしてきて正解だった……。これでハーフアップとかだったら、絶対あせもになっていた。面倒だからと伸ばしっぱなしにしていた髪に感謝。


中高一貫なだけあって、校内は建物が多かった。なんで校舎が3つもあるの?普通は1つで充分だろうに。

警備のおじさんにサッカーグラウンド(普通のグラウンドじゃなかった時点で、なんかもう色々諦めた)にたどり着くと、男の子達の熱気であふれかえっていた。なんかもう、若さが満ちあふれている。スポーツって若者の特権だよね、私もまだ若い範疇に入るけれど。

17歳とか16歳とか、それぐらいで世界の頂点に立つ人も珍しくない。活躍するスポーツ選手を見る度に、選手生命が続くうちにがっぽり貯めこまなきゃ後々厳しいだろうと思ってしまう私は、やっぱりすれているんだろうか。


緑が映えるラフグラウンド(サッカーでもラフと言うのかはわからないけれど、少なくともテニスではそう言っていた記憶がある)を駆け回る、二色のユニフォーム達。その中の一人がこちらを見た気がしたけれど、きっと気のせいだろう。うん、気のせいだ。

ぶんぶん腕を振っているのは、きっとだるくなったんだろう。運動をすると、思わぬところが疲れることもあるし。ほら、ディフェンスとかとの攻防とかで。サッカーはよく知らないけれど。よくイエローカードとかの時に激しくもみ合っていたりするし。

見たことのある顔のようにも思うけれど、それこそ見間違いだろう。人差し指くらいの大きさで、知り合いかどうかなんて判断できるわけがない。


うん、とりあえず、日陰に行こう。暑い、溶ける。


グラウンドから少し離れたところに木陰のベンチを見つけ、腰を落ち着けたところで扇子を取り出す。

うちわよりもやっぱり扇子だ、扇子。持ち運びは断然こっちの方が楽だ。もちろん優雅になんて無理だから、遠慮なくばっさばっさと扇ぎますとも。

マイボトルからよく冷えた麦茶を飲んで、ハンカチで吹き出た汗を一通り拭って。ようやく落ち着いてグラウンドに目を向けると、何となく選手の顔が見分けられるようになった。


小林君は敵陣の中で、激しく競り合っている。明るめの髪は、誰一人染めていないグラウンドの中では見つけやすかった。

さて蓮君はと見回してみても、何故か見つけられない。小林君よりもずっと見慣れているはずなのに、どうしてだろうか。まさか控えとか。いやいや、小林君がそこまで性格が悪いとは思えない。

目を凝らしながらしばらく、唐突に気がついた。


…………小林君とペアになるように切り込み隊長をしている子、あれ、蓮君じゃなかろうか。


普段からは想像もつかないほど力強く、ボールを守りながら競り合っている。相手の選手と激しくぶつかっても、足下のボールは奪われていない。

時折パスを回しては、また足下に引き寄せて。ゴールは目の前、けれど相手もたくさんいる、そんな中脚を振り上げて。



「――シュートしないんかい!」



てっきりそのままいくのだと思っていたら、直前で小林君へと速いパス。小林君はワンクッションおくこともなく、鮮やかにシュートを決めた。なるほど、陽動か。しかし目立つ陽動だ。いや、だからこその陽動なのか?


いかん、陽動がゲシュタルト崩壊しそうだ。そもそも陽動の意味からしてわからなくなってきた。

……よし。一旦保留で。それにつけてもいもけんぴうめぇ。

コンビニで買ったいもけんぴは素朴な甘さで、麦茶と共に私を癒してくれた。ええ。逃避ですが、何か?



「こーはーるーさーん!!俺の華麗なシュふごっ!!」

「うるさい黙れこの野郎」



はいはいはいはい、聞こえない。

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