10 空気読めよ、友人
思いっきり歌ってストレス発散、しかも愛しの彼でエネルギーも充電。
気分上々でぶらぶらしていたら、思いがけない声に呼び止められた。
「――小春さん?」
ぎしりと身体が音を立てた気がした。思いっきり浮かれていたから、反応も大きくなってしまう。
くそっ、油断してた!知らんぷりでスルーすればよかった!!
内心汗だらだらの私に気づかず、奈緒が黄色い声を上げた。
「やだ、河野君!?」
奈緒、少しは私の様子にも気がついてくれ。そりゃ、蓮君は私好みの美少年だけれど、三次元に手を伸ばすほど人間捨ててはいない。
喜々として蓮君に近寄る奈緒。あの子も美形好きだから、ショタとはいえ蓮君は将来有望株なんだろう。
まあ、最近きっちり彼氏を作ったんだけれど。
微妙に理不尽だ。奈緒にできて何故私にはできない。顔も性格も、レベルは一緒だぞ。
早く立ち去りたいと念じながら二人のやりとりを見ていたら、彼の横にいた見知らぬ男の子が近寄ってきた。蓮君と同じ制服なのを見ると、クラスメイトか友達か。
残念ながら美少年ではないけれど、元気いっぱいという感じの顔をしている。
「お姉さんが、小春さん?」
「え、あ、うん。ええと、君は?」
好奇心いっぱいの瞳。どことなく、犬を彷彿とさせる。
こういうのだよ!本物の14歳ってこういうのだよ!!蓮君が規格外なんだよ!!
やっぱり子供は可愛いものだ。ショタとかロリとかそういうのはなしで、無邪気な子供は見ていて癒される。
……まあ、14歳くらいになると、子供扱いされるのはすごく嫌だろうけれど。私だったらガン飛ばしていた。
「小林!蓮から小春さんのこと、色々聞いてる!」
「色々?」
「年上なのに意外と可愛いとか、会話が早いから楽だとか、おしゃれにも結構敏感だとか、時々髪巻いてんのが色っぽいとか、うなじが」
「おいタク!何やってんだよ!」
小林君のなかなか興味深い証言に聞き入っていたら、不機嫌そうな蓮君にぶった切られた。小林君も不満そうに口をとがらせている。
「いいじゃんか、別に。けど、さすがに大人!って感じだよなー、小春さん」
「どこが?」
「は?いや、ふつーに大人じゃん?」
落ち着いてるし、綺麗だし、なんつーの?雰囲気が。
ごく一般的だろう感想を述べてくれる小林君を、蓮君が鼻で笑う。友達の前でもそんななのか、君は。そのうち友達いなくなるぞ。
「……ま、いいか。行こう」
「へーいへい。あ、小春さん!」
ぐいぐいと引っ張られていく小林君が、その手を振り払って駆け寄ってきた。首を傾げながらこちらも近づくと、小声で耳打ちされる。
「来週の土曜、俺達試合出るんだ!後で場所送るから来てよ」
「え?試合?場所?」
「ほら、行くぞ!」
「あー、小春さーん!」
名残惜しそうなドップラー音が小林君から聞こえてきて、思わず奈緒と顔を見合わせて吹き出してしまった。
「何ていうか……でこぼこコンビだねえ」
「本当に真逆だねえ、あの二人。だから仲がいいのか?」
「足りないところを補い合う的な?」
「そそ。……で、最後。なんて言われてたの?」
急ににやけた奈緒に小突かれる。ちょっといやかなり痛い。
そんなにたいしたことは言われていないと言いかけて、最後の言葉に引っかかった。
「……ねえ、奈緒。メアドも何も知らない相手に、連絡なんてできないよね?」
「はあ?いやうん、そうだけどさ」
「私、小林君と会ったことあったかな――?」
独り言は本当に小さな呟きで、奈緒には聞こえなかったようだ。首を傾げられたのにかぶりを振って、さてどうだったかと脳内を検索する。
(当然ながら)それらしき相手は引っかからず、結局謎は謎のままだった。
お久しぶりです。遅々とした更新で申し訳ありません…!
この二人のこんなエピソードが読みたいなどリクエストがありましたら、是非お力添えください。
方向性の参考になりますし、なによりもネタがげふんげふん!!すみません何でもありません。