1 三次元にまで持ち込むほどオタクじゃない
「ああ……やっぱり美少年はいいわぁ。美青年もすごく魅力的だけど、成長期の中性的な美少年、たまらないわぁ……」
最近のお気に入りは、ボーカロイドの金髪の少年。女の人が元の声を当ててるから、本当に中性的な声なんだよね。
しかもネット上ではヘタレが基本装備だから、こんなにおいしい子はいない。
まあ、どんなキャラ設定でも、美形ってだけでおいしいんだけど。
大好きな絵師さんが無料配布してた彼の待ち受けを見ながら吐息をもらすと、横から容赦ない一言が飛んできた。
「あんたってほんっっっと残念だよね。見た目はそこそこなのに」
「うるさいな、三次元は見て愛でるだけだから問題ないでしょ」
うん、まあ彼氏はいたこともありましたよ?もちろんイケメンじゃなくて、そこそこである私に釣り合ったレベルの顔でしたよ?
放置しすぎて浮気されたけど。気づいても放置してました、すいません。
1週間に1回会うとか無理です。1ヶ月に1回で充分じゃない?休みの日ぐらいゆっくりさせてください。
最終的には私が振られた形になったけど、半年会ってない時点で自然消滅だとばかり思っていましたよ。
二次元は好きな時に好きなだけ愛でられるから、ほんと私にぴったりだよね、うん。
「奈緒も彼氏いないじゃない」
「今はね。小春みたいに彼氏いない歴=ほぼ年齢じゃないもの」
「……いいよね、もてる女は」
「もててるわけじゃないって。特別美人でもないでしょ、私」
「うん」
「即答するな」
素直にうなずいたら、脳天にチョップをくらった。地味に痛い。
本当のことなのに。
「それにしても……」
眉間に皺を寄せた奈緒と一緒に、私も同じように重いため息をつく。
「沙耶の誕生日、どうするよ」
「言わないで……お願い言わないで……せっかく逃避してたのに」
「私だって逃避したいよ。でもさ、私達って沙耶みたいにドレス持ってないじゃん?」
奈緒の言う通りだった。
大学に入ってから仲良くなった、私達。
沙耶はブランドで身を固めてるわけでもないし、派手なアクセサリーをつけているわけでもない。
だから、誕生日に家に来てくれないかと言われた時、私達はいいよとうなずいたのだ。
沙耶の家は一人暮らしのマンションだし、何度も遊びに行っていたから、そこでぼっち同士女3人で仲良く騒ぐのだと思って。
それがまさか、彼女が結構な歴史とブランド名を持つ会社の社長令嬢で、実家で盛大に開かれる社交界パーティーだったなんて、一体誰が想像するものか。
「レンタルするわ……」
「うん、私も。沙耶に借りてもいいんだけどねえ……」
「大丈夫、小春の言いたいことはよくわかる」
可憐で可愛らしくて、誰から見ても守ってあげたい美少女。
そんな沙耶のために作られたドレスなんぞ、私達に似合うはずもない。
悔しくも何ともないけど、沙耶の純粋なる好意を断るのだけはばつが悪かった。
沙耶は私達2人のアイドルだからなあ。可愛し、優しいし。
そんじょそこらの男が寄りつかないようにするためにも、今回のパーティーは参加必須だ。金持ちの男なんて、大体が性格ひん曲がってるに決まってる!
「ま、あと1週間あるし?プレゼントはフライングで前日にあげちゃおっか」
「だね。どうせ当日に渡せる暇も勇気もないし」
肩をすくめた奈緒は、話は終わりとばかりに立ち上がる。
「帰る?」
「うん。もうすぐタイムバーゲン」
「うわ、もうそんな時間か」
見送りついでに買い出しに出るべく、私も財布と携帯だけ入れたサブバッグを手に取った。
マンションの前まで奈緒を送って。
「んじゃ、頑張ろうね」
「お互いね」
苦笑しあって、左右に別れた。
********
ドレスはネットで検索したお店で、そこそこの値段で高そうに見える、見栄えのいいターコイズのものにした。
肩が完全に開いているタイプのもの(何て言うのかは忘れた)だからヌーブラをつけないといけないのが面倒だけれど、まあそこは我慢。
どうせ上からボレロを羽織るんだし、多少失敗しても大丈夫なはずだ。うん、多分。
パンプスは成人式の時の同窓会で使ったものを流用。バッグも流用。小物類だけはしっかりしたものを買っておいてよかった……。
ネックレスとイヤリングは、お母さんが作ったビーズのものを流用。
いや、ビーズって侮れないよ。高○屋とかに入ってるジュエリーブランドだって、ビーズ製のものがたくさんあるんだもの。
しかもお母さん、凝り性で何年も続けてるもんだから、下手な商品よりもずっと見栄えがいい。多分、ブランドものですって言ったら、1万円ぐらいは値段がつくと思う。
まあもちろん、材料費もそれなりにかかってるわけですが。
でもね、材料の元値を知っちゃったら、既製品を買うのは馬鹿馬鹿しくなるんですよ。お母さんにイメージが伝わるように写メだけ撮って、後はお任せにすれば大抵私好みの配色になって返ってくるし。
というわけで、ビーズアクセは全く恥ずかしくない。
姿見でざっと全身をチェックして、服に乱れがないのを確認してから、美容院に向かって髪のセットをしてもらった。
結婚式ですかと笑顔で訊かれて、微妙にひきつった笑顔でうなずいたのは仕方がないだろう。
さて。
「見栄えするね。綺麗だよ、奈緒」
「あんたもね。お互い、着飾ればそれなりということで」
待ち合わせ場所で顔を合わせた瞬間にお互いをチェックして、その健闘を褒めたたえ合う。我ながら、私も奈緒もよく化けたものだ。
沙耶の家からの迎えの車を待ちつつ、沙耶につきまとうであろう男共を思い浮かべて、握り拳をぶつけ合った。