伝説武具のメンテ担当の画策
「いいですか、エドワード。我々が守っているのは単なる『伝説の武具』ではありません。王国の存続と、それ以上に……メンテナンスコストの削減ですよ!」
古びた石造りの倉庫に、中年の悲痛な叫びが響いく。
倉庫番の長、ゴードンである。彼は手元の羊皮紙を叩きつけ、新人であるエドワードを睨みつけた。
「すみません、ゴードンさん。しかし、なぜ聖剣が『研磨剤の質が悪い』とストライキを起こすんですか? 剣ですよね?」
エドワードは引きつった笑顔で問い返す。エドワードの仕事は、騎士団や冒険者たちに伝説の武具を貸し出し、帰還後にそのメンテナンスを行うことだ。しかし、この国の伝説の武具たちは、総じて性格に難があった。
「いいか、聖剣エクスカリバーJrは、最高級のオリーブオイルで拭かないと錆びると言いはるんだ。こないだなんか、担当者がラードで拭いたら鞘の中で『油臭い!』と叫び続けて、一晩中近隣住民が眠れなかったんだぞ」
「そんな……。剣なのに」
「あいつらは『伝説』という看板を背負っているせいで、プライドが天元突破しているんだ。他にも見てみろ」
ゴードンは倉庫の奥を指さした。そこには、ただならぬオーラを放つ武具たちが並んでいる。
【嫉妬の聖盾】: 傷がつくと『もっと綺麗に扱え!』と持ち主を罵倒する。ちなみに、守備力は高いが持ち主の精神を削る。
【沈黙の弓】: 射る瞬間に『今から行くぞ』と大声で叫ぶ。ステルス機能は皆無。
【食いしん坊の兜】: 被るたびに持ち主の昼食を少しずつ吸い取る。
「エドワード、今日のシフトは一番の難物だ。あの『暴君のフレイル』の機嫌を直しておけ。借り主である若手騎士が『威圧感がはんぱない』と泣きついてきている」
エドワードは重い溜息をつき、鎖のついた鉄球――暴君のフレイルの元へ向かった。
フレイルは倉庫の片隅で、ふてくされたように鉄の鎖を丸めていた。
「フレイル、機嫌を直してくれ。お前の借り主が困っているんだ」
フレイルは鉄の球体をゴロゴロと転がし、低い金属音で唸った。
『……俺は暴君だ。誰が雑魚騎士の振り回すおもちゃになんぞなるか。俺が振るわれるなら、せめて歴史の教科書に載るような凄惨な戦場でなくてはならん』
「凄惨な戦場なんて、今は平和だからないんだよ。せいぜいゴブリンの巣を掃除するくらいだ」
『ゴブリンだと? この俺が、鼻をほじりながら鼻歌を歌うような下級魔物に触れろと言うのか! プライドが許さん!』
エドワードは膝をつき、必死に説得を試みた。これが彼の日課だ。伝説の武具たちの「武人としての矜持」と「現代の平和な事情」のギャップを埋める、命がけの交渉である。
その日の午後、事件は起きた。
『食いしん坊の兜』が隙をついて倉庫から逃げ出したのだ。理由は簡単。『もっと豪華な食事がしたい』というものだった。
「まずい! 兜が王都の高級レストランに向かっている!」
ゴードンが叫ぶ。兜が暴走すれば、王都の食料事情は大パニックだ。エドワードは慌てて他の武具たちを連れ追跡を開始した。
「大変だ、みんな! 兜を止めるぞ!」
だが、伝説の武具たちは協調性がゼロだった。
『俺は行かない。今の服装に合わない』と『聖なるマント』が拒否し、『あいつはあいつで腹を空かせているんだ、放っておけ』と『暴君のフレイル』が冷ややかに笑う。
エドワードは叫んだ。
「お前たち! 兜が捕まって『安物の研磨剤(洗剤)』で洗われることになってもいいのか!」
その瞬間、空気は凍りついた。武具たちは一斉に震え上がった。安物の研磨剤(洗剤)は、彼らにとっての拷問である。
王都のメインストリートを、空飛ぶ兜が爆走していた。
兜は通りすがりの貴族のランチを吸い取りながら、『もっと旨いものをよこせ!』と騒いでいる。
エドワードは、武具たちを担いで走り回る。
「聖盾! あの兜の動きを封じてくれ!」
『聖なる盾』は文句を言いながらも、自ら空中へ飛び出し、兜の行く手を阻んだ。しかし、盾は反射的に『兜!ぶつかる気?!私に少しでも傷付けたらどうなるか分かっているの!?』と叫び、逆に兜の怒りを買った。
街の人々は、空中で武器同士が罵り合っている光景を唖然と見守っていた。
「伝説の……武具の……喧嘩?」
「あいつら、意外と語彙力あるな」
エドワードの決死の説得により、兜はようやく回収され
その日の夜、倉庫は再び静寂を取り戻した。
ゴードンが満足げに頷く。
「よくやった、エドワード。今日で君も一人前だ」
「もう嫌です……。あの盾、今朝から『盾としての誇りが傷ついた』とか言ってシクシク泣いているんですよ」
「それがこの仕事の醍醐味さ」
エドワードは、自分の机に座り、冷めた紅茶を啜った。
壁には、英雄たちが残した輝かしい武具が並んでいる。一見すると壮大な光景だが、その中身は、思春期の子供を数十人抱えているようなものだ。
明日は『沈黙の弓』が『もっと静かなところで寝たい』と騒ぎ出すだろう。
エドワードは、ふと遠くの空を見上げた。魔王を倒した英雄たちが羨ましい。彼らは武具を置き、伝説の物語を閉じたのだから。
「……僕も明日から、武具のメンテナンス係じゃなくて、ただのパン屋に転職しようかな」
そう呟いたエドワードの声に、棚の奥の『聖なる剣』がピクリと反応し、小さな声で言った。
『パン屋? 悪くないな。俺の柄に小麦粉をつけないことを条件に許可してやる』
エドワードは顔を覆い、深く、深く溜息をついた。
伝説との戦いは、まだ終わりそうにない。
「いいですか、エドワード。我々が守っているのは単なる『伝説の武具』ではありません。王国の存続と、それ以上に……メンテナンスコストの削減ですよ!」
毎日古びた石造りの武器庫に、責任者であるゴードンの悲痛な叫びが響いく。
倉庫番のエドワードは、目の前でボイコットを起こしている『聖剣エクスカリバーJr』を眺めながら、遠い目をした。
「すみません、ゴードンさん。もう限界です。この剣、昨夜から『油の銘柄が違う』って鞘の中で大泣きして、金属疲労を起こしかけてるんです。僕、もう辞めます」
「バカを言うな! お前が辞めたら、誰が『食いしん坊の兜』に栄養剤を点滴し、『沈黙の弓』に防音イヤマフを装着するんだ?」
ゴードンはエドワードの肩をガシガシと揺さぶったが、エドワードの決意は固かった。彼はすでに転職サイト『伝説のハローワーク』で、パン屋の求人を見つけていたのだ。
エドワードは重い足取りで、『暴君のフレイル』の安置場所へ向かった。
フレイルは巨大な鉄球のくせに、極度の甘えん坊である。
「フレイル、僕、ここを辞めるんだ」
『……なんだと? 俺を捨てて、パンの生地でも捏ねに行くつもりか?』
フレイルは鎖を器用に動かし、エドワードの足を絡め取った。
『俺は暴君だぞ。俺を放置すれば、この王都の平和なんて一瞬で吹き飛ぶ。俺が退屈しのぎに隣の国の城壁を粉砕してもいいのか?』
「それ、器物損壊と国際問題だよ」
エドワードは冷静に突っ込んだ。伝説の武具たちは、権能と引き換えに、常識をどこかに置いてきたらしい。
翌朝。エドワードが退職届をゴードンの机に置こうとした瞬間、武器庫の執務室扉が勝手にロックされた。
『おい、エドワード! どこへ行くつもりだ!』
空中に浮遊した『聖なるマント』が、エドワードの首に巻きついた。
『お前がいなくなったら、俺の繊細な刺繍を誰が手入れするんだ? 貴族の令嬢にも負けない美しさを維持しているのは、お前の丁寧な刺繍とアイロンのおかげなのに!』
続いて『嫉妬の聖盾』が割り込む。
『そうよ! あんたが辞めるなんて、私に対する当てつけ? 私はお前じゃないと綺麗に磨けないのよ! 別の奴が磨いたら、呪いかけてやるから!』
執務室内は、武具たちの『俺を私を放置するな』という悲痛な(そして騒々しい)絶叫で満たされた。
エドワードは耳を塞ぎながら叫んだ。
「お前ら、いい加減にしてくれ! 僕は人間なんだ! 一日三食食べて、ちゃんと寝ないと、胃痛で倒れて、ストレスで禿げそうなんだよ!」
その時、執務室の扉を突き破って、騎士団団長が入ってきた。
「緊急だ! 倉庫番! 伝説の武具たちを! 魔獣の大群が国境に現れた!」
エドワードは一瞬だけ、悪魔のような閃きを得た。
「団長! 武具の貸し出しは受け付けますが、一つ条件があります」
「なんだ! 報酬か?」
「いいえ。『戦いが終わったら、この武具たちを一度解体して、調理器具にしてください』」
武具たちが一斉に沈黙した。
『調理器具……?』
「そう。聖剣は包丁に、盾はまな板に、フレイルは肉叩きに。兜は鍋に。これなら一生、食事に関われるし、お前たちも『伝説の料理器具』として第二の人生を送れるだろう?」
武具たちは凍りついた。包丁にされる? 毎日ニンニクのみじん切りにされる?まな板にされる?肉叩きに?
それは『武具としての誇り』を持つ彼らにとっては、最大の恐怖だった。
数時間後。
戦場から戻ってきたのは、驚くほど大人しくなった武具たちだった。
彼らはもう、油の銘柄を文句言ったり、嫉妬したりすることはない。
エドワードが近づくと、聖剣が小声で囁いた。
『……エドワード、パン屋に行かなくてもいい。俺が、代わりに磨いてやる。だから、包丁にだけはしないでくれ……』
エドワードはニッコリと微笑んだ。
「ああ、わかったよ。じゃあ、明日の朝までに全員ピカピカにしておいてね」
『……はい』
倉庫番の仕事は、今日も平和(という名の支配)の中に続いている。
エドワードは冷めた紅茶を啜りながら、伝説の武具たちを従えて満足げに頷いた。
彼は気づいていたのだ。伝説の武具を支配するコツは、彼らの誇りを尊重することではなく、彼らが最も恐れる「平凡な日常の道具」に変えてやると脅すことだと。
エドワードの胃の痛みは、少しだけ和らいだようだった。
ただし、明日には『食いしん坊の兜』が「お昼のパンの耳をよこせ」と騒ぎ出すことを、彼はまだ知らない。
伝説の武具を扱う際は、武力ではなく、心の脆さ(と転職の求人)を突くのが最も効果的である。
「さあ、みんな。次は『沈黙の弓』の弦の調整だ。静かにやらないと、また調理器具の話をすることになるよ?」
倉庫中に、武具たちの健気な『はい!』という返事が響き渡った。
王国は今日も、エドワードという男の頭皮と胃の犠牲の上に、平和を保っているのである。
他力本願で申し訳ないですが、こちらはAIを使用しております。一応校正してます。
メンタル激弱なのでお手柔らかにお願いします。




